第26話 テンプレ的に、オーク肉を提供する俺。

 「そ、それでは、壁を確認したいと思いますが」


 息子の言に、JIJY村長が反応した。


 「そうじゃな、カミロ。お前は若い衆3人と一緒に壁を見に行くのじゃ」


 「分かりました。皆、行くぞ!」


 息子の掛け声で、狼煙や鐘鳴らしの要員だった青年団が一斉に走り出した。


 「よしよし、女衆は宴の準備じゃッ! 今日はワシの秘蔵の酒も出すぞいッ!!」


 残った男たちや女たちから歓声が上がった。


 「シンジさん、私たちは街に報告へ行かないといけないのですが」


 アイリスは騎士だ。当然これだけの異変と、その解決の情報なのだから、一刻も早く街に行って報告する必要があるだろう。


 「騎士様、今からですと、途中で夜になってしまいますぞ?」


 確かに、昼前から戦いが始まり、日もだいぶ傾いてもう夕方近い。今からこの村を出たって、すぐに日が暮れるだろう。ノアUMAがいかに規格外になったとはいえ、日が落ちるまでに街にはたどり着けない。


 当然、JIJY村長は止める。当然だろう。魔物が活発化する夜では、いかに騎士でも不覚を取る可能性がある。


 「アイリスさん、今日はしょうがないから、ここに泊めてもらおうよ。明日日が出てすぐに出れば大丈夫でしょ」


 シンジの言葉に、JIJY村長が反応した。


 「き、騎士様はアイリス様とおっしゃるので? 女性騎士でアイリス様と言えば、騎士隊長ランチェスト卿の」


 「あ、はい、妹です」


 シンジもちょっと驚いた。そう言えば、兄がお偉いさんだと言っていた気がする。 


 「おおッ! それは光栄ですじゃ! さすがは騎士隊長の妹姫様、オークの魔物暴走スタンピードを退けてしまわれるとは……ッ!」


 「うんうんそうそう、アイリスさん、逃げようとするオークロードを、後ろからひと突きにして倒しちゃったからねー♪」


 シンジは、この際ちょうどいいからとアイリスを英雄に祭りあげることにした。


 「あ、いや、それはッ! シンジさんがロードを」


 「アイリスさん、これから宴みたいだし、せっかくだから、オーク肉少し提供していい?」


 言いかけるアイリスを、すかさずシンジが口出しして止める。


 「あ、ええ、大丈夫ですよ。討伐証明として、鼻があれば」


 「んじゃ、村長さん、女性陣のいるとこ教えて。オークを提供してくるから。アイリスさんも手伝って♪」


 「あ、いや、あの、誤解を」


 「いーからいーから♪」


 シンジは、勢いでごまかした。




 ◇




 シンジたちは、炊事場になった広場に出向き、アイリスのアイテムバッグから10匹ほどオークを取り出し村の女たちに提供した。喝采を挙げる女性たち。


 それはそうだろう。村人にとってオーク肉などは自分たちではなかなか狩れない。また狩れたとしても、1匹では村人全員には行きわたらない。せいぜい保存食として、ちまちま消化するのが普通だ。それが10匹で食べ放題だ。食べきれないものは、やはり保存食にするらしい。


 シンジは、さらに提供することにした。


 「あ、これ飲む? お酒だけど」


 そう言って、ワイン樽とビール樽、そしてウイスキー瓶を取り出す。男どもがどよめく。


 村の酒と言えばエールが基本で、ワインなどは高級酒になる。上級民の飲み物だ。ウイスキーは見たことが無いはずだ。そのまま大樽を3本、ウイスキーを10本ほど積んだ。


 もちろん、これはシンジがチュートリアル中に造った酒のごくごく一部である。飲み物だけに。


 この地の酒事情は、世界大百科チートちしきでシンジも知っている。ウイスキーなどは、ドワーフが『火酒』と呼んでいる物に近いらしい。村人からすれば、一生のうちに飲めるか飲めないか、というレベルだ。


 それをシンジは敢えて出した。これは、この世界でもシンジの酒が受け入れられるかどうかの実験だった。


 「まあ、良いお酒だからね、飲んだら感想ちょうだいね」


 「で、ではこれは祭りで皆で楽しむことにしましょうぞ。アイリス様、シンジ様、ありがとうございまする」


 JIJY村長が深々と頭を下げた。


 「あーいえ、まあ、オークならほんの一部ですからお気になさらず」


 アイリスが答える。確かにほんの一部だろう。1000匹中の10匹だし。


 「でも、シンジさん、お酒こんなに出しちゃって良いんですか?」


 「まー、いっぱいあるからね。問題ないない」


 シンジが手をひらひらと振ると、アイリスもため息ひとつついて気にしないことにしたようだ。だいぶシンジの扱い方が分かってきた模様である。


 その時、村長の息子たちがドタバタと広場に駆け込んできた。


 「す、す、す、す」


 ゼーハーゼーハーと荒い息を付いて、何かを言おうとしているが、言葉にならない。


 「何じゃお前ら、ワシが恩人に礼を言っている最中に騒がしい」


 JIJY村長が呆れたように言うと、カミロと言われた村長の息子が、必死に息を整えて叫んだ。


 「お、オヤジッ! 壁が、壁が、すげぇーんだッ! ぐるっと畑まで囲ってあって……ッ! 信じられねー大きさでッ!!」


 「何ッ! よしッ、皆見に行くぞいッ!」


 JIJY村長が杖を振り回しながらものすごいスピードで走り去っていった。


 「……ねえねえ息子さん? 村長、あんなに速く走れるの?」


 シンジが目を点にしながら聞くと、カミロが静かに答える。


 「ええ、普段はヨロヨロしているんですが、杖を振り回しているときだけは、何故かやたらと動きが良いんです……」


 「やっぱりあの村長、コメディアンか〇ぺーちゃんじゃねーか……」


 シンジは膝から脱力した。

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