第24話 テンプレ的に、オークロードと対峙する俺つー。

 「おおおおぉぉぉぁぁッ!!」


 アイリスが雄たけびを上げながら、横からロードに向けて剣を一閃。ロードは剣を弾き返す。アイリスの剣も切れ味が鋭くなる魔剣である。ロードの炎の剣に負けていない。


 ノアは、こちらには近づいてこないでじっと見ている。隙を窺っているようにも見える。


 シンジは、アイリスに少し譲るように後ろに下がる。


 アイリスは、出来たスペースを有効に使い、オークロードと渡り合う。膂力は当然ロードの方が上だが、剣技ではアイリスの方がはるか上を行く。


 ロードの奮う剣を、最低限の歩幅で軽やかに躱す。そこで出来たロードの隙に付け込み、腕や足に傷を負わせていく。


 「固いわね……!」


 アイリスのつぶやき通り、些細な傷はロードの回復力の前にすぐ消えてしまう。多少の出血くらいしか強いることが出来ていない。


 これは、手を出した方が良いかもしれない、とシンジが思った時、ノアが動いた。


 ロードがアイリスへの攻撃に夢中になっている、その死角をついて後ろに回り込み、後ろ足で後頭部に思いっきり蹴りを入れた。


 バコォォンッ! というものすごい音が響く。先ほどジェネラルを倒した技だ。


 「おおッ! ノアさんやるぅッ!!」


 さすがにロードが少しふらついた。だが、頭を2、3回振ると、キッとノアを睨みつけた。


 「馬風情ガ無礼デアルゾッ!!」


 ロードは、ノアにも剣を振るおうとする。が、ノアの風の盾に阻まれた。


 「馬風情ガ魔術ダト……ッ!?」


 ノアさんは、風の刃だけではなく、風盾も使いこなしていた。まさにUMAと化していた。そのままノアは距離を取る。さすがUMA、非常に冷静である。


 「グウウゥウ、オノレ……ッ!」


 オークロードが悔しがり、ノアを追いかけようと一歩踏み出した。


 それを油断と見たか、アイリスの剣がロードを襲う。風切り音とともに、剣を持たぬ左の二の腕に深い傷を作った。


 「ヌウゥゥッ!」


 痛みより、傷を付けられた不快さに顔をゆがめるロード。血が流れだすが、ロードが筋肉に力を入れると、バンプアップの効果か血の流れが止まった。こうやって傷を一時的に塞ぎ、その間に回復させるのだ。


 「なかなか器用なことをするねえ」


 思わずシンジも感心してしまった。


 「シンジさん、決め手がありませんッ!」


 確かに、今のアイリスとノアでは決め手に欠ける。ロードの消耗を狙って、このままじっくり傷を増やしていくのも方法としてはアリだが、緊張感が続くため、先にアイリスたちの体力や精神力が切れる心配がある。


 「うーん、出来るだけアイリスさんに倒してほしいんだよね」


 「何でそこにこだわるんですか!?」


 「そりゃ、アイリスさんがロードを倒したら、一気に強くなるからだよ」


 この世界、幼女の解説通りレベル制はないのだが、それは経験値的なものが無いのとは違う。魔物を倒すと、そこから吹き出す魔力的なものが、倒した者に取り込まれるようだ。これにより、能力が飛躍的に上がる場合があるらしい。使える魔力が増えたり、筋力や運動能力が上昇することもあるという。


 これは、チュートリアル時に幼女が言っていたのだが、魔物の中で自然と練磨された魔素が、死の際に吹き出すという。それを近くにいる者が浴びると、当然練磨済みの魔素のために一気に取り込むことが出来、結果として大幅な能力アップに繋がっているのだ。


 シンジの能力を鍛えるためにチュートリアルを用意したのは、この現象を利用して、大幅に能力アップさせるためだったという。戦いで吸収した練磨済み魔素を、定着させるモノづくり。この繰り返しでシンジは鍛えられたのだ。税金付きだったが。


 もちろん、世界の事情そんなことはアイリスに解説しないし、している暇もない。


 「それに、アイリスさんが英雄になったら、俺が隠れられるじゃない?」


 「……そんなにまでして目立ちたくないんですか?」


 「今の段階ではねー」


 のんきに会話をしているようだが、オークロードの攻撃をシンジが片手で払いのけながらの話合いだ。


 「この姿を見ていると思うんですが、シンジさんなら一瞬でオークロードを倒せるんじゃないですか?」


 「うん、まあね。単体のロードなら。……だけどね、俺としてはアイリスさんに本当に強くなってもらいたいんだよね」


 「ロードを倒したら、そんなに強くなるんですかね? もちろん、普通の騎士が1人で倒せるような魔物じゃないんですが」


 ロードクラスの魔物単体なら、騎士や兵士が30人は必要だ。それも被害を出す前提で。


 魔力も尽きて、剣での攻撃も完全に防がれているオークロードも、いよいよ勝てないことを悟ったのか、逃亡しようと後ろを向いて、走り出した。


 「逃げるんじゃありません! そんな子に育てた覚えはありませんよッ!」


 シンジが怒って、ロードを怒鳴りつけた。もちろんロードも、シンジに育てられた覚えはないだろう。


 シンジは、即座に縮地で背中に追いつき、後ろから足払いを掛ける。うつ伏せに倒れこむロード。


 「ウガァッ! ナニヲスルッ!!」


 「アイリスさん、首やっちゃってッ!」


 「はッ!!」


 反射的にアイリスも追いつき、オークの背に登った。


 「ヤ、ヤメロォッ!!」


 アイリスは、焦るロードの延髄に真っすぐ剣を突き立てた。


 「ゴアアアァァァッッ……!!」


 さすがに延髄を断ち切られては、回復も不可能だ。凄まじい断末魔を上げて、ロードはビクビクッと震え、そのまま事切れた。


 それは、初めてのテンプレ反動を乗り切ったシンジたちへの祝砲にも聞こえた。

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