第22話 テンプレ的に、オークの侵攻を迎え撃つ俺ぶいすりゃあ。

 「何する気ですか? まさか、壁を斬って倒すとか?」


 「アイリスさん惜しいッ! 俺もそれ考えたんだけどね、せっかくのオークナイトが潰れちゃうでしょ? もったいないかなって」


 「も、もったいないとかの問題なんですか……?」


 実のところ、シンジも最初はそうしようと思っていた。どうせ壁に取り付いて崩そうとしているわけだし、勢いよく倒せば、下敷きになって結構な数を倒せるだろうと思ったのだ。


 だが、思い返した。何故なら、潰れたオークからは肉も睾丸も採れないからだ。


 日本人の『もったいない』精神の表れと言えよう。この世界の常識的にどうなのかは置いておいて。


 「そこでね、やっぱり効率的なのは首ちょんぱだと思うのですよ」


 「で、でも壁の向こうですよね? 壁乗り越えて向こう側に行ったら可能ですけど、向こう側に逝っちゃいますよ?」


 「誰がそこで上手いことを言えと」


 「あ、いえ、そんなつもりはないんですがッ!」


 アイリスは、わたわたと両手を振って否定する。


 「ま、いっか。えっとね、まず壁を四角形に斬ります」


 シンジはそう言うと、まず土壁の80cmの高さあたりに剣を横向きに突き刺した。


 「で、そのまま横に移動します」


 言いながら、30mほど剣を突き刺したまま移動する。まるで豆腐を斬るように、何の抵抗もなく剣が進む。


 「いったん抜いて、縦に10cmほどの切れ込みを入れて、再度抜きます」


 こうして、L字型に切り込んだ。


 「あとは、上の方も斬りこんで、元の場所に戻ります」


 そう言いながら、今度は元の場所に戻る。


 「最後に、縦の切れ込みを入れて、これでくりぬきが出来るようになります」


 振り返ってアイリスたちを見ると、同調したようにうんうん、とうなずいている。


 「で、土魔術で、直角三角形になるように、外側を0cmになるように鋭く、こちら側を5㎝程度に圧縮して、先を刃物のように尖らせます」、


 ちょうど上側に5㎝位の隙間が出来た。土壁の向こうに、ひしめき合うようにオークナイトの顎辺りがちょうど見えている。


 「最後に、重力魔術で少し浮かして、こちら側に引っ張ります」


 ずるずるッと、直角三角柱な物体が半分内側にせり出してきた。シンジは剣を鞘に納め、右腰のウエストポーチからバットを取り出した。


 「な、なんですか? 妙に形の整ったこん棒ですね?」


 当然アイリスたちは、野球のバットなどという存在を知るわけがない。


 「で、こいつを振りかぶって……打つべしッ!!」」


 カキーンという、本来鳴らないはずの良い音を響かせて、三角柱は一直線に空を飛ぶ。オークナイトどもの首を刈りつつ。


 土壁の外側では、オークナイトの断末魔が響き、武器がガチャガチャと落ちる鈍い音を奏でる。


 10cm開いた土壁から見ると、40匹ほどの首や手を失ったオークナイトが重なるように崩れ落ちていて、周りのナイトどもが混乱している状況が手に取るようにわかる。隙間から攻撃を仕掛けようとするナイトも存在しない。


 「うわー、グロ画像だねえ。そっか、間接的な攻撃になるから、直接仕舞えないんだ。しっぱいしっぱい」


 シンジは、てへぺろのポーズを取った。これでテンプレも達成できたことになるだろう。たぶんきっと。


 「でもまあ、これで首ちょんぱになったので、素材としては痛まないのでした。ちゃんちゃん♪」


 シンジとしては、しっかりと解答編を行ったつもりである。アイリスたちは、あまりに予想外の方法だったためボー然としていたが。


 「じゃ、アイリスさん、ノアさん、向こうが混乱しているうちに、打って出るよ? 準備は良い?」


 それを聞いて、ハッと剣を握り直すアイリス。


 「だ、大丈夫ですッ!!」


 「じゃ、シンジ、行きまーすッ!」


 シンジは、土壁を一気に下げた。




 ◇




 壁が下がると同時に、シンジとアイリスは剣を構えて飛び出した。続くようにノアも駆け出す。


 足元には、首を失った雑魚オークとオークナイトの亡骸が折り重なるように転がっている。残された雑魚オークもオークナイトも、混乱から立ち直れていない。奥の方では、オークジェネラルが統制を効かせようと大声で怒鳴り、オークロードは剣を構えている。


 オークロードの足元には、先ほど飛ばした横ギロチンの刃が、折られた姿で転がっている。どうやらロークロードが剣で止めたようだ。なかなかやる。


 それを横眼で見ながら、シンジは混乱するままのオークナイトへ、音もなく近づく。


 「うりゃッ!!」


 シンジが剣を一閃、オークナイトの首が複数飛ぶ。


 アイリスとノアも、それぞれ剣と魔法を振るい、オークナイトと残り少ない雑魚オークを殲滅していく。


 雑魚オークが死滅し、オークナイトも残り10匹ほどになった。


 その時、ロードが突然咆哮をあげた。びくりとオークナイトが震えると、落ち着きを取り戻したのか、すぐにロードのもとへと集まりだした。


 「どうやらここからが本番みたいだね」


 アイリスが、それを聞いてひとつ肯いた。


 次の瞬間、再びロードが咆哮をあげる。それを合図に、オークナイトがひと固まりでこちらに走りこんできた。集団の中央最後部にはジェネラルが陣取り、こちらに突進してくる。


 「集団で来られるのは良くないね」


 アイリスやノアに被害が出ると困る。


 「だったら集団をばらせば解決。うりゃッ!」


 シンジは、土魔術で10cmだけ走ってくるオークナイトの足元を削った。


 その窪みに足を取られ、先頭のナイトが2匹前のめりに躓く。ブギャ、と変な声を上げてそのまま転がった。そのナイトに足を引っかけ、後続のナイトたちが次々に転がる。まるでコントを見ているようだ。シンジも思わず噴き出した。


 真面目なシーンで、さすがにこれはないだろう。


 「ぷッ!」


 アイリスも噴き出している。


 ノアは、するすると近づいて行って、前足を倒れているナイトの首に乗せる。濡れた割り箸をへし折るような低い音を立てて、ナイトの首が折れる。ノアは、コントにも動じず次々に首をへし折っていく。


 「ノアさん、容赦ないねー。俺も見習わないと」


 ノアは、最後に残ったジェネラルも踏みつけようとしたが、間一髪転がって逃げられた。ジェネラルはそのまま転がってノアから距離を取ると、立ち上がり一目散にオークロードのもとまで逃げ帰った。ノアが不満そうにぶるる、と吐息を漏らす。


 「あらら、逃げられちゃったね。でもまあ、残り2匹、サクサクと殺りましょうか」


 ただ、あのオークロードは一筋縄ではいかない気がする、とシンジは思った。


 土魔術で横ギロチンは、鉄より硬くなっていたはずだ。勢いも付いていた。それを剣で斬り飛ばしているのだ。本能的に技術を持っているのだろう。


 これ以上裏技は通用しないだろうし、アイリスさんに手柄も立てさせたい。ここからは真正面での対決になるだろう。


 シンジは、ペロリと唇をなめた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る