第21話 テンプレ的に、ちょっとブレイクを入れる俺。

 シンジが土壁をくぐると、いきなり剣閃が首元を襲った。


 「のわッ!?」


 前転して避けるシンジ。そこに追い打ちで、風の刃が襲う。


 「おわッ!!?」


 横に転がって躱すシンジ。そのままくるくると回って距離を取り、何とか立ち上がる。


 「ちょッ、危ないじゃないッ!?」


 そこでは、レ〇プ目状態のアイリスとノアが、再び構えて襲って来ようとする。


 「待って待ってちょっと待ってッ!! どうしちゃったのふたりともッ!?」


 「あ、あれ? シンジさん?」


 そこで初めて気付いたようなそぶりを見せるアイリス。目の輝きが戻ったようだ。


 ノアも驚きが分かる表情を浮かべている。UMAになったことで、表情筋も発達したのだろうか?


 「びっくりしたなぁ、もう! いや、どうしちゃったのさ、ふたりとも?」


 シンジがドキドキする心臓を押さえながら問いただすと、アイリスが眉を八の字にして弁明を始めた。


 「いや、ずっと同じようなタイミングで剣を振るっていたら、何かおかしな感じで、自分が分からなくなってきてしまいまして……」


 ノアもブルンブルンと首を縦に振った。


 「あー、単調な屠殺とさつ作業のせいでゲシュタルト崩壊起こしちゃったんだね……。それは予想外」


 「げしゅ……何ですか?」


 「あ、気にしないで」


 現代の心理学用語を使っても、理解されないだろうとシンジは思い、流すことにした。故意にやったわけでもないので、怒る事でもない。


 「それより、いよいよ本番のオークナイト戦になるけど、心の準備は大丈夫?」


 「ちょ、ちょっと休みたいですね。腕もそうですが、心が疲れた気がします……」


 「そっかそっか、じゃあ、ちょっと休もうか」


 そう言って、シンジはうりゃあと掛け声一発、土壁の隙間を埋めた。




 ◇




 再びティーセットを取り出したシンジ。もう何も言わずに普通に座るアイリス。以心伝心の間柄になったかのような落ち着きである。


 「じゃあ、ノアさんはほむほむする? はい、あーん」


 ノアが口を開けたので、シンジは角砂糖をふたつ放り込んだ。ほむほむするノア。


 アイリスにも紅茶とクッキーを勧めて、ほっと一息入れさせる。


 「んじゃ糖分補給しながら作戦会議ね。残りの敵兵力は、雑魚オークが50匹くらい、オークナイトが100匹くらい、オークジェネラルとオークロードが1匹ずつだよ」


 「だいぶん減らすことが出来ましたね」


 アイリスがため息交じりに答える。


 「ただ、ここからが本当の体力勝負になるね。恐らくオークナイトは、雑魚オークみたいに素直に隙間には来てくれないからね」


 オークナイトくらいのハイオークになると、知能もそれなりに高くなる。鎧も身に着けているし、剣もそれなりの物を持っている。


 チュートリアルの時も、いったいどこで調達するんだろうと思っていた。が、世界大百科で調べたら答えが載っていたのだ。


 どうやら魔物の鎧や剣は、魔力の物質化によって自然に発生するものらしい。つまり、毛皮とかと同じように、オークが進化することで身に付くもののようだ。ゆえに、倒された場合は魔力が飛散してしまうので、鎧や剣は一部を残して消えてしまうようだ。残った場合がドロップアイテム扱いになるらしい。幼女らしいこだわりと言えよう。


 エネルギーである魔素を物質化するとか、元の世界だと考えられないほどのエネルギー量を必要とするはずなのだが、そこが神の力ファンタジーなのだろう。たぶんきっと。


 「じゃあ、どうするんですか?」


 「うーん、俺がふたりに支援魔術を掛けるから、地道に倒そうか」


 これだけの数のオークナイトを、剣だけで倒すのは大変だから、ある意味当然である。


 「ただ、最初は奇襲しよう。細工は御覧ごろうじろ。ある程度倒せれば楽だからね」


 この奇襲は、シンジにしかできない。


 「その奇襲に危険はないんですか?」


 「ぜーんぜん、全く」


 シンジは、反則技を考え付いていた。


 「それにね、ふたりで300匹以上殺ったでしょ。相当魔素を吸って強くなっているはずなんだよね。だから、奇襲である程度数を倒せれば大丈夫」


 この世界では、経験値という概念はない。数値化できないのだから当たり前だ。だが、魔物を倒していけば、相応に強くなるのも事実だ。


 これは、魔物を倒した時に、その魔物の魔素が一部取り込まれることにより、強化されるのだという。それを経験値としても良いのではないかと幼女にも言ったのだが、魔物個別の魔素が、質量ともにばらつきが多く、計算が出来るようなものではないらしい。


 よって、経験値やレベルに反映するという事が出来ないようだ。


 「え? では、魔物を倒す騎士がだんだん強くなっていく原因って、本当にそれなんですね? 一部の研究者がそういう説を唱えていましたが、個人の資質だろうという説が強いので、異端の説と言われていました」


 「うん、それが事実。ただし、倒し方や倒す方の個人の資質にも関わるので、結果が区々まちまちになるの。そういう意味では、個人の資質というのも間違いじゃない」


 倒し方なども絡むとなると、実験して試すことも出来ない。


 「何でそんなことを知っているんですか?」


 「かみさまのお導きという事にしておいて?」


 一応事実である。そこに隠されたモノが、いかにアレようじょであったとしても。


 こうして優雅にお茶会をしている3名だが、実のところ壁の向こうは大騒ぎである。壁を崩そうとして剣やハルバードなどを叩きつける音やら、ナイトのブギーと騒ぐ鳴き声やらが雑音として耳を叩いている。


 「さて、お茶も飲んだことだし、アイリスさんたちも回復したでしょ? そろそろひと狩り行こうか?」


 実のところ、アイリスとノアの食している角砂糖と菓子には、甘めの高級ポーションが仕込まれている。チュートリアルでのポーションづくりには難色を示した幼女をも納得させた逸品だ。甘味が受けたらしい。甘い薬とか、こどもか。……うん、幼女だ。


 「そうですね、休んだからか、肩の調子も、疲れも取れました。まるでポーションを飲んだみたいです」


 飲んだのだが、気付いていなければノーカンだろう。


 「じゃあ、奇襲を掛けるから俺より後ろに立っててね」


 そう言うと、シンジは腰から剣を抜いた。

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