第20話 テンプレ的に、オークの侵攻を迎え撃つ俺つー。

 そこでは、速で衝撃の首ちょんぱ劇が繰り広げられていた。


 「うわー、アイリスちゃんってるってる」


 シンジの立ち位置からだと、アイリスはこちらに背を向けた状態だ。土壁を右手側にちょうど1歩分の位置に立っている。 


 オークが隙間から入ると、その後頭部側からスッと剣を振りぬき、音もなく首を撥ねる。そのまま収納。また来ると、また剣を振りぬく。


 180cmくらい身長があるオークの首に向かって剣を振っているので、腕は肩より高く掲げている状態だ。


 「まるで、ベルトコンベアで刺身にタンポポの花を乗せるような、正確な手さばきだねえ」


 反対側に立つノアは、ちょうどシンジからは正面を向けて立っている。一見首を振っているだけに見えた。


 しかしよく見ると、ノアが首を振った瞬間に、オークの首が飛んでいる。どうやら、風系の魔術を飛ばして、オークの首を器用に刈っているようだ。


 そうかそうか、そんな方法もあったか、と感心してみていた。が、ふとシンジは我に返った。 


 「えッ? 待って待ってちょっと待ってッ!? ノアさん魔術使えるのッ!? ノアさんまじUMAッ!!?」


 それに答えるように、ノアがぶるる、と軽く答えた。


 考えてみると、馬というのは風を切って走る。当然基本属性の中では、風に最も親しみやすい。UMAになったノアも、魔術を使えるようになったなら、風系魔術を使うのは自然と言える。……言える?


 (ま、まあしばらくは問題なさそうだな)


 とりあえず、オークの数を減らさないことには何もできない。ふたりには、このまましばらく頑張ってもらおう。


 「アイリスさん、もうしばらくこの状態で続けられる?」


 「まだしばらくは。ですが、先にッ! 腕の方が限界になると思います」


 このセリフを話しながら剣を振るうアイリス。そこだけ力がこもるので、わかりやすい。


 「そうだね、肩より高いところから剣を出したら、腕が疲れるよね。アイリスさん、少し地面を持ち上げるね。ちょっと揺れるけど、バランス崩さないように気を付けて」


 「はい、大ッ! 丈夫です」


 シンジは、アイリスの立ち位置を中心に、2m四方の土を50cmほど盛り上げた。アイリスは台の上に乗った状態になった。アイリスの身長は170㎝ほどなので、ちょうど腹の上あたりで首狩りが出来るようになった。


 「これならしばらく大丈夫そうッ! です」


 「おけおけ。じゃあ、俺は外側から崩していくね」


 「えッ!? 壁の外に出て大丈夫なんですかッ!?」


 「うん、飛び道具組は全滅させたからだーいじょーぶ、まーかせて」


 シンジは、そう言うと再び宙に浮き、壁を飛び越えた。




 ◇




 「さーて、どうしようかなー」


 シンジは上空から、オークどもの様子を窺う。先陣である雑魚オークの群れには、オークウォーリアーやオークリーダーがひしめいている。統制が取れている感じが全くしない。


 ざっと見たところ、リーダー以下の雑魚オークが500程度。


 メイジとアーチャーは合わせて200匹くらいはいたが、すべて殲滅済みだ。


 先ほどから土壁の隙間に吸い込まれ、消えて行く雑魚オークを合わせれば、なるほど1000体いたことになる。


 このままアイリスたちに削ってもらうのも良いが、さすがに数が多い。手伝った方が良いだろうか。


 問題は、そこから間を空けるように並ぶ、本陣であるオークナイトの群れだ。だいたい100匹くらいいるだろうか。先ほどの空からの奇襲を受けて陣形が崩れているが、少しずつ秩序を取り戻しつつある。


 本陣の奥、ど真ん中にオークロードの姿が見えた。


 「やっぱり黒猪人、って感じだよな」


 黒い体毛に筋肉質の身体。下牙の生えた口元。煌びやかに見える鎧と腰の大剣。腕を組んで混乱する自軍を睨みつけてくる様は、オークのような太った感じではなく、野生で鍛え抜かれ、洗練された黒猪が人型になったという印象だ。


 背は3mあるだろう。隣でナイトに指示を出し、混乱を治めようとしているオークジェネラルも精悍な感じがするが、それより頭ひとつ分大きい。


 「じゃあ、混乱している間に、雑魚を後ろから片づけますか」


 シンジは、姿隠しハイドの魔術を使い、ちょうど雑魚オークどもとオークナイトの群れの間に降り立つ。シンジの姿は、オークどもには見えない。


 (うーん、アサシン気分。いいねいいね)


 シンジは、右手で剣を持ち、左手は手のひらを広げて前に突き出した。そのまま剣を一閃。背中を向ける雑魚オークの首がすぱぱぱーんと10個ほど飛んだ。左手に力を込め、マジックボックスに収納する。シンジを要の位置として、ちょうど扇型にぽっかりと穴が開いた。


 (うん、即収納で行けるね。さ、気付かれないうちにどんどん行こうか)


 シンジはそのまま無造作に進み、再び剣を一閃する。飛び交う首、消えるオークの身体。周りのオークが大混乱に陥った。オークリーダーが必死に体形を取り戻そうと、ピギーピギーと叫ぶが、何の効果もない。


 走り出して周りのオークにぶつかって倒れる奴、剣を振り回して周りのオークを傷つける奴、そのまま蹲る奴、混乱が混乱を呼び、収拾がつかない状態になる。


 まるでオークの壁を掘って迷路を作り出すように、シンジは歩きながら剣を振り回す。


 「ははは、右も左も全部的だぁ!」


 シンジが少々声を上げたところで、オークどもの叫びにかき消されて全く響かない。


 あっという間に、雑魚オークの姿がかき消されていく。


 雑魚オーク集団の右の端までたどり着くと、今度は左に向けて驀進する。オークの群れが、大型魚に追い回されるイワシの群れのようにずるずると変形していく。


 あっという間に左端へ抜けた。今度は列の後ろを石壁に追い立てるように、弧を描いて走り抜ける。


 チラチラとオークナイトの群れを見るが、シンジの姿が見えないからか、どこにナイトを向かわせるか指示が出来ていないように見えた。


 (でも、そろそろ来るよね。よし、一旦壁の中に退避しよう)


 シンジは残り50匹程度まで減少した雑魚オークを残し、壁の隙間へ吸い込まれるように走って行った。

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