第19話 テンプレ的に、オークの侵攻を迎え撃つ俺。

 「さーて、飛び道具部隊はどの辺にいるかなー?」


 ひょいっと飛んで壁の上に登ると、じっと目を凝らす。意識して魔力を目に集め、遠くが見えるようにする。視界には、オークの群れが固まりながら近づいてくるのが分かる。


 視点を奥にずらすと、オークロードの横にオークジェネラル、その2匹を守るようにオークナイトの部隊が親衛隊のように付き従っている。親衛隊の中に大きな杖を持った個体がいる。あれはビショップだろう。


 「ビショップもいるのか。あれが最優先だね。メイジが、いたいた。10匹以上いるか。アーチャーは二手に分かれてるねえ、ちょっとめんどいけど、問題ないかな?」


 シンジの言う通り、親衛隊の両脇にはアーチャーの部隊が配置されているようだ。クロス的に射れるので、対騎士隊なら効果が高いだろう。


 「結構統率が取れてるな。支配力はロードでも上位かな」


 通常魔物の集団では、トップの支配力が高いと個別の能力も嵩上げされる。何より厄介なのが、トップを遠距離で狙っても、気付いた周りの雑魚敵が、その攻撃を捨て身ででも防ぐのだ。


 いろいろ観察していると、先頭の雑魚オークがあと200m、本隊まで500mを切った。壁の隙間から覗き込んでいるアイリスたちの目にも見えているだろう。シンジは後ろを振り返り、壁下のアイリスたちに声を掛ける。


 「んじゃ始めるよ。準備は良い?」


 「はッ!」


 アイリスの返事には、前線に立つ騎士らしい緊張感があった。


 シンジは、それを聞いてにかッと笑うと、左腰の剣をすらりと抜いた。


 「ほいっと、GO!」


 シンジが剣をひと振りすると、空に向かって氷の矢が一斉に放たれた。


 それを見つけたのか、先頭にいた雑魚オーク数匹が、ピギーと鳴きながらこちら目がけて一斉に走り出した。なんだなんだという感じで、見ていなかったオークどもがその後ろを慌てて走り出すのがちょっと笑える。


 オークが走ったところで、ドタバタと人の小走り程度の速度なのだが、巨体が大勢で迫ってくるのはなかなか迫力がある。例えが悪いが、力士が武器を持って何十人も迫ってくるのを想像したら近いだろうか。


 その瞬間。


 天より、オークビショップには6本の、オークメイジには2本ずつの氷の矢が、合計30本降り注いだ。ビショップの周りのナイトが2匹、これを防ごうと剣を振るう。2本は見事にはじき返した。が、残りの4本がビショップの脳天を襲った。


 ビショップは、頭を貫かれて即死した。得意の回復魔術を見せる間もなく。


 メイジにも氷の矢が降り注ぐ。転がって避けた者もいた。が、20匹近くが即死した。


 後衛が大混乱に陥った。シンジはコントロールを終えた瞬間、次弾を準備する。今度は、残ったメイジとアーチャーに向けて。


 これで全匹倒せるなら簡単なのだが、そうはいかない。ナイト以上の戦闘職オークは、先ほどのように氷の矢なら斬り払ってしまえる。また、氷の矢をコントロールしながらだと、自由に動けず数に飲まれてしまう。


 (いや、まあ、影響を考えないなら、大魔術でドカンと1発終了なんだけどねえ)


 目立たない様に大型砲台としての魔術縛りをしているのに、それでは意味がない。第一、チュートリアル後初の本格戦闘なのだ。剣で戦うのを試してみたいというのもある。


 (まあ、それでも氷の矢程度なら、飛び道具潰しに使いたいし)


 飛び道具を放置すると、アイリスとノアが危険だ。接近前に潰すのが吉だろう。


 「前衛来たよー」


 シンジは、氷の矢を使いつつも、後衛の混乱に興奮しながら走ってくるオークどもを見て、アイリスたちに注意を促した。


 オークが2匹、興奮し顔を真っ赤にさせながら、壁の隙間から何も考えず入ってきた。


 「はッ!」


 アイリスが剣を一閃。1匹のオークの首がコロリと横に落ち、胴体はそのまま数歩進むと忽然と消える。


 ノアの前足が高く上がり、オークの腹にドカンと前蹴りをかます。下に崩れ落ちたオークが、やはり忽然と消えた。


 「うん、収納も上手にできましたー。じゃ、頑張ってね、っと!」


 シンジが余裕をかましていると、こちらに向かって矢が数本襲い掛かる。身体をひねって避けた。そこにも矢が来る。シンジは剣で切り飛ばした。


 「お返しッ!」


 そのまま剣を振るい、氷の矢を3本放つ。それは一直線に飛び、オークアーチャー3匹の顔を貫いた。


 「ビショップとメイジは全滅させた。後はアーチャーを殺れば、一応安全だね、っとぉッ!」」


 そこへ、シンジの足元を狙い、雑魚オークが粗末な槍で突いてきた。足を上げて躱すシンジ。


 「あらよっと」


 気の抜ける声とともに、雑魚オークの脳天を剣で刺す。雑魚オークはそのまま仰向けに倒れる。


 「やばやば。油断はだめだよねえ。反省反省。さあて、残りのアーチャーを仕留めますかぁッ!」


 シンジが大きく剣を振った。先ほどよりも小さく細い氷の矢が生まれる。魔術の属性矢は、込めた魔力の分だけサイズを変えることも、圧縮率を大きくすることも出来る。普通なら効率が良くないので誰もやらないが、今回は速度を上げるため、敢えて細く加速を付けられる形状にした。


 シンジはそこに回転も加える。これでジャイロ効果も狙える。これは、シンジのオリジナルだ。


 そもそも、ライフリングによって発生するジャイロ効果を知っていなければ出来ないのだから、前世の知識が使えるシンジ以外に出来ないのが当たり前でもある。


 「GO!」


 氷の矢は、先ほどまでより加速して飛ぶ。シンジは飛ばすと同時に宙に浮いた。直線で飛ばしたのでコントロールがいらない分、足元を狙われる危険を回避したのだ。


 氷の矢は、そのまま残りのアーチャーの頭を貫いた。これで全滅である。


 「さあて、じゃあ、ふたりを手伝いますかッ!」


 シンジは、壁を越え、アイリスたちの戦う場所へ飛んだ。

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