第16話 テンプレ的に、斬鉄剣させる俺。
シンジは考える。
ならどうすればいいか。この村を防壁で囲ってしまうのが早いだろう。
だが、そのことでが他の村に流れてしまうとすれば問題だ。
ここは、素直にアイリスの意見を聞いた方が良い。
「苗字があるってことは貴族ですが。ランチェスト卿、と呼んだ方が良いですか?」
「いえ、兄が同じ騎士隊にいるので、普段は名前で呼ばれています。シンジさんも名前でお呼びください。それに敬語は要りませんよ。今まで通りで大丈夫です」
「そう? じゃ遠慮なく。アイリスさん、この村の板壁って、家の周りだけを囲っているの?」
「そうですね、普通は家と、最低限の畑を囲っています。見た感じ、この村も同じですね」
「ふうん、それじゃ、オークどもが来たら、畑に被害が出ちゃうのか」
せっかく助けるのなら、それも防ぎたいところだ。
「じゃあ別の質問。もし高い壁に囲われていたら、オークはここを無視してほかの村に行く可能性はある?」
「いえ、オークの習性を考えると、人間の臭いを追って一番近くにいる人間の集団を目指すはずです。ですから、壁に囲われていても臭いや気配がする限り、そこを目標にします」
アイリスはそこで目を伏せ気味にした。
「だから、女子供を臭いが漏れにくい地下に隠し、男たちが表に出て、襲われた場合は男たちの血の臭いで隠す、というのが最悪の時の対処なのです」
「なるほど、大勢の女を攫われて、大繁殖されるよりまし、という事だね」
それは、魔物に脅かされながらも生きている村人の、血涙で出来た悲しい知恵、とでも言うべきモノなのだろう。
だが、そういう事なら対処方法はある。
「ふうん、理解できた。じゃあ、アイリスさんとノアさん、ちょっと付き合ってくれるかな?」
アイリスとノアは、揃って首を縦に振った。
◇
シンジとアイリスは、再びノアに乗って、村の畑の周りを駆け足で一周した。最後に、村の入口へと続く道へと到着する。
「うん、だいたい村の最大範囲は把握したよ。ノアさん、ありがとうね」
シンジがノアからするりと降り、首をポンポンと叩いて
「シンジ殿、村の範囲は良いとして、いったい何をする気ですか?」
アイリスも続いてノアから降りると、シンジにこの不思議な村周回について尋ねてきた。
だが、シンジはそれに答えず、地面に向かって手をかざした。
すると、音もなくするするっと円柱状に、直系50㎝ほどの土の柱が2mほどの高さに立ち上がった。
「えッ!? 無詠唱ッ!!?」
アイリスが驚くが、先ほどノアをUMAにしてしまった強力ヒールも無詠唱だった。まあ、アイリスがノアの負傷に動揺していたので、気付かなかったのだろうが。
「アイリスさん、剣の試しもしないで戦えないでしょ? 今のうちに剣の試し切りをした方が良いよ」
「あ、ああ、そうですね」
動揺しながらも、渡した魔剣を取り出すアイリス。すらりと剣を抜くと、鈍く銀色に光る刀身が現れた。
「おお……お?」
感嘆の声を挙げたアイリスは、途中から疑問形に変わる。右手の柄から、魔力が一瞬するっと剣に移動したのだ。
「刀の色が、変わった?」
魔力が剣に吸われた途端、刀身が淡く青白く染まった。
「うん、剣に魔力が入ったね。魔力はそれほど吸われていないと思うけど、大丈夫?」
「あ、え、ええ、ほとんど影響ありません。これで、本当に大丈夫なんですか? 魔剣って、すごく魔力を吸われると聞いていたのですが」
「効率重視した剣だからね。切れ味への変換率に挑戦したんだ♪」
「はあ、そうなんですか」
何気なくシンジは言っているが、魔剣の技術としては非常に高い。魔剣そのものが珍しい中で、シンジの作ったこの剣は、一般的な魔剣の1/3しか魔力を使わない。つまり、単に切れ味に特化したものだが、普通の魔剣の3倍長く戦うことが可能になっているのだ。
シンジは、超一流には及ばなくても、その辺のドワーフでは太刀打ちできない技術を持っていることになる。
だが、チュートリアルで作ったものだからこの性能が発揮できたという面もある。この世界では、シンジでもある程度経験を積み直さないと、これに匹敵するものは作れないだろう。
シンジ自身も、それは自覚している。だから、早めに生活の基盤を作りたいと思っているのだ。
「ま、いいからその円柱斬ってみて」
「は、はい」
アイリスは両手に剣を構えた。さすがに騎士だけあって、構えて一瞬で集中状態に入った。
「破ッ!!」
気合一瞬、右上段から袈裟懸けに落とす。ジャッ、という砂利を擦ったような鈍く短い音が響く。振り切って手首を返し、左から胴を薙いだ。またジャッ、と音が響く。アイリスは残心のまま剣を正眼に戻した。
(両刃なのに、日本の剣術に似ているね。西洋剣術だから、もっと力任せかと思ってたんだけど)
力の足りない女騎士だから、叩き潰す剣術ではなく斬る剣術を習得しているのかもしれない。
「手ごたえが……ない? 斬ったのに?」
剣を振り切ったアイリスが、驚きながら剣を下ろすと、土の柱が斜めと横にずれる。そして、そのままガランゴロンと音を立てて落ちた。
「うん、良い腕しているね」
「あ、あッ!?」
土柱だと思っていた円柱は、まるで芯棒のように直径10㎝ほどの鉄のような金属が中央にあり、周りを土で覆った構造になっていた。もちろん、シンジの仕業である。
「出来たねえ、斬鉄。お見事」
パチパチと拍手するシンジ。
「い、いえ、この剣の切れ味が凄すぎて、まるでスライムを斬ったみたいで」
(まあ、豆腐を斬ったみたいって事が言いたいんだろうね。そっか、そういう言い回しするんだ)
まあ、この世界に豆腐はないだろうから、そういう表現なのだろう。もしかしたら、過去に伝わった事があったかもしれないが、今は無いのだろう。幼女が言う通りなら。
「……え、ちょっと待ってください? この柱、中身が、鉄棒ッ!? そんな馬鹿なッ!?」
それは、アイリスにとって二重の意味での驚きだったようだ。
この土柱は、アイリスの目の前でシンジが作ったものだ。だから、土魔術で盛り上げて固めたものだと思っていた。だが、実際には芯棒として鉄が入っていた。
これが意味するところは、シンジが土魔術とともに錬金術で、地中から鉄を錬金したという事に他ならない。
「それだけ剣が扱えるなら、多少ハイオークがいたところで大丈夫でしょ。じゃあ、次の一手行こうかな」
シンジは、アイリスの見開かれた目を見て、笑いながらそう告げた。
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