第6話 テンプレ的に、ものづくりに励む俺。

 「あとは、122番地と524番地だったな……」


 伸士の目の前には、オーク樽が並んでいる。


 原酒を樽のままマジック・・・・ボックスに入れて、環境ごとに番地を決めて時間加速して、それぞれ20年以上を経過させたものだ。


 その中から選び出した、琥珀色に染まった原酒を確認しながら、ブレンドを進めていく。


 「うん、これで2000本分完成だな」


 ブレンデッドメモを確認しながら、該当する樽から、魔術で必要以上に空気に触れないよう原酒を移し、混ぜ合わせる。完成したブレンドは、そのまま作っておいた飾りガラス瓶に注ぎ込み、封をする。


 ずらりと並んだクリスタルに輝く瓶は、琥珀色の中身を輝かせながら、開かれる時を待つことになる。


 「よし、次行こう。えっと、6番地と245番地と……」


 使った空のオーク樽をアイテム・・・・ボックスの使用済みエリアにしまい込み、次にブレンドするオーク樽をマジックボックスから取り出す。


 アイテムボックスとマジックボックスの違いは、容量と時間経過コントロールが可能かどうかだ。両方持っていると使い分けが出来て、非常に便利である。


 伸士は、次々と樽を出し、ブレンドを進めていった。




 ◇




 「ふう、これでコニャックタイプXOの5種類目と6種類目は完成だな」


 もちろんコニャックは地名だから、あくまで気候と蒸留スタイルを真似しただけである。


 「ほう、では、儂が試飲してやろう」


 「出たなうわばみ・・・・幼女」


 幼女、チュートリアルがモノづくりフェーズに移行するや、こうしてちょくちょく伸士の前に現れる。特に酒造りの時は、必ずと言っていいほどやってくる。


 幼女は伸士のつぶやきを無視すると、右手を顔の高さへ掲げ、手のひらを広げる。すると、そこにふわりとブランデーグラスが現れた。


 それに呼応するかのように、並んでいる2種類のブランデー瓶から、まず1本が宙に浮き、ひとりでに封が空く。


 そのまま給仕が滑らかに瓶を傾けるかの如く、中身が芳醇な香りとともにブランデーグラスへ注がれた。


 「ふむ……」


 幼女がグラスを揺らし、香りをしばし楽しむように笑みを浮かべると、グラスを傾けてひと口含む。しばらく舌で転がすように味わうと、そのまま嚥下した。


 しばらく目を閉じて余韻を楽しむように息を吐くと、残りのブランデーを再び傾け、すべて飲み干した。


 「……うむ、良い香りじゃな」


 右手を振るように動かすと、グラスが消えて水の入ったコップになった。それを口に含むと、コップが掻き消えた。


 今度は左手を振ると、再びブランデーグラスが現れる。もう一種類のブランデー瓶が宙に浮き、先ほどの光景が繰り返された。


 試飲を終えた幼女が、こちらに振り返る。


 「ふむ、このふたつの『ぶらんでー』には、儂自ら名を付けてやろう」


 そう言うと、幼女が右に置かれた丸いクリスタル瓶のブランデーを手に取った。


 「この色合い、気高い香り、新しいタイプじゃな。……そうじゃな、『カミーュ』としようか」


 「そこで名前を伸ばすなッ! パァーって動いちゃいそうな名前になってヤバいだろッ!?」


 伸士の心からの叫びを無視するように、今度は左の複雑なカットが美しい瓶を手に取る。


 「こちらのブランデーは、柔らかい女性のような艶めかしさか。……そうじゃな、親しみを込めて『レミーたん』としようか」


 「マルはどこへやったマルはッ!? おまけに『はぁはぁ』とか続きそうだからやめろやッ!!」


 「みやびが分からん奴じゃのう……」


 「そんなみやびいらんわッ!!」


 「まあ良いわ。此度こたびの酒、良い出来じゃな。褒めて取らすぞ」


 伸士はため息をついて、思ったままの感想を述べる。


 「へいへい、そりゃどーも。でもまあ、何度見ても異様な光景だよな」


 「そうか? グラスや水を出すくらい、創造神たる儂なら簡単なんじゃがな」


 不思議そうに首を傾げる幼女。


 「いや、そこじゃなくて、幼女が美味うまそうに酒を飲むシーンとか、何度見てもPTAが飛び蹴りしてきそうな光景だなと」


 「じゃからこの姿はテンプレじゃからこうしておるだけと何度も言うておろーが」


 「だったら妖艶な女神さまの姿でもいーじゃねーかッ! そのくらいサービスサービスしろよッ!?」


 幼女がアメリカンな手つきで両手を上げ、首を振る。


 「やれやれ、これだから煩悩の塊こうこうせいは……」


 「てめーが高校生の身体のままにしてんだろーがッ!」


 そうなのだ。もう体感で20年以上経っているはずなのに、何故か伸士は一向に老けない。


 「当たり前じゃろうが。『ちゅうとりある』で寿命が来るとか、本末転倒だろうに」


 「いや、そーなんだろうけど、高校生のまま40年以上って、逆にひどくない?」


 「いつまでも若々しくて良いではないか」


 「俺だって、何もしないうちからオヤジになんぞなりたくないので、その点は良いんだけどさぁ」


 「それは置いておくとして、これだけ酒を造ったのじゃ。錬金術も覚えたじゃろう」


 「まあ、確かに醸造や蒸留は、錬金術の一端でもあるけどな? ほら、ファンタジーなんだから、ポーションとかソーマとかエリクサーを造るのが本来じゃないのか?」


 幼女がため息をつく。


 「分かっておらんのう。これは『ちゅうとりある』じゃぞ? ここで完成形を作ってどうするのじゃ。地上に降りてから修行して、最後に・・・『えりくさー』を作るのがテンプレじゃろうが」


 「それ番組違うから」


 「それに、エリクサーなんぞいくら造られても、儂には何の得も無いしな。じゃあ次は、ピートの効いたウイスキーを所望じゃ」


 「それが本音かッ!」


 何のかんのと言いつつも、修行と言う名のモノづくりを鍛えていく伸士だった。

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