第5話 テンプレ的に、『ちゅうとりある』の意味を知る俺。

 「ほれ、起きろ」


 横腹を何度もノックするような感触を覚えて、伸士の意識は急に浮上した。


 伸士は慌てて上半身を起こし、自分の腹を見る。……穴が開いていない。


 横を見ると、幼女が右足を上げて隣に立っていた。


 「え? えっ? えっ!?」


 伸士はこんらん・・・・した。


 「おおしんじよ、しんでしまうとはなにごとだ!」


 幼女が両腕を天に向け、逝っちゃった目で笑いながらあの・・セリフを話す。


 「いやぁ、このセリフが言えるとはっ! まさにテンプレっ!!」


 「てめえこの幼女っ! どういうことだっ!?」


 幼女が逝っちゃった目をしながら、こちらを見つめてくる。


 ……ちょっと寒気がした。


 「言ったではないか。『ちゅうとりある』であると。入門編じゃからな。練習で死んでも元通り。本番でなくて良かったのう」


 さび付いた槍で刺された感触。もちろん痛みもあるが、ただ衝撃と力の抜ける感覚。こみ上げる血反吐。あれは、本当にショックだった。


 伸士は、ぽろり、と、何かが顔を伝うのを覚えた。


 「あれ?」


 ぽとぽとと何かが手の甲に落ちてきた。


 (水? いや、俺が泣いているのか?)


 喉の奥から、しゃくりあげる様に力が加わる。血反吐ではない何かが、熱く込み上げてきた。


 「え? え?」


 涙が止まらない。


 「あーよしよし、儂の胸を貸してやろう。光栄に思い、感謝するが良いぞ。転生者に胸を貸すのも、女神のテンプレじゃからなッ!」


 両手を上げて胸を張る幼女が優しく微笑んだ。


 だが、その激しく逝っちゃった目を見て、涙が引っ込んだ。


 「……失礼な奴じゃのう」


 「何で元凶に感謝せにゃならんのだ」


 本当に分からん幼女である。


 「まあ良いわ。精神的にダメージが少ないようで、何よりじゃ」


 いや待て、さすがにそれには言いたいことがある、と伸士は思った。


 「ふざけんな。死んだ感触がリアルすぎて……そのままショックでホントに死んだらどうするよ?」


 「いや、じゃから痛みも衝撃も、中途半端にリアルにしておった訳じゃしな。それこそ本当の意味で『中途現実ちゅうとリアル』じゃろ?」


 「ダシャレ言ってる場合かっ!?」


 そこで幼女が、急に真面目な顔になる。目の焦点が戻ったので、正気に返ったのだろう。


 「ダシャレではない。先ほども言ったであろう。『思いというものは力を持つ』と。『言葉』もまた同じ。お主らの『界』でも『言霊』という概念があるじゃろ」


 そこで幼女は、伸士の瞳を覗き込むように身を乗り出してくる。


 「儂が何故『ちゅうとりある』と言って、『チュートリアル』と言わんかったのか。発音にこだわっておるのには理由がある」


 幼女はそこで言葉を切り、くるりと背中を向ける。


 「『入門自習』としての“チュートリアル”と、『中途現実』としての“ちゅうとりある”。お主が死んでも、練習として確実に復活できるよう、言霊を掛けておったのじゃよ」


 それを聞いた伸士は、少しだけ感心した。ほんの少しだけだが。


 「ほほー、何かやたらと『ひらがなしゃべり』が多いと思ったら、そういう意味があったのか。幼女だから舌足らずなのかと思っていた」


 「誰が舌足らずの幼女じゃ。これは仮の姿テンプレだと言っておろーが」


 まあ、とにかくそのお陰で、無事に帰還できたということなのだろう。その一点だけは、素直に感謝しておこうか。


 「それはまだ早い」


 「えっ? どういうこと?」


 幼女は半眼になって、呆れたように伸士を見た。まるで、聞き分けの無い子供を見る目線で。


 いや、幼女にそんな目で見られても困るのだが。


 「まずは『ステータス』を見ることじゃな」


 「ん? どれどれ」


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 名前 :なし(黒須 伸士)(くろす しんじ)


 総合能力:Lv.8


 HP 150/150

 MP 410/410

 TP 4

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 ATK 14

 STR 13

 DEX 10

 INT 13

 LUK 20

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 職業 ;生徒


 称号 :なし(異世界転移者)(創造神(幼)の使徒おもちゃ)(ツッコミ名人)


 素養 :魔術の素養Lv.0 武術の素養Lv.2 技術の素養Lv.3 (創造の素養Lv.0)(科学の素養Lv.21)(時空の素養Lv.0)(次元の素養Lv.0)(神官の素養Lv.11)


 技術 :錬金術Lv.0 鍛冶Lv.0 鑑定Lv.0 計算Lv.25 魔術Lv.0 武術Lv.1(棒術Lv.3) 調理Lv.7 


 (特殊) :(隠蔽)(異世界大百科)(総言語理解)(使徒)(世界大百科)

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 「上がってるな。多少は」


 「スライムとゴブリンじゃしの。こんなもんじゃろ。ゴブリンには殺されとるしのう」


 「うっせーわ。生きてるだけでぼろ儲けだ」


 ところで、気になる表記があるのだが。


 「この『TP』ってのだけ意味が解らんが、なんだ?」


 「『テンプレポイント』に決まっておろうが」


 「訳わからんわ。なんじゃそりゃ? まさか、テンプレを達成するごとにもらえるとか?」


 「その通りじゃ。このポイントを使うことにより、基礎能力を上げることが出来る。サービスポイント制はテンプレじゃからのう」


 なら、出来るだけテンプレを達成するようにすればいいのだろうか?


 しかし以前の話では、反動が来ると言っていたはずだ。


 「そうじゃ。反動に気をつけねば、あっという間に滅びかねんぞ」


 二律背反か。どうしろと言うのだ。


 「乗り越える方法はないのか?」


 「ひとつだけある」


 そう言いながら、幼女は真剣な表情を浮かべた。


 「お主の勇気と根性と知恵で乗り越えるのじゃっ!」


 「ふざけんなコラ」


 「いやホント。そのために『ちゅうとりある』で、事前に力付けてもらうわけじゃし。テンプレもTPの形にして、出来るだけ反動がないようにコントロールしているわけじゃし。それに、あくまで練習空間ちゅうとりあるなわけじゃしな」


 「……思ったより考えているわけか。幼女のクセに」


 「何より、後がないのは儂も一緒じゃ。じゃから、安心して『ちゅうとりある』逝ってこい?」


 また、伸士の足元が割れた。


 「覚えてろーッ……」


 再び、伸士は黒い穴に取り込まれていった。

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