第4話 テンプレ的に、初戦闘する俺

 暗闇を落ち続けた伸士は、急に明るいところに引き込まれ、気がつくと地面に立っていた。


 見渡すと、足首くらいまで芝のように覆う草原。所々地面の茶色が見える。まるで昔写真で見たアフリカのサバンナだ。


 右手側には森が広がっている。ちょうど草原との境界線あたりのようだ。


 ふと、そのまま右手を見る。いつの間にか何かを握っていた。


 「棒?」


 手にあったのは、ちょうど長さは1m強で太さ4㎝ほどの木の棒。取っ手部分には、固く布が巻かれている。


 「これどこかで見たことあるような。って、ちょっと待て」


 何となく気になって、辺りを見回す。すると、草原に散らばるように、そこかしこに半透明でゼリー状の塊がウゾウゾ動いているのが見える。


 「これ、スライムだよな。……目と口はないけど」


 というか、目と口があるスライムという造形自体が特殊発想過ぎである。天才か。


 改めて伸士は、手の中の棒を見る。


 「つまり、これは『ひのきのぼう』か、ってオイ幼女ふざけんなっ!!」 


 思わず、この場にいない幼女にツッコんでしまう。


 「まあ、ここで文句言っても仕方ない。これで地道にレベル上げするか」


 幸い、スライムでのレベル上げには慣れている。十字キーでなら。まさか、生身で行うことになるとは思わなかったが。



 ◇



 まず軽く、ぺちぺちとスライムを叩いてみる。粘液というより、水を入れた分厚いウエットスーツを叩いたような感じだ。なにか硬めで、分厚い氷枕のようだ。


 本当に『ひのきのぼう』で倒せるのか、と思いながら、4、5回力を入れて引っ叩く。すると、ぷつんっとゴム風船が弾けるような感触とともに、中の粘液がびちゃりと沈み垂れた。


 液体が見る見る地面に吸い込まれる。残されたのは、ゴムまりのような核らしきものと、ビニールのような半透明の布。


 「まあ、これを続ければ良いんだろうな。たぶんきっと」


 そのまま、斜めにいたスライムを叩き始める。もしあの・・スライムに、ぴぎゃーとでも啼かれたら、罪悪感でとても続けられないだろうが。


 4、5匹倒したところで、例のあの・・ファンファーレが鳴り響いた気がした。思いっきり力が抜けた。


 「……すてーたす」


 伸士は力なくぼそりと呟く。すると、目の前に半透明の板が現れる。



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 名前 :なし(黒須 伸士)(くろす しんじ)


 総合能力:Lv.2


 HP 40/40

 MP 80/80

 TP 2

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 ATK 4

 STR 3

 DEX 6

 INT 11

 LUK 20

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 職業 :生徒


 称号 :なし(異世界転移者)(創造神の使徒おもちゃ)(ツッコミ名人)


 素養 :魔術の素養Lv.0 武術の素養Lv.0 技術の素養Lv.2 美術の素養Lv.2 (創造の素養Lv.0)(科学の素養Lv.21)(時空の素養Lv.0)(次元の素養Lv.0)(神官の素養Lv.11)


 技術 :錬金術Lv.0 鍛冶Lv.0 鑑定Lv.0 計算Lv.25 魔術Lv.0 武術Lv.0 調理Lv.7 


 (特殊) :(隠蔽)(異世界大百科)(総言語理解)(使徒)(世界大百科)

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 「あー、なるほど、こうやって上がるということね。まさにテンプレだ。ハハッ」


 そうすると、ここで地道にスライム狩りか。


 「まあ、スライムだけでLv.99まで上げるというのは無いだろう。……無いよね? どこかの演歌歌手もどきじゃあるまいし」


 伸士は地道にスライム狩りを再開することにした。



 ◇



 それから200匹は倒しただろうか。伸士は完全にスライム叩くマシーンと化している。いつの間にか、総合能力Lv.は6になっていた。


 あたりを見渡しても、スライムが発見できない。


 そろそろ移動するかと森の方を見ると、茂みの中から何やら小柄な緑色の何かが3匹、こちらに近づいて来るのが見えた。


 見間違いでなければ、2足歩行しているように見える。


 その姿は、近づいてくるとはっきりと分かる。120cmくらいの体にぼろぼろの腰布。緑がかった汚い肌色に、耳元まで裂けるような口と牙。 


 「まさか?」


 どこから見ても、テンプレゲームの雑魚敵。ゴブリンそのものだ。


 「ゲームの種類が違うぢゃねーかっ!? どうなってんだよっ!?」


 思わず叫ぶ。


 ゴブリン3体は、いやらしい笑みを浮かべ、よだれを垂らしながらこちらに駆け寄ってくる。手には、それぞれ錆びだらけの剣や先の欠けた槍、こん棒らしきものを持っている。


 「やっべえっ! 逃げるっ!!」


 急いで逃げようとした。しかし、まわりこまれてしまった!


 「そこだけ元のゲームに戻るんぢゃねーよっ!!」


 ゴブリンAがこん棒を振りかざしてきた。伸士は必死で左に避ける。そこへ、ゴブリンBの錆びた剣が襲う。何とか棒で弾く。


 「マジかっ!」


 レベルが上がったからか、体が動く。


 「これなら!!」


 必死に、こちらから打って出る。


 ゴブリンAが再びこん棒を振りかざす。そこを狙って、がら空きのみぞおちあたりに棒を突き入れる。


 ゴブリンAがぐべっと叫んで倒れ伏す。


 右からゴブリンBの剣が薙いで来る。肩から斜めに回転して躱し、即座に立った。


 ゴブリンAは立ち上がって来ない。ひのきの棒を捨て、そこに転がっているこん棒を握りしめる。


 そこへゴブリンBが剣を振りかざした。そのまま突っ込んでくる。ギギッという叫び声がうるさい。


 「くそっ!」


 相手の剣が急にスローモーションに見えた。


 体を右に半身にして、剣を躱す。伸士はそのまま回り込み、ゴブリンBの後頭部へこん棒を振り下ろす。


 ゴギャリと鈍い音を立てて、後頭部が砕けた。


 分厚い布にくるまれた壺をたたき割ったような、生々しい感触が右手に伝わる。


 白々しく頭の奥で鳴り響くファンファーレに、無性に腹が立った。


 左を見て、腹を押さえて転がるゴブリンAに近づき、頭に向けて力いっぱいこん棒を振り下ろす。


 ゴブリンAはピクリ、ピクリと痙攣し、そのまま動かなくなった。


 再び鳴り響くファンファーレが、遠くで感じられた。


 刹那。


 背中に衝撃と熱を感じた。下を見ると、腹から何かが生えている。


 振り向くとゴブリンが、拍手のように手をたたきながら、いやらしい笑いを浮かべていた。


 急に足に力が入らなくなる。膝が崩れた。そのまま膝立ちになる。


 口元に熱いものがこみあげてくる。吐き出すと真っ赤な血だった。


 「く……そっ!!」


 忘れていた。ゴブリンは3体だった。


 横から地面に倒れこんだ。もう痛みは感じない。ただ、寒くなってきた。


 体が重い。指も動かない。




 伸士の目の前が、ただ暗くなった。

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