第3話 テンプレ的に、ステータスとチュートリアルの説明を受ける俺

 「まあ、冗談はさておき。テンプレを達成しようとすると、どうしても反動が起こってしまう。これは『界』の理に関することで、創造神たるわしにもどうしようもない。無理をすれば『界』が崩壊するのでな」


 幼女が、真面目な顔に戻って話し始める。先ほどの話からすると、それは真実なのだろう。


 「かと言って、テンプレを諦めるということも出来ん。儂のあいでんててぃに関わるからの」


 「捨ててしまえそんなアイデンティティ」


 「そうも行かんでな。『界』が『テンプレを達成する』コンセプトで創られている以上、それが達成できねば創造神としての儂の存在が希薄化し、結局この『界』も失われるわけじゃし」


 まさに、進むの地獄、退くも地獄だ。誰も救われない。


 「で、だ。儂は今までの転移者や転生者たちが、結果として失敗してしまった理由を分析した」


 「うんうん、分析は大事だね」


 「その結果、過去の者たちに欠けていたもの。それは、どんな状況でも身を守れる強さじゃと気が付いた」


 確かに、西洋暗黒時代を模しているのだったら、力がないと生き残れないだろう。


 「むろん、強さにもいろいろなものがある。武力はもちろん、知力も、しぶとさも、先ほど言った『前に踏み出す力』『考え抜く力』『チームで働く力』だって、あながち冗談ではないぞ?」


 「だから、お前は経産省お役所かっつーの。天丼ネタやめい」


 伸士は思わず突っ込んでしまう。自分の突っ込み体質が憎い。


 「じゃからの、儂はどんな状況でも生き残れるように、お主を鍛えねばならぬ。よって……」


 幼女は、ニヤリと口を三日月形に歪めて。


 「『ちゅうとりある』を受けてもらおう」


 楽しげな声で、唄う様に言う。それを聞いた伸士の背中に、再び悪寒が走った。


 「待って待ってちょっと待ってッ! すっげぇ嫌な予感がするッ! 何で俺がその『チュートリアル』を受けなきゃならん!?」


 伸士の必死のイヤイヤに、幼女はきょとんとした目を向けてきた。


 「お主、説明書を読まんタイプか? 『ちゅうとりある』も受けずに地上へ降りたら、力の使い方も解らずすぐに死ぬぞ?」


 その指摘に、伸士はウッっと詰まる。


 確かに、どれだけチート性能を貰おうとも、その使い方が分からないのであれば、何の意味もない。


 であれば、訓練などで使いこなせるようにするというのは妥当な話だ。この幼女にしては。


 「まあ、その前に必要なこととして、テンプレをこなさねばなるまい」


 「ぶれねぇなこの幼女」


 「当り前じゃ。この儂がぶれる訳が無かろう」


 つんつるてんの胸を張って宣言する幼女。いや、それは胸を張って言うべき事なのか?


 「テンプレとして、どんなちーと・・・を叩き込むかだが。……まあ思いついたものは、ひと通り入れておこう」


 「ありがたいがテキトーだなオイ」


 「良いからひざを折って頭を下げい。儂自ら祝福を与えてやろう」


 幼女はそう言って、伸士に頭を下げさせる。


 (まあ、幼女だけど神だし、頭くらいは下げてやるか)


 ひざを折って屈むように頭を下げると、幼女は俺の頭に小さな手のひらを置いた。


 「お主、本当に失礼な奴じゃのう。まあ良いわい、心の広い儂に感謝するように」


 そのまま、声高らかに怪しい呪文を唱え始める。


 「まちきぶの ちいときとれば すぐなんで すごつくなれの はっぱふみふみ」


 「お前は巨○かっ!?」


 「みやびが理解出来ん奴じゃのお」


 幼女はアメリカ人のように両手を広げ、首を振り振りため息をつく。


 「短歌っぽくすれば良いってもんぢゃねーよっ!! それでホントにチート付いてんだろうねぇっ!?」


 「疑うならば、そのまま、『ステータス』と唱えるがよい」


 「ステータスっ!」


 すると、目の前に半透明の板が浮かび上がる。そこには日本語で文字と数字が書かれていた。


 ---------------


 名前 :なし(黒須 伸士)(くろす しんじ)


 総合能力:Lv.1


 HP 30/30

 MP 50/50

 TP 0

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 ATK 3

 STR 2

 DEX 6

 INT 11

 LUK 20

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 職業 :生徒


 称号 :なし(異世界転移者)(創造神の使徒おもちゃ)(ツッコミ名人)


 素養 :魔術の素養Lv.0 武術の素養Lv.0 技術の素養Lv.2 美術の素養Lv.2 (創造の素養Lv.0)(科学の素養Lv.21)(時空の素養Lv.0)(次元の素養Lv.0)(神官の素養Lv.11)


 技術 :錬金術Lv.0 鍛冶Lv.0 鑑定Lv.0 計算Lv.25 魔術Lv.0 武術Lv.0 調理Lv.7 


 (特殊) :(隠蔽)(異世界大百科)(総言語理解)(使徒)(世界大百科)

 ---------------


 「なんじゃこりゃ?」


 表示の怪しさに、思わず固まる伸士。その手元の板を裏側からヒョイと覗き込む幼女。

  

 「まあ、テンプレなステータス表記じゃな。細かいステータスは省略表示されておるの」


 いや、そういう問題ではないだろう。


 「何だこのカッコ表示は?」


 「隠し表示というヤツじゃの。他人に見られては困るものは、隠蔽で隠されているということじゃな」


 まあいいだろう。それよりも伸士には気になるものがある。


 「この『使徒おもちゃ』と『ツッコミ名人』には、悪意を感じるが?」


 「気のせいじゃな」


 そう言ってそっぽを向き、鳴らない口笛を吹く幼女。


 伸士は激しくツッコミたいのを堪え、ため息をひとつついて質問を続ける。


 「……で、『Lv.0』なのはどうしてだ?」


 「鍛えてないのにレベルが高いわけないじゃろうが」


 なるほど、それでチュートリアルが必要ということか。理解はできた。正直納得はできないのだが。


 「じゃあ、この段階でレベルがあるのは」


 「元の世界の素養で、こちらでも使える素養ということじゃな。計算はさすがに高くなるな。こちらで使われているのは、せいぜい数Ⅰレベルじゃからの」


 「何で数Ⅰとか知ってんだよ」


 「言ったじゃろうが。お主のいた【界】の中でも、日本とかいう国は、テンプレを探すのに事欠かん」


 じっくり観察しておったと胸を張る幼女。


 まあいい。伸士としても、それは重要なことではない。何より気になることがある。


 「何で神官の素養とやらが高いんだ? 神官の素養は、前世とは関係ないと思うけど」


 日本で生活していて、神官の素養とか鍛えられるのはおかしくないだろうか?


 「儂と会話して目覚めたんじゃろ。これでも創造神じゃからな」


 「おまえのせいか」


 「儂のおかげ・・・と言って欲しいものじゃな」


 偉そうにそっくり返る幼女。とりあえず、目の前にいる幼女が神である以上、納得するしかないのだろう。


 しかし、このレベルというものの上限や比較になるものが分からない限り、これが高いのか低いのかさっぱり解らない。


 「このステータスは、あくまで仮のモノじゃ。本来、指標となる数字はあっても、能力すべてを数値化は出来ん。それが出来るという事は、因果もすべて数値に置き換えられることが絶対条件じゃからの」


 「ん? どういうこと?」


 「つまり、『界』がデジタル化していない限りは、能力も数値化は出来ないという事じゃな。まあ、お主のいた『界』は、法に支配されておるからの。法を数値化出来る法則が発見されれば、可能かもしれんがの」


 「なんか、またすげぇヤバいことを聞いている気がする」


 それは、いわゆるひとつの『宇宙の真理』と言うものではなかろうか?


 「現にお主の界では、こんぴゅーた上に仮想世界を展開しておるではないか。仮想世界の行きつくところは、数値化された『界』じゃよ。まあ、そこまでの構築は無理じゃろうし、やったとしてもすぐ滅びるじゃろう。欲の使い方を間違えるじゃろうからの」


 「どこの〇Zだよ。俺もチートばあちゃんに助けてほしいわ」


 「古いのう、そこは何とかバース……と言って欲しいわ。そう、ラン〇ィ=バースじゃったかな」


 「何でそこでバッターの名前になるッ!? メタバースだッ! おまえの方が古いわッ!!」


 「いやせっかく鶏肉の呪いから解き放たれたからのう」


 「それ痛いネタだからッ!! 勘弁してあげてッ!!?」


 全く、この幼女油断も隙もないわ。まあいい、話を戻そう。


 「で、チュートリアルってのは、何をするんだ?」


 幼女は、そこでニヤリと笑う。


 「実践あるのみじゃな。では、まず敵を倒せるかどうかじゃな」


 そう言って、指をパチリと鳴らす。が、一拍待っても特に何も出てこない。伸士が首をかしげると、幼女がこちらの足元を指さした。つられて足元を見る。


 そこには、ぽっかり黒い穴。


 「はあああっ!?」


 一瞬浮遊する感覚。スローモーションのように、ゆっくりと伸士の体が落ち始める。慌てて穴のふちに手を伸ばすが、穴が広がり届かない。


 ゆるゆると体が下がっていく。幼女が手を振りながら、とても良い笑顔で伸士を見送る。


 「とりあえず、1回敵を倒しに逝ってこい。話はそれからじゃ」


 だんだんスピードが上がり、幼女の足元しか見えなくなる。


 「元気でなー」


 「覚えてろよぉぉぉっっ!!」


 伸士の力いっぱいの叫びもむなしく、頭が地面より下がった瞬間、一気に落下スピードが上がった。


 見上げれば白い空間はあっという間に点となり、伸士はひたすら闇の中を落ちていった。

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