第11話 「文庫」と奴隷契約
そんな、どうして。何処から?
彼女の兄が犯罪に手を染めているだなんて……偶然、にしてもそうは思えない事が多すぎて、擁護のしようもなかった。
事前に知っていなければ迅速に動いたり出来ない筈だ。
彼女はなんだか寂しそうな、辛そうな表情になった。それから駄目押しのように、端末を操作し、フォルダ一覧を出して画面を向けた。
「これも……」
機種名の書かれたフォルダを中心に、フォルダが一覧になっていて、そこにひとつ、『文庫』というフォルダが存在していた。中を開けると、原稿がそのまま入っている。――――といっても殆ど移行してあったようだが、ページの切れ端とでも言えるような文章の羅列が数ページ断片的に残っていた。
「パソコンに繋いで、復元出来たのがこの数ページだけですが」
そこまで、無表情で言って、何処か怯えたようになる。
「……アフィリエイトをやるって言ったり、『文庫』なんかあったり――――わからない。兄はおかしいです。絶対に……」
確かに、これで何も無かったと思う方が無理というものだった。
この『文庫』って、たぶん、文章を保管しておく倉庫って事なのだろう。
「そんなフォルダを作ってまで、無くなった文章をその時期に保管している」
淡々と零される言葉。
彼女の兄、はただの引きこもりにしてはアクティブ過ぎる。傍から見ても歪んだものを感じられるような気がした。
――――だけど、なんの為だろう。
何処かに輸送していた?
クロスワードを渡してきたり、他にもいろいろ、わざとやってる事からも……もはや自ら加担しているのではないだろうか。
「んー、アフィリエイトって、ネットでやるもんだし……なんか作品にヒントが無いかな」と、まつりは自分の端末で何か検索する。
「山路、櫻子さん……青葉……」
やがて――――
「この書き込み」
まつりがきょとん、とぼくを見た。
ぼく達に小さな画面を見せてきた。あるワードを入れた検索一覧のようだ。
「つい最近、この掲示板のレスが異常に伸びているみたいで、そこに引っかかった」
『ふぅ〜契約社員の有期契約を無期労働契約に変更する書類貰ってきたー5年前に変更しなかったのを後悔したけど、後から出来ると聞いて。意地でも辞めてやらない!!』
『さっきマンションの下を自民の選挙カーが通った。「安定した政治を続けさせて下さい!仕事を下さい」だってさ。下降しかしとらんが仕事を下さいは笑った。こっちのセリフだ!!』
掲示板に、免許の更新、契約、そういうワードが頻発している。車かなにかかと思いたいが、なんというのか、空気が禍禍しい、というか……一気に同タイミングで喜び、同タイミングで嘆き、と、まるで大きな何かにタイミングを合わせて更新されているみたいだ。最近じゃない、何年も前から。
『【注意事項】免許を持つかたにのみお配りしています。更新出来るようになったら、ニュース等で発表するので、その時に来てくださいね
。開けるときには60分以内にお願いします。60分を超えるとタイムアウトし自動的に扉が閉まります。ご注意ください』
「俺も免許更新の延長手続きがなければ、優先的に、受講できたのに。
あー、でも免許更新めんどくせーよー。眼鏡も(多分視力に加え)フレームが色剥げとかガタ来てるから買い替えないとならないし
免許の更新という視力検査タイミングに合わせて眼鏡の新調ができるとはいえ……未だに運転経歴証明書申請に魅力が残っている」
「なでしこ、免許更新完了~! せっかく優良になったから、警察署で更新しようと行ったんだけど アレの影響で更新出来なかった。 結局『免許センター』で更新したよ!」
「投資金額が91万で8万チョイが手に入るって凄くないすか? 自分的にはワンコイン投資をこんなに長々続ける気は無かったのですが、下手に貯金するより利益でるなと、継続した結果ですね」
「私は取り敢えず次は150万を目標とし、年内を目処に継続か否を決めようかと」
「4日下落していたANAで1時間チョイで8千円チョイを稼ぎ、計9万稼がせて貰いました(^^)プラ展出来たぜ」
「免許の有効期限の延長はしてもらったのでよしとするかー。」
危なかった、契約が切れるところだった、あの新聞に圧力を掛けて置いた、そんな文言も並んでいる。
なによりも、ここのメンバーは総じて青葉さんを叩いて居た。
「これは?」
「奴隷契約をする人たちの集まり、みたいだね」
きょとんとしたまま、そいつは言う。
何を思っているのかは相変わらず表情では判断がつかない。
「人を、人とも思っていない、のか、日本人を人とも思っていないのかは、判断に苦しむところだけれど……」
動悸が早まる。血の気が引きそうになる。
此処で──あちこちで──なにが、起きている?
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