第29話 家族
校舎裏でのやりとりの後、急用ができたと連絡をして部活を休んでしまった。今、咲ちゃんと顔を合わせてもきっと心配をかけるだけになる。
1人で駅から家までの道を歩く。いつものことなのに今日はたまらなく心細い。よくない考えばかりが頭の中に浮かんでくる。
「うぅ…」
涙まで出てきた。わたしはすごく身勝手なのかな。咲ちゃんとずっと一緒に居たい。でもそれがお父さんとお母さんを悲しませるかもしれない。でも、咲ちゃんから離れるなんて絶対に嫌だ。
結局、涙を止めることが出来ずに家にたどり着いてしまった。このままじゃお母さんに心配をかけてしまう。
「あら、おかえりなさい」
涙が止むまで待とうとしたら後ろから声を掛けられる。後ろに目をやると、買い物袋を持ったお母さんが立っていた。出掛けているかもしれないことを考えていなかった。
「おかえりなさい」
「どうしたの。何かあった?」
普通に返事をしたつもりだったけど、声が震えてしまった。
「何でもないよ」
「そんなわけないでしょ。なにがあったの?」
「大丈夫だから。ごめんなさい」
それだけ言って自分の部屋に閉じこもる。
それから何度かお母さんが部屋の前まで来て声をかけてくれたけど、何でもないと、大丈夫と言ってしまった。それでごまかせるなんて思ってない。でも、今お母さんの顔を見ると余計に泣いてしまいそうだ。。
「春、ご飯できたわよ」
扉の向こうからお母さんの声が聞こえる。時計を見ると6時半を指していた。いつもより少し早い気がするけど変な時間でもない。ずっと部屋にこもっていたら余計に心配をかけるだけだし行くしかない。
「あれ…お父さん?」
リビングに行くとお父さんが椅子に座っていた。最近は帰りが遅い日も多かったし、こんな時間に帰ってくることなんてめったになかった。なのに今日に限ってどうして。
「春、座りなさい」
「…うん」
机の上には晩御飯が並べられている。席に着くと私の対面にお父さんとお母さんが座った。
「いきなりだけど、何があったんだ」
「…」
やっぱり、わたしが泣いていたことをお母さんから聞いていたみたい。でも言っていいものか、伝えてしまっていいものか。
「お父さんもお母さんも心配してるんだ。だからお願いだから教えてくれないか」
「…」
これ以上黙っていても心配をかけるだけなのはわかってる。いずれは言わなくちゃいけないことだってことも分かってる。
「…お父さんとお母さんは、わたしが女の子と付き合ってるって言ったらどう思う…?」
「え?」
お父さんを見ると驚いていることが分かる。けど、お母さんは特にそんな素振りがない。
「それって、咲ちゃんこと?」
「…え、なんで?」
「この前、学校の近くで買い物する用事があったんだけど、そのとき春と咲ちゃんが手を繋いでいるのを見かけたから」
通学路で手を繋いでいたんだから誰かには見られると思っていたけど、お母さんに見られていたなんて思ってもいなかった。
「そうか…春もそんな歳になったんだな」
「…うん」
「それでどうして泣いていたんだ?」
特に交際について追及されることもなく話が先に進む。
「クラスメイトにおかしいって、親も悲しませることになるって言われて…」
わたしが話し終えると。少しの間お父さんは目を瞑って「そうか」と小さくつぶやいた。
「春は優しい子だ」
「自分勝手なだけだよ…」
「自分勝手なら今こうして悩んでないし、泣いてない」
真剣な顔で、それでいて優しく語り掛けてくる。
「お父さん達や、咲ちゃん?だっけか、その子のことを真剣に考えていることが伝わってくる」
「うん…」
「お父さんもお母さんもそんなこと気にしない。春がやりたいようにしなさい」
「いいの?」
「当たり前だ。もしあえて何か言うのであればお父さんたちを理由に諦めないでほしい。それは本当に辛いから。だから、春にとっての幸せを選びなさい。そうしてくれたらお父さんは嬉しい」
「もちろん、お母さんも同じよ。春が優しくて思いやりのある子に育ってくれて嬉しいわ。だからこそ春が考えるべきなのはあなた自身と咲ちゃんのことよ」
わたしのことを否定せずに受け入れてくれる優しさが伝わってくる。わたしの幸せを願ってくれることが伝わってくる。お父さんもお母さんがわたしのことを大切に想ってくれていたことは分かってた。それでも2人からの愛情が身に染みる。
「ありがとう。お父さん…お母さ…ん…」
「あらあら、成長したかと思ったけど泣き虫なのは変わらないのね」
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