第28話 敵意
「春、大森のこと気を付けた方が良いかもしれない」
「え?」
昼休みにお弁当を食べていると、自販機でジュースを買って戻ってきた彩ちゃんからよく分からないことを言われた
「多分あいつ、咲に気があると思う」
「どういうこと?」
もし本当なら聞き捨てならない内容だ。
「廊下で大森が咲に話しかけてるのをみたんだけど、なんか遊びに誘おうとしてたっぽい。咲は拒否してたけど」
「咲ちゃんと大森君、顔見知りなの?」
「わからない。でも、咲は迷惑そうにしてた」
それを聞くと安心できる。咲ちゃんがそんなことしないってことは分かってるけど、それでもやっぱり心配になる。
「ありがとう。気を付けておくね」
とはいえ、もし、大森君が咲ちゃんに好意を持っているならどうすればいいのだろう。咲ちゃんとわたしは付き合ってるんだから諦めて。と言えばいいのかな。なんにせよまずは事実関係をはっきりさせないと。
「あいつちょっとモテるからって自信ありすぎだろ。咲、怒ってたのに誘い続ける精神を疑うわ」
大森君が告白されたという話は何回か耳にしたことがある。同じクラスになったころから大森君に話しかけられることが多くなって、クラスの女の子たちから関係を聞かれることは多かったし人気があることは間違いないと思う。
咲ちゃんもきっと大丈夫。それは分かってるけど、出来れば近づいて欲しくない。
「天野、ちょっと時間良いか?」
授業も終わった放課後、掃除中に大森君に声をかけられた。
「どうしたの」
「話があるんだけどここではちょっと。掃除が終わったら来てくれ」
「…わかった」
告白を断ってから話すことはほとんどなかったのに、このタイミングで話しかけられたことが気になる。もしかしたら咲ちゃんに関係があるのかもしれない。
「それで、話ってなに?」
文化祭の時と同じ場所でまた大森君と対峙をしてる。でも、あの時とは違って、大森君から向けられる視線からは好意的な感情は感じられない。むしろ敵意のようなものすら感じる。一体何の用なのか。
「天野さ、1年生の女の子と付き合ってるだろ」
「!」
やっぱり咲ちゃんと何か関係がある話なのか。関係が知られることは別にいい。わざわざ呼び出して確認をする、しかも敵意を向けて。この状況に気味の悪さを感じる。
「それがどうしたの?」
「別れてくれない」
「は?」
自分でも驚くほど冷たい声が出た。こんなに誰かに対して嫌悪感を抱いたのは初めてかもしれない。それくらいその一言はわたしにとって看過できる言葉じゃなかった。
「俺さ、高田さんのこと好きなんだよね。だから別れてくれないか」
悪びれる様子を見せず、それどころかさも当然のことのようにとんでもないことを言い放った。
「ふざけないで!。咲ちゃんはわたしの恋人だよ」
「だから別れてって言ってるんだよ」
なんでそんなに堂々としているのか。滅茶苦茶なことを言っていることを分かってないみたい。
「あのさ、天野はそれで高田さんが幸せだと思ってんの?」
「お互い好きだから、幸せになれるから恋人になったんだよ」
「今はそうかもしれないね」
語気が強くなる私に対して向こうは淡々と返答を返してくる。滅茶苦茶なことを言ってるのに落ち着いている。その態度が余計にわたしを不快にさせる。
「でも将来はどうかな。同性同士のカップルを世間はどうみるか。君は、高田さんはそれに耐えきれるかな」
「わたしも咲ちゃんもばれてもいいって思ってるよ」
実際、わたしも咲ちゃんも交際のことを自分から言いふらすようなことはしないけど、こそこそ隠すようなこともしない。
「なるほどね、でも君たちだけの問題じゃない。家族だって悲しむし、迷惑をかけることになる」
「そんなこと…」
そんなことない。そう言いたかった。でも言えなかった。お母さんも、お父さんも私が女の子と付き合って知ったとき笑顔で歓迎してくれるのかなんて分からない。だからこそお父さんとお母さんにだけは打ち明ける勇気が無かった。
「君は両親を悲しませてまで今の関係を続けるつもりなのか」
どうしてそんなに酷いことを言えるのか。でも、明確な反論も出来ない。
「俺は高田さんを幸せにする自信がある。だから別れてくれよ。そのあと高田さんに告白するから」
「ふざけないで!最低!」
何も反論できずその場を立ち去る事しか出来なかった。
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