第27話 うんざり

「はあー」

「サキ大丈夫?」

「大丈夫に見える?」

「いや」


 ここ何日か大森先輩からよく声を掛けられる。そのたびにお礼がしたいだの遊びに行こうだの誘ってきて、面倒だし、休み時間に休むどころかストレスを感じるようになってきた。


「何であんなにしつこいんだろ」

「多分、ハル先輩じゃなくてサキが目的なんだと思う」

「私が目的って?」

「好意があるんじゃない?」

「それはないでしょ」


 今まで私と大森先輩には接点がほとんど無かった。見かけたのも文化祭の時くらいで話したことすらなかったのに好きになるなんてそんなことはないだろう。一目ぼれの可能性もあるのかもしれないけど、私は今まで告白された経験なんて無かったし、それよりも、春先輩へのアプローチを狙っていると考えた方がよっぽど現実的だ。


「どっちでもいけど、もうはっきり迷惑だって言ったら?」

「それが良いかも」


 一応先輩ではあるから今まで強くは言えなかったけど、諦める気配がない。というか全然効いてない。春先輩にこれ以上近づけないようにするためにもはっきり断った方が良いのかもしれない。


「高田さんいるかな」


教室の入り口から声が聞こえる。今日もまたか。


「高田さん呼ばれてるよー」


 周囲の色めきだった反応が私をいらだたせる。こっちの気も知らずによく盛り上がれるものだ。


「一緒に行こうか」

「大丈夫すぐ戻って来るからご飯食べてて」




「それで、なんですか」


 教室を出て、廊下の端まで移動してから話を始める。


「土曜日にどこかに遊びに行かない?」


 何度目かの遊びへの誘い。どうして全部断っているのにこうも続けることが出来るのか。その無駄に図太い精神だけは見上げたものだと思う。相手の反応を見て何も察することが出来ないのだろうか。


「遠慮しますし、今後もいらないです」

「そこまで断る理由って何かな?」


今までと違いはっきりとした拒絶の言葉は流石に聞き流されることは無かった。


「あなたに説明する必要がありません」

「どうして?」


どうしてって、何で断る理由を説明しなければいけないのか。理由を説明できなければ断ることは出来ないというのか。


「なんで理由を言わないといけないんですか。迷惑です」

「それって天野と関係ある?」

「あなたに話すことなんてありません」

「もしかして付き合ってたりするのかい?」


 急に核心を突いた質問をしてくる。なんで、どこで気づいたのか。それともまだ確証はないのか。でも、もしかしたらここで認めたら引き下がってくれるかもしれない。春先輩も別に交際を隠したいとは言ってなかったし。


「だったらどうしたっていうんですか」


私の返答を聞くと、さっきまで張り付けていた穏やかな表情が消え失せる。何を考えているのか分からずとても気味が悪い。


「…そっか、なるほどね」

「もういいですか?失礼します」


それだけ伝えてその場を後にする。結局、昼休みの言葉が功を奏したのか放課後に声をかけられることも無く


「ん?」


 部活へ向かう道中、かおりが中等部の生徒と一緒に歩いているのが目に入った。茶道部の部員だろうか。でも、文化祭の時は茶道部に中学生の部員はいなかった気がする。今更新入部員でも入った名だろうか。

 とりあえず、気にしても仕方がないので部室に向かうことにした。


「こんにちは」


部室へ入ると、葵先輩と彩先輩が来ている。でも、春先輩の姿はない。


「春先輩はまだですか?」

「ええ、掃除当番だからもう少しで来ると思うわ」


とりあえず今日出た宿題をやって春先輩が来るのを待っておこう。


「なあ、咲」

「なんですか?」

「大森って知ってるよな」


 まさか、その名前をここで聞くことになるとは思わなかった。しかも、私が知っているのを分かっているみたいだ。正直もう関わりたくないんだけど、どうしたんだろう。


「知ってますが、その人がどうしたんですか」

「大森となにかあったのか」


今日のやりとりを見られたのだろうか。だったら正直に話して相談してみた方が良いのかもしれない。


「実は、何日か前に大森先輩から絡まれるようになりまして」

「みたいだな」

「これ以上は直接、春先輩に行きそうで怖いです」

「ん?」


あれ?なんか急に微妙な反応になった。一体どうしんだろう。


「大森が話しかけてきている理由に検討ついてるか?」

「もう一回春先輩にアプローチするためですよね」

「…そうなのか?」

「違うんですか?」

「えっと、多分だけど…」


彩先輩いわく、かおりが言っていたことと同じ、私に目的があるのではないかとのことだけどそれはどうなんだろうか。


「そもそも春と大森君は同じクラスなんだから咲を介する必要なんて無いと思うのだけど」

「確かに…」


葵先輩からの指摘は確かに的を得ている。そういえば以前にそんなことを聞いた気がする。


「え、じゃあ」

「まあ、そういうことなんでしょう」


春先輩が目的じゃなかったのは安心した。本当によかったと思う。でもどっちみち迷惑だし面倒だ。


「どっちみち面倒なんですが。何度断っても引き下がりませんし」


ほんと何を言っても無駄なんだろうと思う。


「大森のやつ少しモテるからな。自分に自信があるんだろ。まあ、春に振られてたけど」

「あまり人のことを悪く言いたくはないのだけど、私は苦手だわ」

「どうしたらいいですかね」


今日の一件でもう懲りてくれたらいいけど、今までのことを考えると無理かもしれない。


「ん?」


ポケットに入れていたスマホがメッセージを知らせてきた。スマホを確認すると、部活のグループチャットに春先輩からの連絡が来ていた。

「春先輩、急用で休むみたいです」

「あ、ほんとだ」


せっかくだったら春先輩に会って擦り減った精神を癒したかった。

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