第三章
第24話新たな日々
撫でるような心地いい感覚がわたしの頬に伝わる。ゆっくりと瞼を開いて体を起こすと、窓から朝日が差し込んでいた。
「んー」
ゆっくり伸びをすると、全身がほぐれていくのが分かる。いつも通りの朝。でも全然違う。
「えへへ」
自然と笑みがこぼれてくる。昨日、咲ちゃんから告白されてそれから告白して恋人んなったんだ。それがたまらなく嬉しい。
顔を洗って髪を整える。手に持っているのは一つの髪留め。髪留めは何個か持ってるけど、最近は咲ちゃんと一緒に買ったものをすっとつけてる。 この髪留めを身に着けるだけで幸せな気持ちになれる。咲ちゃんを近くにいるようなそんな気持ちになる。
「~♪~♪」
いつのまにか鼻歌まで口ずさんでしまっていた。さすがに人前でこんな様子だと変に思われるだろうから気を引き締めていかないと。
「おはよー」
「おはよう。春」
リビングに行くとお母さんが朝ご飯を用意していた。
「なんかうれしそうね」
早速お母さんに指摘されてしまった。いつもみたいに振舞っていたつもりなんだけど、お母さんにはばればれだったみたい。
「ちょっとね」
お母さんは、わたしに恋人が出来たって言ったらどう思うのかな。相手が女の子って言ったらどう思うのかな。
交際を言いふらすつもりは無いけど秘密にしようとも思わない。友達や同級生にばれても別にいいと思ってる。咲ちゃんも同じようなこと言ってたしそれは良かった。
でもお父さんとお母さんにはまだ伝える勇気がでない。反対されても別れるなんて嫌だけど、でも、出来れば認めてくれたら、喜んでくれたら嬉しいな。
「あ、そうだ。今日、出かける用事あるから鍵、忘れずにもって言ってね」
「わかった」
いつもと同じ時間に学校に着いた。本当は咲ちゃんと同じ時間に行きたい。でも、咲ちゃんをずっと独り占めしてかおりちゃんと疎遠になっちゃうのは良くない。私だって葵ちゃん、彩ちゃんと話をしたり遊んだりするんだからここは我慢…。でも、早く咲ちゃんに会いたい。
「おはよー」
自分の席で授業の準備をしていると、彩ちゃんと葵ちゃんも教室に入ってきた。
2人仲良く連れたって登校したみたい。付き合ってるわけじゃないにしろ、本当に仲良しで、他にはない2人だけの関係を作り上げている。
「2人ともおはよー」
2人とは中学の頃からずっと友達だしわたしにとって大切な友達。そんな大切な友達を私は傷つけてしまった。あの時は本当に辛い思いをさせてしまったと思う。そんなことがあってもわたしと仲良くしてくれていることが嬉しい。
あの一件以来、2人の距離は一層縮まったように思う。葵ちゃんが告白して、彩ちゃんが返事をまだしていないことまでは知ってる。でも、それも時間の問題なんじゃないかって思う。そんな2人の様子を見ると、わたしももっと咲ちゃんと距離を縮めたいって思った。恋人になれただけでも幸せなはずなのに、強欲だと思うけど好きなんだから仕方がない。
長かった午前の授業を終えて今は昼休み。あと少し授業を頑張れば放課後になる。そうすれば咲ちゃんに会える。早く会いたい。恋人らしいこといっぱいしたい。
「…」
…恋人らしいことって何だろう?。手を繋いだり、抱きしめたりすることかな。でも、付き合う前から手を繋いだり抱きしめることはやってきた。もちろん、恋人としてやることは意味合いが全然違うと思う。でも、もっと近づきたい。
「咲、どうしたの?」
「わっ」
ずっと考えていたせいか目の前に葵ちゃんが居たことに気が付かなかった。
「いつのまに?」
「一緒にお昼食べるんだから、そりゃ居るでしょ」
そうだった、完全に意識の外だった。いつも3人でお昼を食べるんだからそりゃ居るよね。
「あれ?彩ちゃんは?」
「飲み物買ってくる。て言ってたでしょ」
そうだったっけ?全然話が頭に入らないほど考えていたみたい。普段の勉強でもこんなことないのに、自分でも驚いてしまう。
「何か変よ、どうしたの?」
葵ちゃんにならそうだんしても大丈夫かな。葵ちゃんならずっと彩ちゃんのこと好きだったんだし、恋人らしいことが何か知ってるかもしれない。
「葵ちゃんはさ」
「なに?」
「恋人らしいことって何だと思う?」
「え?」
予想外の質問だったのか、ちょっと動揺が見える。
「急にどうしたの」
「咲ちゃんともっと仲良くなりたいなって思って」
葵ちゃんは考える素振りをみせて、少しして口を開く。
「手を繋ぐとか」
「前からやってるよ」
それこそ付き合う前から繋いでる。わたしの返答に対して葵ちゃんはまた別の案を提案してくれる。
「ハ、ハグとか…」
「それもやったことあるんだ」
やっぱり他にはないのかな。手を繋ぐのも、抱きしめるのも凄く幸せな気持ちになれる。でも、もっと欲がでてしまう。もっと特別になりたいって思う。
葵ちゃんを見ると、なんか急に顔か赤くなってきて、目もあっちこっちに動いて落ち着きがない。
「その…えっと…」
なんか、口をごにょごにょしてるだけで何を言ってるのかよく分からない。こんなに慌てている葵ちゃんを見ることはあんまりないから、新鮮だ。
「おーす、2人とも」
葵ちゃんが口ごもっているうちに飲み物を買い終えた彩ちゃんが戻ってきた。
「葵、どうかした?」
「えっと」
彩ちゃんにも聞いてみようかと思ったけど、なんとなく聞きづらい。彩ちゃんからの告白を振って咲ちゃんと付き合うことを選んだんだから、私と咲ちゃんの関係を応援してもらったし、わだかまりなんて無いとはいえ今の悩みを相談するのははばかられる。
もう一度葵ちゃんに目を向けると、ちらちらと彩ちゃんを見て、口を開いたり、かと思えば閉じたりしてる。何かを言おうとしてるみたい。
「あ、彩は恋人とどんなことしたい?」
「え、なに」
彩ちゃんも予想外だったみたいで葵ちゃんみたいに顔を赤くした。
「そりゃ手とか」
「手を繋ぐとかハグとか以外で」
「…」
賑やかな和気あいあいとした昼休みの教室の中、わたしたち3人だけ緊張感に包まれる。
「あとは…その」
沈黙に耐えかねたのかそれとも葵ちゃんから見つめられ続けて根負けしたのか彩ちゃんが口を開く。
「キス…と…か」
「…」
また、沈黙がやってきた。
キスって…それは恥ずかしい。わかってたけど勇気が出ないから、他にないかなって思ったんだけど、彩ちゃんんも同じようなことを考えたみたい。
「彩はキスしたいの?」
「…まあ、うん、かなって」
いつの間にか彩ちゃんと葵ちゃんが2人の世界に入っているみたいで、わたしのこと、忘れられてないか心配になる。
というか2人の関係は結局どうなってるんだろう。付き合ってはいないみたいだけど、外から見れば恋人というか夫婦?にも見える。
「あーもう、急になんでそんなこと聞くんだよ」
「春が咲ともっと仲良くなりたいって」
「あーそういうこと」
葵ちゃんの返答を聞くなり、さっきまでとは打って変わって不敵な笑みを浮かべて視線をわたしに向けてくる。
「んじゃ、そういうことだからキスしちゃえよ」
「えぇ!?」
どういうことなの!?そんな軽く言われても無理だって。
「そ、それはちょっと…恥ずかしいし」
「えー良いじゃん。もう手も繋いでハグだってしたんだから」
なんか、彩ちゃん楽しんでる気がする。抗議をしようと目を向けると、葵ちゃんから小突かれていた。
「やめなさい」
「えーいいとこだったのに」
やっぱり楽しんでたんだ。真剣に悩んでたから、ちょっとむっとした、でも、こういういつもの彩ちゃんを見ると安心できる。
「彩のことはともかく、まあ急ぐ必要はないと思うわ。少しずつ距離を詰めていけばいいのよ」
「うん、ありがとう」
とりあえず、出来ることから少しづつ距離を縮めていこう。
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