第22話 友達-1


「…」

「どう、納得した?」

「すみませんでした!」


 状況を詳しく聞かずに感情だけで非難をしてしまった。本当に私は何をしているんだ。


「別にいいよ、気にしてないから」

「彩がいいのなら私もいいわ」


 2人は笑って許してくれた。


「あの、1つ聞いていいですか」


 一つ気になることが有る。


「どうぞ」

「お2人はその、付き合っているんですか?」


 話を聞く限りアオイ先輩は想いを伝えたし、さっき2人が手を繋いでいるのも見た。


「いえ、そうなりたいのだけど、彩の気持ちの整理がまだだから」


 アヤ先輩のほうを見ると、顔を赤くしてもじもじしている。


「もうすぐですね。頑張ってください!」

「そうね頑張るわ」

「えっ、ちょっ」


 話を切り上げて、そろそろ帰ろうかとしていたころ


「あ、電話だ」

「誰から?」

「春」


 わざわざ電話するなんて何かあったのだろうか


「もしもし、春?」


 アヤ先輩に注目が集まる。


「おい、どうした、何言ってるんだ」


 なんか穏やか雰囲気ではない。アヤ先輩の表情から事態の深刻さが伝わってくる。


「泣いてちゃ分からないって」


 泣いてる?いったい何があったんだろう。


「とりあえず部室に来れるか?」




 室の扉がゆっくり開く。


「春、大丈夫か」


 入ってきたハル先輩の顔は涙で濡れていた。とりあえず席に座ってもらい落ち着くまで待った。


「春、何があったのか教えてくれる?」


 ようやく落ち着いてきたハル先輩に事情を尋ねる。


「…咲ちゃんに嫌われた」


 サキがハル先輩を嫌う?

「なんでだよ、そんなわけないだろ」


 アヤ先輩も信じられないみたいだ。私だって信じられないし、何かの勘違いだって思ってしまう。


「ひどいことしないでくださいって、関わらないでくださいって」


 そうしてまた、ハル先輩は泣き出してしまった。まったく訳が分からない。頭の整理が追い付かない。サキはなんでそんなことを言ったのか。ただ一つ分かることは、またサキは辛い思いをしてしまったということ。いますぐ電話をかけて何があったか聞きたい、相談に乗りたい。でも、私までサキに拒絶されるのは怖い。

 いままでサキと喧嘩したことくらいある。でも、明確な拒絶の言葉を浴びせられたことなんて無い。だからこそ怖い。


「春、その前に何かした?」

「…」


 黙り込むハル先輩。何か言いづらいことでもあるのだろうか。


「春、教えて」

「…手を繋ごって言った」

アオイ先輩は「そう」と言って何かを考え出した。

「春は今のままでいいの?」

「嫌だよ」


 何かを理解したのか、まったく冷静になれない私を置いて話が進んでいく。


「だったら、一度ちゃんと話し合いなさい」

「…でも」

「もう、お互いが正直に話す以外、解決できないわ」


 アオイ先輩はもう原因に気づいているような気がする。でも、ハル先輩には伝えようとはしていない。


「わかったよ…」

「とりあえず春は、ここで待ってて」




「あの、私たちは何で外に?」


 ハル先輩を部室に残して私とアヤ先輩はアオイ先輩に連れられて空き教室に来ていた。


「春と咲を二人きりにするためよ」

「サキもう帰っちゃいましたけど」


 私の言葉に対し、特に返答をせずに鞄からスマホを取り出して、トークアプリを起動した。


「もしもし、咲。いまどこ」

「だったら、今すぐ部室に来なさい」

「いいから来なさい」


 こわい。こわいですよアオイ先輩。私がアヤ先輩に酷いこと言ったの怒ってますか?


「あの、喧嘩の原因に心当たりはあるんですか?」


 手早く通話を終えたアオイ先輩に気になっていた質問を投げかける。


「大体はね」

「彩も分かっているんじゃない?」


 彩先輩を見ると静かにうなずいた。


「咲が勘違いしてるって知らなくって、春の話とかしてた」

「その上で春から手を繋ぎたいと言われたのでしょ」

「あー」


 どうして気づいてあげられなかったのだろう。失恋したと思ってるサキにとっては相当に酷い仕打ちじゃないか。


「2人にして大丈夫なんでしょうか」


 今、サキは冷静ではないはずだ。そんな状況でちゃんとした話し合いが出来るのだろうか。私だったら無理な気がする。


「私たちが教えたら、本人の知らないところで告白したことになるじゃない」

「そりゃ、まあ、そうですね」


 サキの怒った理由をハル先輩に伝えてしまったら、確かにサキの好意を間接的に伝えてしまうことになる。


「フォローするから任せろ」


 そういってアヤ先輩はどこかに行ってしまった。


「いいんですか」


 アオイ先輩は一切、引き留めることなく、「お願いね」とだけ伝えてアヤ先輩を見送った。


「彩はやるときはやるのよ。あれでもかっこいいところいっぱいあるんだから」


 うれしそうに、誇らしげに語るその表情は、さっきまでのしっかりした頼れる先輩ではなく、恋する乙女だ。


「一つ聞きたいことがあるのだけど、いいかしら」


 かと思えばまた、真剣な表情になった。


「なんですか?」


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