第15話 積み重ね

 中間テストが終わって、テストの返却が終わったころ、いつものように部活へと向かう。


「こんにちは」

「あ、咲ちゃん、こんにちはー」


 部室に入ると、春先輩だけが来ていた。


「お2人はどうしたんですか?」

「掃除当番だよ」

「そうですか」


 春先輩を見ると、予備校のパンフレットを手に持っている。


「春先輩、予備校通うんですか」

「とりあえず冬期講習にね」

 

 もうそんな時期なのかと思う。この学校は進学校とかではないけれど、それでも大学進学する人は多い。


「先輩は志望校もう決まっているんですか?」

「まだだよ」


 春先輩の志望校を知りたい。出来るだけ早い時期に、そうすれば私も同じ大学に行ける可能性を上げることが出来る。


「咲ちゃんも予備校行ってみる?」

「悩みます」


 直近の中間テストでは、教科単位では上位に食い込むことが出来るようになってきたけど、それでも、春先輩には及ばない。もっと勉強しないといけない。


「このパンフレット、引き出しの中にしまっておくから良かったら見てね」

「ありがとうございます」


 葵先輩も、彩先輩もまだ来ない。だったら、もう少しだけこの時間が続いて欲しい。決して2人が邪魔というわけでは無い。好きな人に対する想いとはそれほど強いものなのかと自分のことながら驚く。2人、特に彩先輩が春先輩と仲良く話しているのを見ると、嫉妬や焦りを感じてしまう。仲のいい人に対してそんな負の感情を向けてしまうくらい恋とは強い感情なんだと思い知らされる。

 彩先輩はほぼ間違いなく春先輩が好きなのは分かる。彩先輩は私のことをどう思っているのだろうか。文化祭の時の私の動揺の背景を知っているのは彩先輩だけ。なのに彩先輩は、そんなの知らない。といったような振舞だった。彩先輩はどうしたいのだろう。

 もし、私が春先輩に告白して結ばれることが出来たらどうだろう。私は凄く嬉しい。あたりまえだ、好きな人と想いが通じ合うのだから。でもその時、彩先輩はどう思うのか、逆に春先輩と彩先輩が結ばれたら、私はどうするか


「…」


 分からないし、考えたくもない。見て見ぬふりをするかもしれない。


「咲ちゃん、大丈夫?」

「え?はい」


 考えているうちに、黙り込んでしまっていた。


「また、悩みでもあるの?」


 また、春先輩に心配をかけている。


「大丈夫です」


 悩んでいても仕方がない。悩むくらいだったら今、出来ることをやろう。春先輩に意識してもらえるように頑張ろう。


「春先輩」

「どうしたの?」

「日曜日、遊びに行きませんか?」


 遊びというか気持ちはデートに誘っているんだけど。


「私は良いよ、彩ちゃんと葵ちゃんが遊べるか分からないけど」

「いえ…その、春先輩と私の2人で遊びたいです」


 ずるいことをしていることは分かってる。でも、私と春先輩は出会ってまだ1年もたってないんだ。あの2人と比べると、積み重ねた時間が少なすぎる。だから、2人きりの思い出を作りたい。そうして思い出を積み重ねていって、いつか私に特別な想いを寄せてほしい。


「えっと、わたしと2人きりがいいの?」

「はい…」


 体が強張る。春先輩はどう思っているのだろう。自分の友達を仲間外れにするひどい奴だと思われて無いだろうか。だったらいっ

 いっそのこと私の好意が伝わってくれた方が良い。でも、まだ伝える勇気が出ない。

 春先輩を見ると、こっちを向いたまま呆けている。


「やっぱり、忘れてください」

「え、いや大丈夫だよ!ちょっと予定がないか思い出していただけだから!」

「…はい」

「それじゃあ、日曜日、2人きりで遊ぼっか」


 そう言って私に笑いかけてくれる。


「いいんですか?」

「うん、わたしも咲ちゃんと2人で遊びたいから」


 嬉しい。春先輩が私と2人で遊びたいと思ってくれたことが嬉しい。それが恋愛感情からくるものじゃ無かったとしても、


「ありがとうございます」


 日曜日に2人で遊ぶ。春先輩にとってその程度の認識かもしれないけど、私にとってはデートだ。なんとか意識してもらえるようにしたい。






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