第14話 独白-彩
きっかけは何だったんだろう。振り返っても分からない。でも、いつのまにか好きになっていた。それを自覚した時は戸惑ったけど、楽しかった。毎日、彼女の顔を見るたびに胸が高鳴って、笑顔を見るたびに嬉しくなった。高校に入学してからもずっと好きで、彼女が男子から話しかけられているのを見て焦ったりもした。何度か告白されていることも知っている。でも、彼女はそれらを全て断って、私たちと居てくれて、それがまた嬉しかった。
「1年の高田咲です」
ある時、1人の女の子と出会った。彼女の名前は高田咲。私たちに初めてできた後輩。初めのころは、どこか遠慮したようなそんな距離を感じていた。でもいつの間にか咲は私たちと打ち解けるようになっていた。やっぱり後輩というのはかわいもので、なじんでくれて嬉しかった。春や葵もきっと嬉しかったと思う。
咲は特に春に懐いていた。そんな咲を春もとてもかわいがっていて少し妬けてしまうくらいだった。
そんな咲の春を見る目が変わったことに気づいたのは、皆で夏祭りに行った時だった。春と2人で私たちを待つ彼女の目線は春を向いていて頬を赤く染めていた。それが分かると、春がそれに気づかないように、春といっぱい話して意識がこっちを向くようにしていた。でも、途中で2人とはぐれてしまい、葵と一緒に探しているときだった。春と手をつないでいるのを見てしまった。その日は頭の中が混乱していて、動揺を悟られないようにするだけで精いっぱいだった。
どうしたらいいか分からないまま夏休みを終えて2学期になった。しばらくは何事もなく平穏な日々が続いていた。でも、やっぱりこのままじゃだめだと思って、とりあえず春と文化祭を一緒に回ることにした。結局、何もできなかったけど、春と一緒に2人で回れて楽しかった。このまま楽しい思い出になる。そう思っていた。
文化祭も無事終えて、片付けもひと段落着いたころ、春が男子生徒に連れられてどこかへ歩いているのを見かけた。ある意とは思ったけど、気になってしまいつい後をつけてしまった。
「好きです。付き合ってください!」
案の定、告白だった。断るということは分かっているけど、やっぱり気になってしまう。
「ごめんね、わたしは、あなたとは付き合うことは出来ないよ」
春の返事を聞いて緊張していた体が一気にほぐれる。よかった、これで一安心だと。
「…」
でも、隣を見ると咲が何も言わず、ただ体を震わせていた。
「咲、戻るぞ」
私の言葉に対しても反応は薄くどこか上の空だ。この場にとどまって春にばれても困るからとりあえず部室へと連れていき様子を見ることにした。
「…」
茫然自失といった感じで何も話そうとしない。こんなになるくらいさっきの告白がショックだったのかと感じる。
「おつかれさまー」
「2人とも戻ってたのね」
春と葵が戻ってきても、反応せずただ下を向いている。
私や葵にはどうすることも出来ない。
「春、咲を頼む」
だから、春に頼むしかなかった。きっと春なら咲をなんとかできるから。
咲を春に任せて部室を出る。葵も後ろからついてくる。忘れよう。今日のことは忘れよう。自分に言い聞かせながら足を進める。
「…」
でも、途中で足が止まる。
「…彩?」
「ちょと忘れ物取って来るから、待ってて」
踵を返して部室へと急ぐ。気になる。忘れることなんて出来ない。何かが起きる気がした。
部室の前について扉を少し開けて、隙間から中の様子を見る。今日は覗いてばっかりだ。
「ねえ、咲ちゃん。何かあった?」
ずっと下を向いている咲と隣で心配そうに見つめる春。
「…なんでもないです」
ようやくしぼりだされた咲の声は震えている。それで、なにもない。なんて説得力がない。
「嘘だよ。そんな辛そうで、何もないなんて…」
春の声も震えている。
「咲ちゃん」
「…あ」
春が咲の前で屈んで、それで、咲を抱きしめる。
「咲ちゃんが、なにで悩んでるのかわたしには分からない」
目の前で起きていることの理解を頭が拒む。
「でも、言いたくないんだよね?」
見たくない。立ち去りたいと思っても足が動かない。
「だから、私からは聞かない」。
「でも、してほしいことがあったら言ってね。咲ちゃんのためならわたし、なんでもしてあげるから」
声が出ないようにするのが精一杯。わかっていたことだ。春もきっと咲のことを好きなんだ。春自身に自覚があるかどうかはわからないけど、きっとそうだ。
「彩…」
振り返ると葵がこちらを見ていた。
「何でもない。帰ろう」
そうして部室の前を後にする。葵は何も言わなかったけど、きっと全てを知ったと思う。もしかしたら知ってたのかもしれない。
…かなわないかもしれないと感じた。
でも、諦めたくない。
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