第13話 初恋
初恋。恋をする人は誰しもが経験するもの。叶ったり、叶わなかったりする。でも、初恋なんてろくなもんじゃない。なんて話は聞いたことが無い。想いが叶わなかったとしても、みんなそれを良かったと思うのだろうか。
私も高校生にして初恋を知った。相手は一つ年上で、部活の先輩で、私と同じ女の子。世間一般からどう見られるかは分からない。でも、好きという気持ちは間違いなく私の中にあるし、この気持ちを否定したくはない。叶うならば春先輩にも受け入れてほしい。
文化祭が終わり、文化祭明けの月曜日、今日からまた学校が始まる。
「おはよー」
「おはよう」
かおりと合流して学校へと向かう。
「ねえ、かおりは好きな人できたことある?」
「へ?」
とりあえず、誰かに相談しようと思い、かおりに聞いてみることにした。こういうのはためらう前に勢いで聞いてしまった方が楽だ。
「うーん……」
しばしの黙考の後
「わかんないや」
「そんなことある?」
わかんないって、さすがに自分が誰かを好きになったことがあるかどうかくらい分かるだろう。と思ったけど、私もしばらくは恋心を自覚していなかったから、そんなものなのかもしれない。
「ハル先輩か」
「まあ…うん」
「青春だねー」
ほっといたらからかわれそうなので話を本題に移す。
「変かな?」
「何が?」
「その、女の人を好きになるって」
初めて人を好きになっただけでも、いっぱいいっぱいなのに相手が女の人なんて頭が追いつかない。
「んーいいんじゃない?」
「なんか軽いね」
分かっていたことだけど、かおりは特に気にすることなんてないようだ。
「好きなんでしょ、春先輩のこと」
「うん」
「じゃあいいじゃん、好きになったんだから、仕方がないね」
気にしている私の方が間違っているんじゃないかとすら思えてきた。
「ハル先輩はそういうので嫌ったりする人なの?」
春先輩なら私の気持ちを知っても嫌ったりはしないと思う。
「違うと思う」
「じゃあ、後はアピールするだけだね」
アピール、要は私のことを意識してもらえるようにする。ということだろう。もちろん好きになってほしい。
「どうすればいい?」
「知らん」
「だよね」
まあ、これに関しては自分で何とかしないといけない問題だろうし。
「とりあえず、頑張りなよ」
「ありがとう」
かおりのお陰で気分が軽くなった。後悔しないように頑張ろう。
「やっぱり、私が最初に言った通り春先輩のことが好きだったんだね」
そういえば、はじめて春先輩のことを離したときそんなことを言われた気がする。
「あれって、冗談で言ったんでしょ?」
「半分くらいは本気で言ってた」
「なにそれ」
「なんていうかさ、サキって新しい人間関係に臆病っていうか」
臆病。そんなこと考えたことなかった。私は単に新しく関係を構築するのは疲れると思ってるだけなんだけど。
「小学校の時、クラス替えとかで友達と疎遠になったときとかすごい悲しそうだったじゃん」
「そんなこともあったね」
「あと昔、仲良かった友達が引っ越したときとかすごかったよ」
まあ、それは認める。確かに小学校のクラス替えのたびに悲しかったというか寂しかったし、友達が引っ越した時は泣いた。
「それでさ、中学入ったあたりから、あまり友達作らなくなったよね」
「そうだね」
それはまあ、新しい人間関係を構築するのは疲れるって分かったから。
「でも、私とはずっと仲いいじゃん」
「そりゃ友達だし」
なんか話が見えてこない。かおりは何が言いたいんだろう。
「高校まで一緒になったじゃん」
「私とかおり、学力一緒くらいだし」
本当に何が言いたいんだろう。
「でも、サキは公立受かってたよね。なのにわざわざ私立に来た」
「だから、かおりとは友達だから…」
「わざわざ進学先を変えるのは相当な理由だよ」
それを言われると何も返すことが出来ない
「それって友達がサキにとって大切てことだよね?」
そりゃそうだ。友達は大抵の人にとって大切だと思う。
「もちろん、私のことを大事な友達だって思っていたからこその行動だろうから嬉しいけど」
「うん」
「でも、中学の時のサキから考えるとなんかちぐはぐだと思う」
なんとなく言いたいことは分かった。
「サキはせっかく友達を作っても別れるのが怖かったんだよ」
かおりに言われて初めて自覚した。疲れるとか言い訳して本当は、仲を深めた人との別れが怖かったんだ。だからこそずっと友達のかおりとの縁は進学先を変えてまで保った。
「でも、春先輩とは、距離を縮めた」
「…うん」
「無意識だったんだろうけど、サキにとって、別れが来る可能性があったとしても近づきたいと思えるくらい魅力的な人だったんだよ」
そうなのかもしれない。最初、何に惹かれたかなんて分からないけど、実際に今好きになっているんだ。
「そうだね」
「だから、本当に頑張りな」
「ありがとう」
「おーい。咲」
移動教室のため廊下を歩いていると彩先輩に声をかけられた。。
「どうしたんですか?」
「今日は部活休みな。文化祭終わりだから休憩」
いつも休憩しているようなものじゃないですか。と言いたかったけど、決まったことならそれでいい。
「わかりました」
「んじゃ、それだけだから」
いつもの彩先輩だ。文化祭の日は何もなかったかのように。
「あの、彩先輩」
「ん?」
だからこそ、確認したい。彩先輩がどう思っているのか。
「文化祭の日…」
「あ、そういえば咲」
遮るように彩先輩が話し出す。
「文化祭の日、なんか変だったろ。もう大丈夫なのか?」
私が何で変だったか、その場にいた彩先輩がわからないはずがない。わざわざ私に知らないていで聞いてくるなんて「何も言うな」そう言外から伝えてきているみたいだ。
「えっと、はい、大丈夫です」
「なら良かった」
その表情からは、本当に心配してくれていたことが分かる。だからそれ以上は何も言えなかった。
放課後、普段足を踏み入れることのない2年生の教室へと向かう。教室を覗いて目的の人物を探す。
「あれ、咲ちゃん?」
背後から声が聞こえる。振り返ると春先輩が居た。
「どうしたの、珍しいね」
探し人である春先輩に会えたので話を切り出す。
「あの、今日も一緒に帰りませんか」
「え、う、うん。いいよ」
よかった、用事とかで断られていたら、幸先悪い。
「ちょっと待っててね。支度するから」
「わかりました」
そうして準備の終わった春先輩と、学校を後にし、いつもの道を歩く。今までより少し春先輩に近づいて歩いてみる。鼓動が早くなるがはっきりとわかる。顔も厚い。きっと赤くなっている。隣を歩く春先輩の顔を見ると、夕日のせいか赤くなっている。どうやら私の顔が赤くなっていることは気づかれなさそうだ。気づかれなくて良かったのか、気づいて欲しかったのか、よくわからない。
「春先輩」
「なに?」
もっと近づきたい。私を見てほしい。
「手、繋ぎませんか?」
「へ?」
だから、一歩踏み出すんだ。
「ちょっとした気まぐれですよ。だめですか?」
正直にはなれないけど、今はこれが精一杯。
「えっと…うん、いいよ」
ゆっくりと手を握る。すると、春先輩からも握り返してくれる。それでまた胸が高鳴る。手をつないだことで、私の鼓動を春先輩に届けてしまうのではないかと思うほど距離が近くなる。
「もう、秋ですね」
「うん…」
いままでも手を繋ぐことは何度かあった。その時も、ドキドキはしていた。でも、恋心を知ってからは明確に幸せな気持ちになっていることが分かる。好きな人のそばにいる。それだけで胸の高鳴りと幸福感がやってくる。忙しいけど嫌じゃない。むしろもっと近づきたいと思う。いつか、この想いを伝えることが出来たら、いつかは分からないけど、絶対に伝えたい。
初恋。恋をする人は誰しもが経験するもの。叶ったり、叶わなかったりする。初恋なんてろくなもんじゃない。なんて話は聞いたことが無い。想いが叶わなかったとしても、みんなそれを良かったと思うのだろうか。
でも、こんなに幸せなんだ。叶う方が良いに決まってる。
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