第11話 悩み事
「ねえ、サキ」
「何?」
「サキのやってる部活ってお菓子つくってるんだよね?」
部活の出し物が決まらないまま1週間が経った。どうしようかと悩んでいるとかおりが自然科学部について聞いてきた。
「いや…まあそうかもしれないけど」
否定しようにも私も電気パンを作る以外は知らない。一応電気パン以外もあるみたいだけど、冷凍庫を使わないアイスとかで、結局お菓子だった。
「文化祭、茶道部と一緒にやらない?」
「どういうこと?」
かおりによると、茶道部も文化祭で出し物をするらしい、でも、お茶以外に出すものが無くて、なんか面白味が無いという話になったとのこと。
「お茶菓子とか出せないの?」
「お茶菓子食べ過ぎて文化祭の予算あんまりない」
「…」
なんとも情けない理由だ。でも、茶道部と一緒にやればお菓子を作ったとしても不自然ではないだろうし、渡りに船かもしれない。
「ちょっと先輩に聞いてみる」
「ほんと、ありがとー。こっちも先輩に聞いてみるね」
そうしてお互いの部活で提案してみることになった。
「こんにちは」
今日も先輩たちはミーティングをする気満々のようでホワイトボードには文化祭へ向けてと書いてある。
「それじゃあ、はじめましょうか」
「あの、いいですか?」
「はい咲。なになにか良い案ある?」
とりあえず茶道部との協力について話をしてみることにした。
「茶道部との協力、ね」
「はい、そうすれば実験としてお菓子を作っても違和感ないと思います」
葵先輩は顎に手を当て考える素振りを見せる。
「相手方とは話がついているのかしら」
「茶道部員の私の友達がやってます」
「わたしは良いと思うよ」
いの一番に春先輩が賛同してくれた。
「そうね、私も賛成するわ」
「私もー」
どうやら、方針は決まったらしい。
「とりあえず茶道部の方とも話がしたいわ。咲、あなたの友達に話を通してくれる?」
「わかりました」
かおりに連絡してとりあえず明日、茶道部と自然科学部で話し合いが行われることが決まった。
「ありがとう。咲ちゃん」
「どうしたんですか?」
会議は終わって今は春先輩との帰り道。
「茶道部との協力の話持ってきてくれて」
「私も部員ですから当然ですよ」
その返答に対して春先輩は少し笑った。でもなんだろう、春先輩の笑顔はどこか寂しそうな、つらそうだ。
「そうだね、でもわたしが無理言って入部させちゃったようなものだから」
「…」
「本当は部活、嫌なんじゃないかって心配してたの」。
「そんなこと全然ないですよ」
気にしすぎだと思う、本当に嫌なら毎回部活にいくわけない。
「嫌だったらサボってますよ」
「そうだね、でも咲ちゃん優しいから…気を遣ってるんじゃないかなって」
優しいのは先輩の方ですよ。そうやっていつも周囲のことを考えることが出来るんですから。
「私はこの部活に入って良かったと思ってます。先輩に話しかけてもらって良かったと思ってます」
将来、この出会いを振り返ったとき出会えてよかったと思える。断言なんて出来ない。でも、確信めいたものがある。
「うん、ありがとう。咲ちゃん」
今度は、いつもみたいな笑顔を見せてくれた。やっぱり先輩には明るく笑っていてほしい。
「文化祭、成功させましょうね」
「それでは、お互い協力するということでお願いするわ」
「こちらこそおねがいね」
茶道部との文化祭での協力の話はすんなりと決まった。
「とりあえず、私たちは茶道部部室の裏方で活動することになったわ」
「あのー」
「どうしたの?かおりちゃん」
今は自然科学部の部室で暇らしいかおりを混ぜてのミーティング中。
「電気パン以外何を出すんですか?」
それは、私も気になる。なんかアイスを出すとか聞いてるけど、どんなアイスなんだろう。
「冷凍庫いらずのアイスだよ」
「ほぇーアイスですか」
「それ実験なんですか?」
「一応、ね」。
話を聞いても、凝固点降下やらなんやら、よくわからなかった。ただ、高校化学で理解できる範囲らしい。
「作り方教えるから咲も覚えてね」
「わかりました」
「あと、彩もね」
「りょーかい」
彩先輩、作り方知らないんですね。なんかそんな気がしてましたけど。
とりあえず春先輩と葵先輩から作り方を教わって作ってみた。案外簡単だったけどちゃんとしたものが出来た。
「松尾さんどうかしら?」
「はい、大丈夫だと思います。ジャムとかのせればいろんな味、作れそうですし」「」
「それなら良かったわ」
作る物も決まったところで今日のミーティングは終わった。
今日は、春先輩は用事があってミーティングの途中で帰ったのでかおりと2人で帰ることになった。こうしてかおりと2人で帰るのは久しぶりだ、当行の時は大体一緒だけど下校は最近は春先輩と帰ることがほとんどだった。
「そういえば電気パンってどういうふうに出来るの?」
「…電解質による電気伝導とジュール熱」
「何それ?」
「わかんない」
電気パンの説明に書いてあった文字を読んだだけなんだからそんなこと聞かれても困る。
「咲さー」
「ん?」
「ほんとのとこ、春先輩のことどう思ってるの?」
前にも似たような話をした。またその話かと思う。
「優しい人だと思うよ」
「そうじゃないって」
さすがに何を聞いているかくらいわかる。はぐらかすのも無理なところまで来たのかもしれない。
「好きかってこと」
いつものからかうような雰囲気じゃない。かおりは真面目に聞いている。そう感じた。
「…」
好きかどうかと聞かれれば好きだと言える。でも、かおりの聞きたいことはきっとそれじゃない。
「そんなのわからないよ」
わからない。そんな経験今までしてこなかったから。
「そっか」
「…」
なんだか居心地が悪い。今の状況もそうだけど、自分の気持ちがどこを向いているのか、どこに行きたいのか、分からないから。
「今、悩んでるんでしょ。春先輩のことで」
「…」
わかってる。私が何で悩んでいるかなんてわかってる。わからないようにしていたかった、わからなければきっと楽しいままだったから。
「サキはさ、高校に入って、ううん、部活に入って変わったよ」
かおりは前を向いて、でも、私に語りかるように口を開いた。
「何がってきかれたら困るけど怖がらなくなった。よく笑うようになった」
「…」
「春先輩のことを楽しそうに話してる」
「…」
「ちゃんと考えないと後悔するかもよ」
後悔。いままでどれだけしてきてだろう。後悔しないように何もしない選択を何度しただろう。そのせいで何度、後悔しただろう。
「ゆっくりでいいから、考えてみなよ?」
「…うん」
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