第二章
第10話 新学期
「暑い」
「なんか、ずっと言ってるね」
太陽とアスファルトからの熱に耐えながらなんとか教室にたどり着き、机に突っ伏す。
「そういえば、宿題やった?」
「全部やった」
「マジ?お願い、見せて!」
「毎年言ってるじゃん」
今日から2学期、夏休みはもう終わってしまった。何か思い出があるかと聞かれたら、人に話すほどの思い出はあまりない。祖父母の家に行ったり、かおりと遊んだり、毎年同じことをしてた。
でも今年は先輩たちと祭りに行った。一人だけ浴衣を着てこなかった。とかあったけど、いい思い出だ。そんな風に夏休みを懐かしんでも学校は待ってくれない。
「ねえ、サキ」
「何?」
久しぶりの授業を眠気と格闘しながら乗り切り昼休みがやってきた。購買で買ったコロッケパンを食べていると、何やら隣に居るかおりがにやにやとこっちを見てくる。どうした、気持ち悪いよ。
「夏休み、ここの近くのお祭り行ってたでしょ?」
「何で知ってるの?」
夏休みのお祭り…といえば、先輩たちと行った祭りのことしかない。
「私も部活の友達と行ったんだけど」
「あー、なるほど」
あのお祭りにかおりも来てたなんて知らなかった。見かけたのなら声くらいかけてくれてもよかったのに。
「でさ、サキって春先輩と付き合ってるの?」
「へ?」
思わず素っ頓狂な声が出る。急に訳の分からないことを言われたのだから仕方がない。
「急になに?」
「だって、サキと春先輩が手をつないで歩いてるの見たから」
あそこを見られていたのか。でも、あれは違う。はぐれないためにやったことだ。
「あれは、違う」
「どう違うの?」
「混んでたからはぐれないようにするために繋いだんだよ」
それを聞くと、かおりは「へー」とか棒読みで返事を返してきて挙句、「あんなイチャイチャしてたのに?」とか言ってきた。。
「とにかく、私と春先輩はそんなんじゃないから」
「咲ちゃーん」
「うわ!?」
突然、教室の扉が開いて春先輩が入ってきた。
「ど、どうしたんですか?」
「咲ちゃんの方こそ、何かあった?」
かおりが訳の分からないことを言うから、変に意識してしまった。
「私は大丈夫です、それよりどうしたんですか」
「本当に?」
「はい」
とりあえず落ち着こう。横でにやにやしてるかおりを見て忘れよう。
……なんか腹立つな。
「まあ、分かったよ。今日部活来れる?」
「はい、大丈夫です」
「じゃあ、ミーティングあるから来てね」
「わかりました」
「それじゃねー」と言って春先輩は出ていった。あの部活にミーティングなんてあったんだ、入部してから今までそんなの無かったのに。
「顔、赤いねー」
「かおり」
「なーに」
「宿題頑張ってね」
「え?」
放課後、泣きついてくるかおりに仕方なく宿題を渡し、部室へと向かう。
「こんにちは」
「お、来たな」
部室にはすでに先輩たち全員が揃っており、全員椅子に座って準備万端といった感じだ。
「それじゃあ、はじめましょうか」
「あの、ミーティングって何するんですか?」
「文化祭の出し物についてよ」
文化祭、9月の終わりごろにあるやつだ、今日のホームルームでクラスの出し物を決めたばかりだ。
「文化祭は何かやるんですか?」
「一応、文化部だから部としての活動を見せなきゃいけないの」
いつも適当な部活だからといってさすがに体裁は保たなければいけないらしい。まあ、6月にも活動実態の調査があったからし、だらけるためにも苦労は必要らしい。
「そういうことだから、文化祭で何をするか決めるぞー」
「どうして、彩が仕切ってるの」
なにかやるといっても電気パン以外の活動を知らない。
「電気パン作ればいいんじゃないですか」
「それでもいいのだけど、ある程度真面目に活動していることを示す必要があるわ」
確かに、自然科学部と言いながら文化祭でお菓子ばっかり作ってたら意味不明かもしれない。
「よく、6月の調査を乗り切れましたね」
「どちらも形式的なものだから気にしなくてもいいと言われればそうなのだけど、文化祭は教師も見に来るから一応ね」
「どうしよっか?」
「うーん」
結局、今日は何も決まらないままお開きとなった。
「結局何もきまらなかったね」
「そうですね…」
久しぶりの春先輩と2人での下校。夏祭りでの葵先輩との会話や、昼のかおりとの会話のせいで変に意識してしまう。
「そういえば、咲ちゃんのクラスの出し物は何?」
「映画です。私は裏方で出演はしませんけど」
「映画、すごいね!」
映画になった理由は文化祭当日はみんな遊びたい。という前向きなのか後向きなのか分からない理由なんですけど。だから、そんなキラキラした目で見ないでください。
「春先輩のクラスは何やるんですか?」
「劇だよ。ロミオとジュリエット。私、ジュリエット役になっちゃった」
恥ずかしそうに笑う春先輩。ジュリエット…相手は誰なんだろ。
「…そうなんですね」
なんだかこれ以上聞く気になれなかった。
「…ねえ、咲ちゃん」
「何ですか?」
急に春先輩の声が真剣なものに変化する。
「何か悩み事でもある?」
「いえ…特には」
「本当に?昼もなんか変だったし」
そこからは、私のことを本当に心配していることが伝わってくる、何でもないです。なんて嘘はつけない。
「ちょっと個人的な悩みです」
明確に何か悩み事があるわけでは無い。ただ、自分の中でかおりの話や葵先輩の話、その他いろいろあってごちゃごちゃしてる。自分が何を考えているのかさえあやふやだ。
「そっか、わたしに手伝えることが有ったらいってね」
「はい、その時はぜひ」
「うん!」
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