第8話 体育祭
「暑い」
梅雨が明けたかと思えば気温が急上昇。こんな時期はエアコンの聞いた教室で授業を受けたいのだけど
「サキ、文句言ってないで動こうよ」
季節は夏。蝉の合唱とともに体育祭がやってきた。
「なんでこの時期に体育祭やるの、暑いじゃん」
「はいはい、いいから行くよ」
かおりに引っ張られるように運動場へ向かう。運動場にはいつもと違ってテントが建てられている。生徒の座る場所にはテントも何もないことに文句を言いたいけど、言ってもどうにもならないので諦める。
開会式を終えると早速、競技がはじまった。
「サキはムカデ競争と50m走?」
「そう」
「相変わらず運動嫌いだねー」
そりゃそうだ、こんな暑い中動き回るなんてしたくない。
「春先輩は何に出るか知ってるの?」
「100m走と二人三脚」
「知ってるんだ」なんて言いながらにやにやするかおり、単に部活中に何に出るかという話になっただけのことなのになんだというのか。そして理由を言ってもまだにやにやしてる。
第一の競技は2年生の100m走。待機している生徒の方に目を向けると春先輩が居た。とてもリラックスした様子で自分の番を待っている。
「あれ、ハル先輩じゃん」
「そうだね」
かおりも気づいたようで私に話しかけてくる。先輩の出番が来てスタート位置へと向かう。2年生の応援席からは男女問わず応援の声が聞こえてくる。それに対して先輩も笑顔で手を振って応える。
「けっこうハル先輩って人気者なんだね」
「そうみたいだね」
まあ、優しいし、人当たりいいし、かわいいし、人気なのはわかる。
「春ー、頑張れー」
彩先輩は人一倍大きい声で応援してる。
「サキも応援しなよ」
「…」
なんかここで声を上げることに抵抗を感じる。気恥ずかしさがあるのだろうか。それとも少し違う気がするけど、分からない。
「春先輩、頑張ってください」
何とか声をかけてみる、小さい声ではあったけど私の声に気づいてくれたようで、こっちを向いて笑顔で手を振り返してくれた。
「よかったじゃん」
「何が」
かおりは、からかうように笑っていた。結果から言うと春先輩は5人中の4位。けっこう遅かった。予想通りと言えばその通りだ。終わった後、先輩は肩で息をしていたから全力だったのだろう。
いくつかの競技を経てムカデ競争が始まるとアナウンスが聞こえたので待機する場所へと向かう。時間が来てムカデ競争が始まる。ムカデ競争は3人1組で行われる。私は3人並んだ列の真ん中の位置で前後は背の高い人が挟んでいる。何でこんな組合せになったのか疑問だ。
そんなことを考えているうちに私たちの出番が来た。長い板に足を通して準備を完了させる。
「咲ちゃーん、頑張ってー」
2年生の席の方から声が聞こえる、春先輩だ。大きな声で応援してくる。隣では彩先輩も手を振ってる。とりあえず手を振り返す。葵先輩はどこにいるのだろうと思って見回すとテントの中にある放送席でこっちを見ていた。涼しそうで羨ましい。
「位置について、よーいドン」
スタートのアナウンスとともに足を前に出す、かと思えばものすごい勢いで前から引っ張られ、後ろから押される。あれよあれよという間に速度が上がりそしてそのまま1位になってゴールした。
あれ?これ私必要だった?
「すごーい、咲ちゃん」
そんな声が応援席から聞こえてくる。違います。私何もしてません。だからそんなに嬉しそうにしないでください。
午前の部が終わって昼休憩になった。生徒は各自の教室で昼食をたべることになっているので教室へ向かう。
「サキ、すごいじゃん」
「そうだね」
「なんか、あんまり嬉しそうじゃない?」
やっと教室で休めると思ったが教室はエアコンがついておらず大して快適ではなかった。まあ、屋根があるだけましだと思うことにしよう。
「それにしても春先輩、人気者だったねー」
「みたいだね」
それはさっきも聞いた。何度も話題にするようなことじゃない。
「男子からも応援されてたね」
「そだね」
「妬いてる?」
「何で」
とりあえずこれ以上は面倒そうなので無視して昼食をとることにした。
昼休憩が終わりまた炎天下の中に放り出される。午後の部が始まって私の50m走は早々に終わった。結果は5人中5位、文句なしの最下位だった。ようやく自分の出場する個品協議がすべて終わった。
午後の部が始まってしばらくすると2年生の二人三脚が始まった。二人三脚は男女1組になってゴールを目指す競技のようだ。
「あれって…」
出場者の集団の中に春先輩の姿を見つけた。ペアであろう男子生徒と話をしている。
「…」
「サキどうしたの?」
一体、何の話しているのだろう。楽しそうだし。
「あ、春先輩だ、そういえば二人三脚にも出てたんだね」
「そだね」
そうこうしているうちに、春先輩の走る番が来た。周囲からまた声援が聞こえる。そのなかには隣の男子生徒へ向けたであろう応援の声も混ざっている。
「…」
合図とともに始まった、かなり身長差があるせいか走りにくそうだけど男子生徒の方が春先輩に合わせて走っているようだった。
「おーい、サキ」
「ん?」
「何黙ってんの?」
「暑い」
その後の体育祭は一瞬で終わった。彩先輩や葵先輩も競技に出ていたからその時は応援して、それ以外の時間はじりじりと照り付ける日光を耐えるように下を向いていた。
体育祭を終えて帰ろうと下駄箱で靴を履き替えていると声をかけられた。
「あ、咲ちゃん。おつかれー」
「お疲れ様です」
春先輩だ、鞄も持っているからちょうど帰りのようだ。
「咲ちゃん、すごかったね。ムカデ競争」
「えっと…ありがとうございます」
「なんか元気ないね、大丈夫?」
体育祭だったんだし疲れているんだから元気がないのは当然だ。
「まあ、体育祭でしたから、疲れたんだと思います」
「そっか」
そういって先輩は靴を履き替えて、またこっちを向く。
「一緒に帰ろっか」
「はい」
普段のように先輩と肩を並べて駅までの道を歩く。他愛無い話をしながらゆっくり歩くこの時間は心地よくて安心できる。いつの間にか体躯債の疲れなんてどこかに飛んでいた。
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