第一章

第5話 勉強会-1

 いろいろあった月初めも通り過ぎ、5月も終わりが見えてきた。高校生活にも慣れてきてようやく心落ち着けると思ったけど、新たな問題に直面した。


「うーん」

「難しい顔してどうしたの?」


さて、どうしたものかと自分の机で思案していると、かおりがやってきた。


「うわ、赤点じゃん」


高校入学後初めての定期テストが返却された。中学の時と同じように勉強して同じようにテストを受けたら、3つ赤点をとった。


「科目が増えるのはずるいと思う」

「何言ってんの」


 科目がいくつもに分裂して途中から手に負えなくなった。なんで増えたのか。気づいたときには間に合わないくらいにやらなければならない勉強が積み上げられていた。


「まあ、期末を頑張れば」


 期末で挽回すれば夏休みの補習も回避できるはず。


「中間テストも補習あるよ」


「…まじ?」


 どうやら、中間テストでも赤点を取れば、期末テストまでに補習があるらしい。知らなかった、そんなこと先生は言っていただろうか。後悔しても後の祭りだけど、もっと勉強すればよかった。


「かおりはどうなの?」

「私は大丈夫」

「へぇー」


 意外だ。中学の時はいつもテスト直前に泣きついてきて、その度に勉強を教えていたのに、科目が増えた高校の定期テストで勉強が間に合うなんて思わなかった。


「回避した」

「…ぎりじゃん」


 返却されたテストを見ると、ぎりぎりで赤点を回避していた。よくもまあ、偉そうな態度をとれるものだと思たっけど、私はそれ以下なんだった。


「理系科目の補習は来週あるよ」

「くわしいね」

「私も数学Aは赤点だから」


 回避できてないじゃん。ほんと、よく偉そうにできたものだ。




 放課後、部室へ向かう。廊下には部活に勤しむ学生の声や吹奏楽部の演奏が賑やかに響いている。


「こんにちは」

「あ、咲ちゃん、こんにちは」


 部室に入ると、先輩方は全員来ていた。しばらくいつものようにお喋りをしていると、テストは大丈夫だったのかという話になった。


「あの、補習があるので、来週休みます」

「え、咲ちゃん、赤点とっちゃたの?」

「勝手なイメージだけど勉強は出来る方だと思ってたわ」


 補習で部活を休むことを告げると、春先輩と葵先輩は意外だと驚いている。


「赤点取るなんてばかだなー」

「彩先輩は大丈夫だったんですか」

「もちろん、私は回避した」

「…そうなんですね」


 デジャブだろうか、もう何も言い返す気になれない。


「あれだけテスト直前に泣きついてきたのに、よく偉そうにできるわね」

「おい、それを言うな」


 あっ、やっぱりそうなんですね。なんか安心しました。


「お二人はテストどうだったんですか?」

「私は学年8位だったわ」

「わたしは16位だったよ」

「えっ、春先輩、頭いいんですか?本当ですか?」

「ひどいよ!」


 葵先輩が勉強できるのは分かるけど、春先輩は全然そんな感じがしない。1学年大体200人くらいだから、2人とも上位にいることは分かる。別に進学校というわけではないけど、上位の人はそれなりに頭はいい。


「ちなみに、私は128位な」

「あ、知ってます」

「おい」


 その順位で威張らないでください。私はそれより下ですけど、なんだか見てて悲しくなります。


「咲はどの科目がだめだった?」

「えっと、数学Aと理科科目です」


 逆に数学1が赤点回避できたことが不思議なくらいだ。


「咲ちゃん、理系科目苦手なんだ」

「まあ、そうですね」


 それを聞くと、春先輩は何か考え事を始めた。うーん。と考えている姿を見ると、真剣に考えてるな。と自分のことながら思ってしまう。


「そうだ週末に勉強会しよ、わたし理系科目得意だし」

「え?」


 勉強を教えてくれるというのは嬉しいけど、わざわざ補習のためにする必要があるのだろうか。


「いや、来週はただの補習ですから」

「補習にもテストあるよ?」

「…まじですか」


 あとでかおりにも教えてあげよう。


「何?勉強会?私もやるー」

「彩はどうせ邪魔しかしないから駄目よ」


 2人が何か言ってるけどそれどころではない。補習にまでテストがあるなんて知らなかった。


「あの、春先輩」

「何?」

「勉強、教えてください」





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