引きこもりの義妹が大人気VTuberなんだか配信を切り忘れて俺との会話が放送されてしまった〜内容が完全に放送事故で義妹のブラコンが完全にバレてしまった件〜

社畜豚

第1話





『ああ!! もう!! ガチギレだよ!! やってられっかよ! マジでよぉ!! もおおおおおお!!』



<草> <ガチでキレてて草生える> <やはりいの虐はこそが至高> <机バンバン叩いてて草>


<チンパンかな?>



『こんなに私がキレることなんてなかなかないんだかんね!? ほんとわかってる!?』



<いつもキレてる定期> <昨日もキレてなかった?> <隊長は嘘つき> 



そんな怒りの叫びが聞こえてくるこの配信は登録者数150万人を誇る超人気Vチューバー「イノリ」の配信だ。


ファンからは「いのすけ」や「いのりー」と呼ばれている。


肩まであるあるウェーブがかかった明るい茶色の髪に少し垂れ目気味な優しいスカイブルーの瞳。赤のベレー帽を被り、Yシャツネクタイの上にマントを身につけている格好が隊長っぽいからか「隊長」とも呼ばれていた。


この配信は4万人も視聴者が見守っていた。

夜とはいえ平日にこれほどの人数が同接(同時接続視聴者)があるのはすごいこと……らしい。


それはそのはず、イノリは大手事務所に所属しており事務所内でもトップ3には入る人気Vチューバーだ。



『ん? <ゲーム下手クソ過ぎワロタ> おい!! お前昨日も同じ煽り方してただろ!? 覚えてるぞ! 「ぽっぽ」って名前だったよなぁ!? 馬鹿みたいなしやがって……え? あ、1万円のスパチャだ……ぽっぽって凄く可愛い名前で超好き〜♡」  



<熱い手のひら返しで草> <やはり金……金は全てを解決する> 



人気の理由は求められているコメントやリアクションを理解し実行するエンタメ力によって得た事務所屈指のネタキャラという位置と視聴者のコメントとアカウント名を覚えているところだ。


例えば



『あ、ハバネロさんスパチャてんきゅー!! あー!! 2日前より金額5000円アップしてる!! てんきゅ!てんきゅ!』



このように誰がどんなコメントをしたかを全て覚えそれについて話てくれる。視聴者からすると推しに自分の存在が認知されていることは何よりも嬉しいことらしい。



『みんなー今日も見てくれてありがとねー晩御飯食べてーやれたらまた配信するねー』



<うーんこれは配信しないパターン> <行けたら行くみたいなノリで言うな> <お疲れ様でした> 


<今日も楽しかった!>



流れるコメントが一通り止まったところで配信が終わった。


……さて。


俺、風見夏樹(かざみなつき)が晩御飯が作り終えた瞬間、階段を下る足音が聞こえる。



「おにぃーお腹すいた〜ん」



彼女は風見いのり。

俺の義妹であり、同居人であり、超人気Vチューバー「イノリ」の中の人だ。


ちなみにイノリはいのり本人をモデルとしてイラストレーターさんに書いてもらっており、その容姿はかなり可愛い。


違うのは瞳の色くらいか。イノリはスカイブルーでいのりは茶色。



「お前……それ俺のシャツなんだけど」


「いいでしょ? 彼シャツならぬ兄シャツ!」



どや顔をしながら両手を広げ、これ見よがしに見せてくる。



「もちろん下には何も履いてないぜ⭐︎」


「あ、そう」


「……もうちょっと反応してくれても良くない? 義理の妹とはいえノーブラだよ? ノーパンだよ?」



いのりはそう言いながらくねくねしながらセクシーポーズを取る。



「……チッ」


「おい、今舌打ちしたでしょ?」


「わ、わっ!! おまっ……なんて格好してるんだっ……ちゃんと服を着ろっ!! 馬鹿っ!! はい、これでいい?」


「そんな仕方なしな感じのは求めてないやい!!」



いのりは頬を膨らましながらドカドカと強い足取りで食卓に座る。 

望み通りの反応をしてやったつもりなんだが何がそんなに不満だったのか。



「今日の晩御飯なに〜?」


「今日はいのりの大好きなピーマンの肉詰めだ!」


「私が嫌いなピーマン料理じゃねーか!」


「いやなら食うな」


「……いえ、ありがたくいただきます。ピーマンはおにいに押し付けたらいいし」


「おい」



そんな会話をしながら席に着き、手を合わせてご飯を食べ始める。

本当に肉であるハンバーグの部分だけ食べてピーマンを俺に押し付けながら晩御飯を食べたので一つだけ無理やり食わせた。



「はい。皿洗い終わったから先入るねー」



そう言いながらいのりは風呂場へと向かって行った。

2階にある自室に向かい、宿題に取り掛かる。



庭付き2階建てのこの家で俺といのりは2人で暮らしている。一応再婚同士の両親も住んではいるが帰ってくるのは長期連休くらいだ。


いのりは瞬間記憶能力の持ち主だ。さこほど言った視聴者の名前とコメントを全部覚えているのもその能力があってのもの。

間違いなく類まれたる素晴らしい才能なのだが、その高すぎる能力故に気持ち悪いがられたりいじめを受けていたのが原因で学校に行かず引きこもりになった。


警戒心が強いわけではないが他人と話すのは非常に苦手だ。俗に言うコミュ症である。


まぁ、色々あって俺は高校に通いながら引きこもりであるいのりの世話をしている。

甘やかしすぎたせいかブラコン気味ではあるが、まぁ仲良くはできてると思う。


配信とかの時はイノリというキャラクターが鎧となっているおかげかあんなに元気なのだと推測している。

いつか、学校でもあんなふうに同級生とコミュニケーションを取ることができる日が来ればいいのだが。



「お兄ちゃーん!!」


「うお!?」



頭をバスローブで拭きながら全裸のいのりが例によって扉を蹴り開けて侵入してきた。

ちゃんと体を拭き切れてないからかぽたぽたと床が濡れてる。

あとで床ふくの面倒だなぁと考え込んでいるといのりは俺の下半身を見るとドン引きした表情を見せた。



「おにいってホモなの?」


「ホモじゃねぇよぶっ飛ばすぞ」


「だって、こんな美少女のセクシーな裸を見ても全く反応してないんだもん。自慢じゃないけどEカップだよ? え? まさかED?」


「俺、ロリコンだから」


「そっちだったかっ……」



ガクッと落ち込むように膝をつくいのりさん。



「嘘だよ……本気にするなよ。で? なんの用だよ」


「髪の毛乾かしてー」


「はいはい……」


いつものようにドライヤーとブラシを取り出す。

その姿を見て嬉しそうにバスタオルを体に巻き付け、俺に背を向けてベットに座った。

そんなに髪の毛長くないくせになと心の中で笑いながらドライヤーを起動する。



「〜♪」



上機嫌そうに鼻歌を歌ういのり。

まぁ、これもこいつなりの甘え方なんだろう。



「宿題終わったらシャー芯買いにコンビニ行くけど何かいる?」


「え、まじ? 私も一緒に行こうかな?」


「ついてくんなめんどくさい」


「え、ちょっとガチトーンでいうのやめてよ。泣くよ? いいの? 私泣くよ?」


「だってお前と一緒に出かけるなら女装しなきゃならないじゃん。めんどくせーんだよ」



こいつ、Vチューバーのくせに顔バレをしているのだ。

以前、いのりはイノリのコスプレをアップしたことがあった。言うなれば自キャラのコスプレだ。

それがトレンド入りするくらい好評だったらしく配信する時は自撮りの写真をつけながら告知している。


自撮り写真があるのとないのとでは視聴者数が倍くらい違うらしい。

中身も可愛い。これもイノリが人気の理由の一つだ。



「だってVチューバーは男の影を少しでもチラつかせたら終わりだもん〜」



いのりの言う通りVチューバーはアイドルのような存在だ。

自分の推しに彼氏がいるのを好まないリスナーはたくさんいる。現に恋人がいたことが発覚したVチューバーがものすごい炎上していた。


だからか、いのりと一緒に出かける時(主に夜のコンビニ同行)は女装をしている。


正直、俺たちは義理とはいえ兄妹だ。俺の存在がバレたとしてもそんな問題にはならないとは思うんだが……そこはいのりのプロ意識なんだろうか。



「おにいの女装めっちゃ可愛いし。私が男ならガチで惚れてるな。あれは」



前言撤回。だた俺の女装姿が見たいだけかもしれない。



「つーわけでお前は大人しく配信してろ」



そういうと「はーい」と不満げながらも頷いた。



「お高いアイスね。ちな抹茶黒蜜きなこ味」


「はいはい」



髪の手入れも終わり、いのりは自室に戻り夜の配信を始めた。

その後宿題をやり終えコンビニに行き、アイス二つとシャーペンの芯を購入。

配信は……まだやってるか。



『今ね〜お母さんがアイス買ってきてくれるんだ〜新作の抹茶黒蜜きなこ味!』


<いのすけママでた> <母さんをぱしらせるな> <めっちゃ美味しかったよ> <隊長の食レポに期待>



いのりの配信を見るとゲームをしながらリスナーと雑談をしていた。

ちなみにお母さんというのは俺のことらしい。

これも男の影がうんぬんかんぬん。



『あ、この前さーおに……母さんがお風呂入ってる時に乱入したら追い出された! ひどくない!?』



そりゃそうだろ……と思いながら配信を切り歩き出す。

十分程度で家に到着し、いのりに連絡をいれる。



『今配信終わったから部屋まで持ってきてー』



とのことだったのでいのりの部屋に向かう。

コンコンとノックをして返事が来たので扉を開けていのりに部屋に入る。

ハイスペックなPCやゲーム機やでかいテレビ。漫画やゲーム、ラノベがぎっしり入っている棚。部屋自体は俺が定期的に掃除しているから散らかってはいない。



「買ってきたぞー」


「おお!! てんきゅー!!」



白いパーカを着て、ヘッドホンをつけたいのりがベッドで寝転んでいた。



「ってか、お前がきてるの俺のパーカなんだけど」


「ふふー彼氏パーカならぬ」


「兄パーカとか言ったらぶっ飛ばすぞ」


「……………………」



すっと視線を逸らす義妹にため息をついた。

まぁいいや……とりあえずは



「パーカ返してくれ」


「え、嫌だけど」


伸ばした手をペシっと払われた。


「なんでだよ」


「おにいの匂いに包まれて寝るのが私の夜ルーティーンになってるからさ」



いのりは「フッ」と無駄にニヒルな笑みを浮かべながら言った。



「きっしょ。さっさと脱げよ」


「ちょっと、きしょとかいうな傷つくでしょ……そ・れ・にーいいのかな〜? これ脱ぐと私全裸になっちゃうよ〜?」


「はいはいはい」


「え、ちょっと、引きこもりとはいえぴちぴちのJKぞ? 少しは意識しろ?」


うっふ〜んと挑発的なその表情にイラッと来たのでパーカーを取り戻すためにいのりに近づく。



「あ、ちょっと!! 脱がすのヤメロ!! いいのか? 裸だよ!? 全裸だよ!? なんとも思わないの!?」


「お前の裸なんか飽きるほど見てるわ!!」


「確かにそうだった!!」



いのりがそう言った瞬間、俺のスマホが鳴った。

画面を見ると友人からだったのでパーカを諦め、電話に出るとすぐ切られた。



「?」



なんだったんだろう? かけ間違いとかかな? まぁ、明日学校で聞けばいいか。

パーカを奪われまいと必死に身を屈めるいのりを見てめんどくさくなった。


Myパーカを諦めてため息をつきながらアイスを渡す。



「お金いくらだった?」


「いいよ。アイスくらい」


「え、まじで? やった! お兄ちゃん大好き!! 素敵!! 抱いて!!」


「……は」


「は、鼻で笑われたんだけど……お兄ちゃんてさー私の裸みた後とか、下着とかでいかがわしいこととかしそうになったりしないの?」


「ねーよ……お前も俺の全裸とか下着見ても興奮しないしいかがわしいことしようと思わないだろ?」


「え? 私はあるけど……」


「うん……今のは聞かなかったことにするよ! この話終わり!!」


 

うまうま〜と言いながらアイスを食べるいのりを見て思う。

このくらいの年の女の子なら友達とか彼氏とか作ったり色々としてるだろうに。というかその容姿なら容易いはずなんだけどなぁ……



「なんだよーその心配そうな目は」


「いや……お前に友達とか彼氏とかできる日は来るのだろうかと思って」


「できると思ってるの? 私に?」



ドヤ顔で言うけど誇るところじゃないからな? ほんと大丈夫かな? 心配になってくるんだが……


俺も出会ったばかりはかなり苦戦した思い出がある。

現時点でいのりが気を許した人物はいのりの母親と俺くらいじゃないだろうか。


あ、ちなみにお父さん相手にも心の壁を張っており、2人で話すときは俺の陰に隠れながらでしか会話できない。


無理はする必要はないし、いのりのペースで前に進めばいい。

けど、心配は心配だ。



「それに〜私にはおにいがいるしね〜?」


「はい?」


「いのりはぁ〜お兄ちゃんが大好き過ぎてぇ〜彼氏なんていらないの〜⭐︎」


「……うわ、ブラコンかよ」


「なんだと! お前だってシスコンだろうが」



はい? シスコン? 俺が?



「だっておにい前にさ、クラスの女の子達とカラオケ行ってたでしょ?」


理解できないというおれの考えを察したのかいのりは話始める。

カラオケ……確かそんなことあったな。女の子達というか、男女4人ずつくらいで。



「あの時、私さーお兄ちゃんに寂しい。早く帰って来てって電話したら爆速で帰ってきたじゃん」


「あー確かそうだかなー妹が体調崩したみたいな嘘言って途中で抜けて帰って来たんだっけ」


「いや、もうシスコンじゃん。あの時さー嬉しかったけどぶっちゃけシスコンだな。こいつって思ってました」


「え? いやいや……そんなことないだろう? だってあんな声で寂しいって言われたら心配にもなるって! これが普通だから!」


「その思考がシスコンなんだよ〜気づけよ〜」


「そ、そんな」


いのりはショックを受けている俺を愉快そうに見ていると



「ん? スマホブーブー言ってる〜佐倉さんかな?」


自分のスマホを手にした。

佐倉さんはいのりのマネージャーさんだ。

事務所の出世頭筆頭と言われているほどの社員さんだ。

いのりのVチューバー活動に対して色々と支えてもらっている。こいつにとっては足を向けて寝れない存在。



「えっとーなになに〜? 配信を……き!?」



いのりはばっと顔をあげ、パソコンへと駆け出す。

無言でカチカチと操作した後、何やら悟ったような顔で俺を見つめた。



「ど、どうした?」


「……おにい」


「お、おう」


「配信……切り忘れちゃってたみたい⭐︎」


…………は?


配信……切り忘れちゃってたみたい⭐︎


いのりの言葉が頭の中でループする。


配信の切り忘れ。



「お前……それってVチューバーが一番気をつけないといけないやつじゃないのか?」


「おっしゃる通りです……はい」


「お前……お前……マジか……」


「で、でもまぁ……個人情報とか言ってなかったし! 大丈夫だよ!! 聞かれちゃったのは私とおにいの会話だけだもん!!」


「…………」


「…………」



2人で先ほどまでのやりとりを思い出す。



「いや、完全にアウトじゃね?」


「だよね……」


ブー!! ブー!! とスマホが鳴っていることに気づく。

そしてやっと気づいた……いや気づいてしまった。



『あれ? イノリの配信の謎の男の声……夏樹に似てね?』



俺の入っているグループチャットが地獄になっていることを。



『電話をかけて確証は得た。明日ヤるぞ』



電話……? まさか!! パーカーの時かけてきたのは俺だと確認するためか!!



『は? 俺の最推しの裸を毎日見てるとか○すしかないんだが?』


『初めてだよ……他人に殺意が生まれたのは』


『風見夏樹を処刑せよ』


『風見……お前は生きてはいけない存在だ』


『明日が楽しみっぴ!!』


『風見夏樹は僕が○します』


俺は明日生きて帰れるのだろうか?



翌日



ボロボロになりながら家に帰ってきた。

学校で命懸けの鬼ごっこを繰り広げ、俺は心身ともに限界を迎えていた。



登校時、クラスメイトに声をかけたら


『気安く話しかけるな』


『殺すぞ。豚野郎』


『死ね』


と親の仇のように憎悪の表情で睨んでくる。


親しかった友人達は俺を見つけるや否や奇声を放ち、スコップを持ちながら俺を襲ってきた。

俺はあの時、初めて殺意というものを感じた。

怖すぎてちびりそうになった。



「うわ、おにいボロボロじゃん。ヤンキー漫画みたい」



そんな俺のことを面白そうにみながらいのりが迎えてくれる。

これが死地を乗り越えてきた兄に対する態度か?



「……俺は今日思い知ったことがある……シャーペンで人が殺せるってことだ」


「いや、マジで何があったん?」



本当に危なかった……本当に……イノリの配信のおかげで奴らの意識がそっちにいってなんとか逃げることができたが……あれがなければどうなっていたことか。



「そういえば、配信大丈夫だったのか?」


「あ、うん。最初はめちゃくちゃ炎上したけど、おにいの女装写真とおにいは女の体で興奮しないホモ野郎って説明したらなんとかなった」



ドヤ顔をかましながらウィッグをつけて女装した俺との自撮りツーショットの写真を見せてきた。



「……ん? おい」


「おにいの女装写真めちゃくちゃ好評だったよ。『男の娘ってこと!?』とか『は? 可愛すぎだろ……ホモになります』とか『天使が二人? ファンになります』とか『永遠推し確定』とか流れが完全に変わったね」


「いや、変わったねじゃないんだが?」


「あ、お母さんには近いうちにお父さんとこっち帰るから詳しく説明しなさいって言われたけど……割と真剣な声で」


「テメェこのやろう!!」


デコピンの一発でも食らわれてやろうかと思った瞬間、スマホが振動していたことに気がつく。


そして気がついてしまった。


俺の入っているグループチャットが地獄になっていたことを。



『好きだ付き合ってくれ』


『お前のせいでホモになっちまった。責任取れ。とってください』


『夏樹……お前は俺が守護る』


『実は俺もホモだったんだ……彼氏になってくれ』



こいつら……さっきまで俺のことを狩ろうとしていたくせに……



「SNSのトレンドも私達で独占してるね〜あはは〜」


「あはは〜じゃねぇよ!! いいのか!? お前はそれでいいのか!?」


「マザコンVチューバーからブラコンVチューバになっただけだから問題ないだーよ」


「俺は問題だらけなんだが!? 俺なんて学校の女子達に白い目で見られたり、挙げ句の果てにシスコン呼ばわり! 俺の青春は完全に終わったわ!!」



「青春て……え、何? おにい恋人とか欲しかったの?」


「いや、当たり前だろ」



なんか意外そうな顔をしながら言っているが当たり前だろうが。俺だって彼女の一人くらい欲しい。


仲良かった女の子くらい一人はいたし、その子とは秒読み……だったはずだ。


…………………………た、多分。



「うわーマジでショック受けてる……おーよちよち辛かったね〜?」



赤ん坊を無駄に優しく俺の頭を撫でてくるいのりの手を払う。

なんだか小馬鹿にされているようだ。


「な、なんだよーそういうガチなリアクション求めてないんですけど?」


「なんか……もう……どうでも良くなってきた……ああ〜」


「え? 何手を掲げてんの? 何を掴もうとしてるの? 天井だよ? 星なんてないよ? 大丈夫?」 


「何もかも……虚しい……何もかも」



いのりは落ち込んでいる俺を無言で見つめる。

何か、言いたいことがあるけど、それを言葉にするのは……そんな様子だ。



「なんだよ」



そういうと、少し躊躇うように



「そんなに彼女が欲しいならさ……私でいいじゃん」



そんなことを言い出した。



「は?」


「だから……私が……その……彼女に……な」



本人の中で羞恥心のようなものが膨れ上がったのか最後の『る』がこちらまで聞こえなかった。

いのりとは長い付き合いだ。


だからこそわかる。


いのりは……本気で言ってる。




「ど、どうしたんだよ……いきなり」


「だって、だって……お兄ちゃんがそんなに恋人が欲しいなんて思ってなくて……そりゃ……多少はそうなんだろうなーとは思ってたけど……ガチで落ち込んでるお兄ちゃんの姿見たらさ……」


どんどんと顔が赤くなっていくいのりさん。



「いつか……本当に……私じゃない誰かと恋人に……って思ったら……だから……ああ!! もう!! つまり!!」



羞恥心がマックスになったのかいのりはヤケクソ気味に俺のネクタイを引っ張り、顔を近づけた。


唇と唇が触れ合う。



「はっ……?」


「こ、こ、これで少しは私のことを意識したかい? ブラザー?」



いのりは顔を真っ赤にしながら引き釣りながらもニヒルに笑った。



「……き、今日のところはこれで勘弁してやるわい!!」



耐え切れなくなったのかいのりはうわーと叫びながら部屋へと帰って行った。


その後、いのりが1週間部屋から引きこもったりと色々あっていのりと夫婦になるのだがそれはまた別の話。





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引きこもりの義妹が大人気VTuberなんだか配信を切り忘れて俺との会話が放送されてしまった〜内容が完全に放送事故で義妹のブラコンが完全にバレてしまった件〜 社畜豚 @itukip

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