第9話 生きるという仕事

 ティムは自身の右手を凝視した。

 コンクリートブロックの敷き詰められた地面に、メリメリと押し付けられている。そしてその力は少しずつ増していた。


(このままではマズい!)

「キドウマル! この石を粉砕しろ!」


 ティムから飛び出したキドウマルが石を殴る。

 すると石だった物は次の瞬間、無数の破片となって砕けた。


「やりますねぇ、確かに破壊すれば私の触れたモノとは別のモノになりますからね」


 ツジは笑顔で拍手する。

 それを見てティムは怒るでもなく、ただひたすら冷静に問いかけた。


「なぜ、俺たちを襲う」

「仕事だからですよ、私情があるとすれば仕事だからです」


 男は帽子を脱ぎ、空を仰ぎ見る。


「私は仕事をこなすことでのみ生を実感できます、達成感を得られます。生きるのが仕事だと言うのならば、生きがいも必要でしょう? それが私にとっては仕事だというだけです」

「……狂っているのか?」

「いいえ、断じてノー。別に誰から依頼されたわけでも、なんでもありません。私は『カタリベを殺すこと』が仕事だと思っています」


 ティムの眉がピクリと動く。


「おや? 貴方はをちゃんと理解しているようですね。そう殺すというのは脅しじゃない、本当に人の生命を絶つという宣言です。昨今様々な映像や漫画作品で軽々しく使われるこの単語、人が死ぬということを本当に理解しているのでしょうかねぇ?」

「……」

「殺すということは即ち! 退場! そのキャラクターはもう舞台から消える、という意味なのです! ドゥーユーアンダスタン?」


 ティムはぎゅっと拳を握ると、人差し指で親指を包み込んだ。


「なら、


 いつの間にか拾い集められていたのは、先刻ティムが砕いた石の破片。

 トモエと戦った時の応用で、破片をコイントスの要領で打ち出したのだ。


「ウブメ!」


 無数の破片が弾丸となりツジを襲う。

 しかし――


「危ない、危ない……やはり、追い詰められたネズミの爆発力は……凄まじい、ですねぇ……」


 黒い衣装のせいでハッキリとは視認できないが、確かに傷口と拳から血を滴らせるツジがそこに立っていた。

 どうやら何発かは命中したが決定打となる弾はすべて防がれたらしい。


(殴ったのか?)

「使怪の肉体へのダメージは使役者にも響く、と考えているでしょうか」

「……」

「確かにそれは私も例外ではない、そして貴方のご想像の通り弾はウブメに殴り落とさせました。分かりますか? んですよ」


 ティムの目が見開かれる。


「まさか」

「そう、私のウブメの能力で殴った弾を瞬時に尋常じゃない重さにして、その場へと落下させたわけです。お陰で急所を撃ち抜かれなくて済みましたよ」


 ツジは足元に転がる破片を拾い集めると、まとめてティムの上空目掛けて投げ出した。


「まさに草船借箭そうせんしゃくせん、貴方から受けた攻撃はそのまま私の武器として使わせて貰いますよ!」


 ティムの頭上へと舞い上がった破片が突如、急降下を始める。

 ツジが破片の重さを急激に増やしたのだ。

 無数の落下弾となった破片がティムを襲う。

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