第3話 妖怪殺し
「なんか、話を聞くだけで終わったな」
「そうだな。もっと仰々しい儀式とかあるのかと思ってたんだけどな」
「まあ、依頼は貰えたしさっさとこなしに行くか!」
少し不満そうに本殿から出てくるトモエとナツキ。
二人とすれ違うように一人の女性が階段を上る。
「トモエ……?」
ぴたりと足を止める女性。
しかし、彼女の声は二人に届いていない。
(あの顔、間違いなくトモエ……! どうしてここに? まさか、カタリベになったの?)
女性の顔がどんどん青ざめていく。
そして思わずトモエの背中へと手を伸ばしたが、途中でぎゅっと手を握ることでその行動を抑止した。
女性の銀色の長髪がさらりと肩から流れ落ちる。
(いかないで、トモエ……)
◇ ◆ ◇ ◆ ◇
函館山。
麓まで自然あふれるこの地域には、妖怪も好んで集まってくる。
無論、中には人に害を及ぼす妖怪も。
そんな函館山の山道を二人は登っていた。
「横腹痛くなってきた……ミツカっち、まだ着かないのか?」
「安心しろ、依頼の場所は多分この辺りだ――」
言葉を言い終えようとした瞬間。
トモエ達の頭上にある茂みから何かが飛び出した。
「なっ、妖怪!」
飛び出してきたモノには牙があり、爪があり、殺気に満ち溢れた眼がギラギラと輝いていた。
妖怪は躊躇いなくその鋭い爪でナツキへと切りかかる。
「キク!」
驚きのあまり数秒硬直してしまったトモエだったが、すぐにキクを出して応戦した。
キクは爪ごと妖怪を斬り裂くと、つまらなそうにトモエの中へと戻る。
真っ二つになった妖怪はずるり、とその場へ膝から崩れ落ちた。
「こっわー……」
がたがたと震えるナツキ。
トモエは妖怪の死骸には目もくれず、ソレが飛び出した山道の先を睨みつけた。
山道の先から一人の男が歩いてくる。
その姿は異様で、筋肉質なガタイの良い身体にサバイバルナイフを持ち、顔にはガスマスクを装着していた。
「……なんだ、取られてしまったか」
「取られてしまったか、じゃねえだろ。お前のせいでこっちはけが人出すところだったぞ」
「出てないなら良いだろ?」
マスクの奥から男の冷たい瞳がのぞく。
対してトモエの目は怒りの火がつきかけていた。
「頭に来たぜこの野郎。謝るってことを知らないなら、本能でわかるように叩き込んでやるぜ!」
トモエの怒号と共にキクが飛び出す。
「謝罪は知っている、必要がないから使わないだけだ。何故なら謝る相手がいない、俺より強い相手がな」
「自分より強い相手には尻尾ふるってか」
「違うな。正しいのは勝者、故に俺が負けた場合その時点で間違っていたのは自分となる。だが俺は負けたことがないんでな」
「誇張のしすぎじゃないのか」
「いいや? 負けたらここに俺はいない、死んでるからな。俺の戦いはどちらかが死ぬことで決着する」
男の身体から人型の使怪が歩み出る。
頭には角。手には切れ味の悪そうな太い刀を持ち、成人男性より一回り大きい体格。目は赤く怒りに燃えており、ふーっふーっと今にも切りかからんと息を漏らしている。
「やべーってミツカっち! こいつ今有名な妖怪殺しのティー・エムだよ!」
「妖怪殺しね、大そうな二つ名をお持ちで。けどカタリベはみんな妖怪殺しになるんじゃないのか」
「人一倍殺してるってことだろ!」
「あっそ、悪いが俺はそんなのよりすごいカタリベ殺しを知ってるんでね。一ミリも怖くないぜ」
相手の使怪へとキクが斬りかかる。
「刃なぞ、はじき返して――」
両腕を組み守りの型へと入るティー・エムだったが、キクの刃先を見た瞬間にその動きをキャンセルする。
「よけろ! キドウマル!」
即座に攻撃を避ける。
その甲斐あってか、受けたのは腕にうっすらと切り傷一本で済んだ。
「お前の使怪、妙な日本刀を持っているな」
「ご名答、俺の使怪キクは『どんな物でも斬れる』って能力だ。受け止めようとしたら死ぬぜ?」
「なるほど厄介だ。だが……そうだなもう一度攻撃してこい」
トモエの眉間にしわが寄る。
ここで攻撃するのは危険。わざわざ再度斬るように誘ってきてるってことは、対処法を何か思いついたってことだ。
言われるがままに真正面から斬りかかるのは愚策。
(……だが、チャンスでもある。相手が勝ち誇った時こそ油断が生まれる、そういう意味ではこれは攻撃するべき)
トモエはキクに斬りかからせた。
「ご要望通り、一刀両断してやるよ」
キクはキドウマルの方へではなく、その頭上に生えている樹木目掛けて刀を抜く。
斜めに斬られた木は重力に身を任せてキドウマル目掛け自由落下を始めた!
「木ごと斬り捨てる!」
落ちる木の上から刀を振り下ろすキク。
その刃がキドウマルに届く……ことはなかった。
「良い作戦だ。だが無意味だ」
キドウマルはこぶしを引き、落ちてくる木目掛けて殴り込んだ。
拳先は木を貫き、キクの構えた刀へと到達。
次の瞬間、キドウマルは手を開くと同時に刃を掴んだ!
「お前の刃が腕を斬り終わる前に、握りつぶす!」
キドウマルが掴んだ刃はミシミシと身を軋ませた後、まるでガラスが割れるように破片を散らしながらへし折られた。
あまりの出来事に驚きを隠せないキク。その胸倉を鷲掴みにしたキドウマルはもう一本の腕で彼女の顔面目掛けて一撃を叩き込んだ。
『アシャアッ!』
「うぐぁっ!」
使怪へのダメージは使役者にも伝わる。それはキクとトモエとて例外ではない。
あまりの衝撃に目の前が一瞬真っ白になり、脳がぐわんと揺れた。
しかしすぐにハッと視界を取り戻し、鼻から滴る血を拭う。
「使怪の刃だ。どうせ再生するのだろう? 修復が終わったらもう一度かかってこい」
(野郎、キクの刃を破壊しやがった……! なんて馬鹿力してやがる)
文字通り血の気が引き、怒りで煮えたぎっていた頭に冷静さが戻る。
それと同時にティー・エムの強さを再確認させられた。
(刀を破壊されちまうんじゃ、どうしろっつーんだよ……!)
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