第2話 決着、その後
「お前、有利な状況の割にはさっきから一歩も俺に近づこうとしないよな。それってお前の使怪が、距離を取ることで強さを発揮するタイプの能力ってことじゃないのか?」
男の顔が苦虫を嚙んだように歪む。
どうやら図星らしい。
「そんでこの虫、こいつが使怪だろ」
トモエがパーカーの裏側をめくって見せると、そこにはミノに隠れた虫がくっついていた。
勿論、虫はキクを呼び出して斬り捨てる。
「お前が好きに発火させる能力を持っているなら、こんな遠回しな事をしないで相手自身を発火させればいいもんな。それをせず、身の回りの小物ばかりを燃やしてるってことは、何か制限があるってことだ」
トモエはびしっと男を指さした。
「ズバリ、目視できる物だけを発火させられるんだ」
「うっ」
「たとえ人体を燃やせなかったとしても、時計や服は燃やせているんだ相手のパンツでも発火させてやれば大打撃になるはず。なのにそうしないってことは、間違いなくテメーの目に映るものしか効果対象じゃないってことだ」
男が後ずさる。
それに合わせてトモエも一歩、また一歩と男へ歩み寄る。
「覚悟しろよこの野郎。お前は病院送り決定だ」
トモエが腕を上げると同時にキクが飛び出し、刀を抜き放った。
次の瞬間、男の顔、身体すべてがキクによって乱打されていた。
無数の打撃を喰らった男は後方へと吹っ飛び、指などに至っては曲がってはいけない方向を向いてしまっている。
「俺の大義の勝ちだ、この野郎」
男を見下ろし、そう言い放つ。
「つえー! 本当に強いなあんた、おかげで助かったぜ」
赤髪がトモエへと駆け寄る。
「そりゃよかった。でも今回は運が良かっただけで、次は助けてもらえると思わないことだ」
「いーや、助けてもらえるね」
「え?」
「俺はお前についていくことにしたぜ」
両指を立ててアピールする赤髪。
とっさの事だったのですぐに反応できなかったが、どう考えても厄介。
トモエは首を横に振り断った。
しかし、それでは聞かないのがこの男。
「俺の名前はヒコ ナツキ、カタリベになるためにこの神社へ来たってわけ。見た感じお前もカタリベ志願者だろ? えっと名前は?」
「ミツカ トモエだ」
「いいね、ミツカっち! お前の使怪、かなり強力なヤツと見た。実は俺の使怪はものっすごく、弱いんだよね。だから戦闘面で強い奴とバディを組みたかったってわけよ」
まだ組むとは一言も発していないのに、勝手に話を進められる。
だが不思議とナツキから悪意や敵意のようなものは感じなかった。それ故かトモエもあえて突っ込まず、黙って彼の話を聞いていた。
「俺の使怪は見てからのお楽しみってことで!」
「えー、教えてくれないの?」
「当たり前だろって! 自分の手の内を明かす奴がどこにいるんだよ。まあミツカっちになら教えてやってもいいんだけど、これは知らない方が強い。その方がリアリティのある反応をしてもらえるからな!」
トモエが首をかしげていると、がっしり肩に腕を回すナツキ。
「そんなことより、さっさと行こうぜ。早くカタリベになって仕事をもらう、そんでうまい飯を食う!」
「お、いいなそれ!」
「だろ!」
二人はお互いの肩を組みながら本殿へと上がっていく。
彼らの出会いもまた、この物語を動かす一つの要因となるのは……知る由もない。
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