第5話 戦う
年が明けて2月。ややとしても冷夏その年の冬は、暖冬が通例の筈だったが、何か途方も無い力が作用してか、毎年の豪雪続きとなり。市内除雪が計5回破綻した。
少なくとも青森市役所総務部渉外課経年係を含めた幾人かは知っている。そうあの雨女も猛威に例外は無いと。
雨女は市ノ瀬サリー。ハネト事前申請のリストにも乗っており、昨年は何を神仏の施しかで、誰も気づかない本名登録したので忖度無しに落選した。その後の抗議は、丁重に巡り合わせですからと撥ね退けた。ただ、逃れても青森は理解不能の氷河期に入ろうかだ
そんな強烈な雨女いるのかと、バイアスが働いて懐疑的になったが、その経歴を改めて洗い直すと、膝を抱えてしゃがみ込むしか無かった。
市ノ瀬サリーはその溌剌ぶりからアイドルグループ大所帯スクラップアンドビルドのセンターとして、長らくチャートを賑わした。そうとは言え、執筆活動に開眼し専念したいと5年前に卒業を決めた。ここからが自他ともに認める雨女の本領発揮で、卒業コンサートを催すも、東京スタジアム、横浜球場、日比谷公園大音楽堂の代替えが、豪雨で阿鼻叫喚の雨天中断中止になった。
果たしてサリーは執筆活動に邁進し転機が訪れる。この流行病でリモートワークが多いならと、青森に移住してきた。確かに青森愛はあった。態々青森を3度もツアーに入れたりで、そこは感謝しかない。
ここ迄の会議で、俺が葉子さんに真っ先に吊るし上げられた。何で青森移住お断りをも、それは基本的人権と返し、皆の声にならない溜め息が漏れた。
ここからが青森市役所総務部渉外課経年係の全力だった。流行病の影響で永久活動休止になっているスクラップアンドビルドの活動再開を、国内外の嘆願サイトで、SNSを駆使して、ムーブメントを起こした。同時にMVもビデオ視聴サイトで世界中からアクセスが急上昇し。とうとうスクラップアンドビルドのサイトに謎の、いや再起動しかないカウンターが上がった。
やっと再起動かも、サリーは卒業したのだからになるが、元戸籍課の生真面目の雅さんがマル秘リストを差し出した。そう、スクラップアンドビルドのメンバーは永久活動休止で芸能界に1/5しか残っておらず、伝説のセンターが復帰しない手筈はなかった。
そして、サイトにミッドサマースタジアムツアーが踊った、どストレートのそれかの万感の思いしかなかった。
その当日の午後の表敬訪問で、サリーさんが来訪した。
「色々便宜を図って貰ってますが、ツアーが入ってしまったので、今年のハネトは断念します」
「サリーさん、ねぶたはずっと有りますから、根気よく頑張りましょう。良い事がきっと有りますから」
雅係長は右手のハンカチでサリーさんの涙を拭いながら、後ろ手の左指でグッドサインを送って来る。酷いなと思いつつ、俺たちも後ろ手でグッドサインを作る、ならではのチームワークだ。
一番の難事は回避されたが、これからが風神雷神の神通力を招き寄せるかの大一番だ。より困難な時代だから、きっと慈悲はあると願って止まない。
前触れ 判家悠久 @hanke-yuukyu
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