第4話 聞く

 師も走る時季、どうしても外せない御仁がいると、勅使河原鏡花さんが推しに推したその人物は、青森市から山あいに進んだ竜星寺の全迅和尚だ。


 推挙の一つは、やはり風神雷神にまつわる事で、竜星寺の風神雷神の御朱印帳が御利益あると、流行病の加減で地域の話題がSNSに移った事が大きい。

 竜星寺周辺は、青森市からのシャトルバスがやっとあるも、更に2時間徒歩でつい挫けるらしい。まあレンタカーはあるが、戦国時代に出城であった事から、GPSがあっても迷子になるリアルダンジョンさだ。

 本当に来訪者がいるのかは、写真投稿サイトに風神雷神の御朱印帳を持った記念写真があるので、猛者はいるのよで係一同感嘆しかなかった。


 そもそもお盆前に、仏門の和尚がねぶた祭りに参加しますかから、バディの鏡花さんに腕を引かれては社用車のHonda N-ONEに放り込まれた。道なりは山道から次第に一本道になり、えっつここ通るの内に、一切の躊躇もなく竜星寺の表の雪片付けの山場を兼ねた大きな駐車場に辿り着いた。


 竜星寺の全迅和尚は無邪気な笑顔で迎え、鏡花さんとはこの流行病のご時世なのに、がっちり組んだ握手を離そうとしなかった。俺は、小雪もちらほらでここでは何でしょうからと社屋にへと、二人を押した。


 鏡花さんと全迅和尚の熱いやり取りが始まる。

「全迅和尚の描いた風神雷神の御朱印帳のご利益を発揮させて下さい」

「御利益があるにしても、願い事が全て叶う訳ではなく、絞りに絞り切っての一縷の望みに組み上げている」

「凄い、大聖人ですね」

「太地、一介の僧をそこ迄崇めなくて良い」

「そこを是非に。破れ被れ市長が風神雷神のねぶた8台制作して、災厄を打ち払いたいのが、世界の宿願です」

「風神様雷神様もさも大忙しか。ただ全世界が、災厄、戦争、貧困、環境保全へと一つになろうとしていないのに、まずは本州最北端の神事として、細やかに仕上げられないか」

「全迅和尚、1人を救えるなら、背中に数珠つなぎになっても15人は引き連れて救えますよね。その為にも全迅和尚のお手本のお導きが必要です」額付き、俺も続いた。


 5分の間はあったが、全迅和尚はあい分かったで了承してくれた。ただ俺のラッセラーは苦行だからなと、豪快に笑い飛ばす。

 鏡花さんは、ここ、ここ、と左肘を俺に入れては、お供しますをこれでもかと促す。俺はエイヤーで、お供しますと再びこうべを垂れた。

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