第2話 招く

 お盆が過ぎて、9月1日の予告無しのハネト事前申請は。ホスティング会社の協力もあって無難に立ち上がった。前説は5行位と、募集人数、そして一次合否は追って通達で済ませた。細かな個人情報登録募集でも、漏れ聞いたのか早くも3000人のリストが上がった。ここから俺達の審査会議となる。


 俺達青森市役所総務部渉外課経年係が何故各年代別の辞令となったのは、この人は良い、この人は駄目と、目録無しで、容赦無く仕分けして行った。

 行いは、どうしても生業に繋がる。徳を積めば良縁に繋がり、業が多ければ人は離れる。因果な仕事と思いつつも、1回目の仕分けでは300人と甘めの1割の合否判定となった。これには、係皆が吐息を着いた。余りにも少な過ぎると。そして、例を一切見ない1万人の功徳者を集める為にも、募集の推移を見つつ、声掛け活動に入った。


 俺は最上の伝手を辿った。市役所に程近い港湾中学校に通っていた同学年の速見瑠璃。彼女は2年時の体育祭時にそれは発露された。

 天気予報は曇りも降水は無しだったが、その日の朝はもう雨の中にいるかの湿気だった。教師達は宣誓前に中止の協議に入ったが、瑠璃は何を思ったか、グランド中央に女子8人連れ立って、大振りなモダンバレエに入った。そう、それは晴れ乞いそのもので、進行の程に遠く陸奥湾内で稲光が眩しく光り、轟音が届いては、思わず顔を背けた瞬間に、何故か湿気が吹き飛び、晴れ間も戻って来た。瑠璃はどうしても功徳を施した。


 その瑠璃は、一度もねぶた祭に参加した事は無い。瑠璃の実家は、市役所の真ん前でベーカリーショップを営んでおり。運行ともなれば、群がる観光客相手に飲食物を売るのを手伝っているからだ。

 そう確かに美味い。無性に特製クリームの入ったアップルパイを食べたくなるとつい飛び込んでしまう。そして、いつの間にか顔を覚えられては、またねと可愛く手を振られる。


 そして葉子さんのバディで、ぜひハネト参加をの直談判をしに行ったが撃沈だった。

 瑠璃は来年9月には、イタリアの知り合いのお店に武者修行に行くので、その準備がだった。いやねぶた祭は8月だからも、お店の手伝いがねと申し訳なそうに丁重に断られた。葉子さんがじれったくも切り出す。


「売り子さんは伝手もあるから、私達に任せて。それとここだけの話よ、来年のねぶた祭りが豪雨で目も当てられなかったら、太地はクビの筈だから、そうなると、東京出稼ぎよね。遠いわね」

「俺、ええっつ、」

「それはそうでしょう、予算のついた係なのだから、失敗即ちクビでしょう」

「ちょっと、待ってください、太地、それだと可哀想です」

「瑠璃さん、そうでしょう、太地放っておけないでしょう。そもそもイタリアに武者修行していたら、太地に悪い虫着くわよね。太地、ほら、言いなさいよ」

「瑠璃、今はお客だけど、次はお友達として、付き合ってくれれば」

「これだ、俺と一緒に、ラブラブにハネトしようぜ位、公私混同しなさいよ」

「葉子さん、何を。順序というものが」

「ふふ、太地は無理しなくて良いから。そうですよね、イタリアに行く前に、一回は参加しないと、厨房で白状か君はですよね。私、ハネトになります」


 何か、俺はこれで良いのか、踏み込まなくて良いのかになった。瑠璃がただ優しい眼差しで、大丈夫だからと、何か無性に愛情に触れた気がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る