前触れ

判家悠久

第1話 立つ

 精鋭揃いの青森市役所本庁舎の市長デジタル室へと。駅前の建物を接収した市民窓口のクリフハンガービル庁舎の、俺達一般職員5人が呼ばれた。

 20代の俺深川太地は市民支援課より。30代明石葉子さんは市部開発課より。40代勅使河原鏡花さんは市祭課より。50代天宮雅さんは戸籍課より。60代は千手院鞠庵は厚生課より。


 青森市役所総務部渉外課経年係発足の辞令の前説として、真山照英総務部長より、流行病に左右されるねぶた祭りの運営の円滑の為に、力強く係を新たに発足させると。


 まあ、俺を除くと皆女性の才媛だ。鞠庵さんは定年を外された生涯市職員であり、雅さんは俺が幼い頃から美人さんだなが今も一切変わっていない。鏡花さんは共稼ぎで男子2人を育てつつの市役所の皆の手本だ。葉子さんは、そのう、破れ被れ市長渋澤鐸音の恋人と諭されている。


 そして、その破れ被れ市長の異名になるが。選挙の際の辻説法で、だったらやってみへてけじゃ、それでしたら“しぶさわ たくおん”と熱き一票への融和から、完全保守層強の選挙より、じゃっぱり気質が発揮され、まさかの30代市長当選になった。若いとは言え、熟成された金時を使用したおやきでチェーン展開して、まま青森に突撃して来るインフルエンサーの配信で、SNSでは顔馴染になっている。

 とは言え、市政は素人だろうの議会の総弁論で劣勢だったが、流行病の対処で、確実に全国を先んじており、破れかぶれは先見性へと変わった。


 この流行病で、本当にねぶた祭りをやるのかは。経済を回すとか生命の保全では無く、ねぶた祭りは一年で大切な厄災を祓う礼祭と位置付けて、断行した。


 ただ誤算は一つだけあった。厄災に向けて強靭な風神雷神のねぶたを製作したのだが、風神雷神のねぶたを運行すると雨が降るが通例だった。今年は朝方に強烈な雨が降ったものの、運行では止んだ。それなら良かっただが、それは止んだのでは無くそれて、南東北後に北東北へと線状降水帯がどっかり居座り、酷すぎる水害を齎した。だから見た事かは、辛抱強い青森県人に、因果を表立って付ける者はいない。


 ここからは、渋澤鐸音市長の発足訓戒になる。風神雷神のねぶたが一つで足りないのなら、来年は8つに増やすと。各団体とのネゴシエーションは終えて、天候不順は勿論、今度こそ流行病を吹き飛ばすと意気込んだ。いや、同じモチーフのねぶたはと口が半開きになったが、更に目眩が襲った。

 今年登録制にしたハネト2100人を、来年は1万人に増やす。それに当たっては、漏れなく功徳の強い人徳者のみにする事と。最前提の抽選制度は何処に行ったかだ。

 渋澤鐸音市長と葉子さんの、いつもの痛烈なバトルが始まる。


「その1万人の功徳者、本当に集まるとお思いですか」

「集まらなければ、全世界から集める。その為のハネト養成ビデオも用意して欲しい」

「でしょうね。でもハネトは、腰、ひねり、胆力、豊穣を慣らす、何より喜びを分かち合うです。これが1年そこらの、市外人に出来るとお思いですか」

「それならば問う。青森市民を知り尽くした、君達に本当に伝手はいないのか。ここで振り返れる筈だ。学年に一人、近所に一人、知り合いを通じた一人、それを体良く招集してくれだ。その為にも青森市役所総務部渉外課経年係には立って貰いたい」

「これですよ、全く。それで勝算は、」

「ある。人類が高い壁を超えて行くのは、たった一つの勝利からの始まりの切り崩しだ。何時迄も負け続ける訳には行かない」


 俺は立ち上がってオベーションを送った。係の皆も付き合いましょうかでオベーションを送るも、忽ち囲まれ、一瞥されては程々にねの視線を送られる。どうしても前途多難なのか。

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