第10話 心はケーキのように
─同日18:00頃─
俺と彼女は真っ暗になった外を見ながらリビングでテレビを見ていた。
ソワソワして、落ち着かない。
「ちょっと、私お母さんに電話してみようかな。」
「それがいいよ。…ケーキ、出してみてもいい?全部セットしたらどんな感じなのか見てみたいからさ。」
こくりと頷く彼女。
「取ってくるね。」
嘘だ。本当はなにかしていないと落ち着かなくて、別のことをして気を紛らわせたかっただけだ。
キッチンに向かい両手でケーキを運ぶ。いい感じの見た目だし、これならお互いの両親も喜んでくれるだろう。
「……ダメだ。電源が、切れてるみたい。お母さんモバイルバッテリー持ってないのかな。」
何かがおかしいことは2人ともわかっていた。
でも、それを肯定するということは何かが起こっていることを認めることになってしまう。
それがとても、とても怖かった。突然当たり前の日常が壊れてしまうような気がした。
「そうかもね。」
わざと素っ気なく返事をする。
『速報です。□□県の大型ショッピングモールの地下駐車場で今日の正午頃から発生していた火災が鎮火したとの情報が入ってきました。』
『警察と消防は火災原因を調べると共に亡くなった方の身元特定を─』
ニュースキャスターが届けられた原稿を読み上げる声だけが部屋に響く。
「あそこのショッピングモール火事になってたんだね。気が付かなかった。」
「……ケーキしまおうか。少し寒いから、エアコン付けたいし、クリームが溶けちゃうから。」
「そう、だね!私も手伝うよ─」
プルルルルル、プルルルルル
電話が鳴った。ずっと、待っていた電話。
「私出るね!」
安堵の表情をうかべ受話器を取る彼女。
「あ、もしもしお母、さん…?え?」
様子がおかしい。
「は、はい。□□くんも一緒です。はい。分かりました。」
「どうしたの?母さんたちじゃないの?」
首を振る彼女。
「なんか、□□くんと、私に大事な話があるから聞いて欲しいんだって。スピーカーにするよ?」
「……お電話変わりました。失礼ですがどちら様でしょうか?」
「○✕警察署の□□と申します。」
思わず身構える。
「落ち着いて聞いてください。大型ショッピングモールで起きた火災で発見された遺体の中から、□□□□さん、□□□□さん、□□□□さん、□□□□さんの4人と思われる遺体が発見されました。」
両手から力が抜けケーキが滑り落ちていく。
ぐしゃりと潰れたケーキは消えてしまった命や心を表しているような気がして。
───それからのことはあまり覚えていない。
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