第9話 幼なじみの彼女

 目の前にいる少女。彼女は、俺の幼馴染だ。


 家が近く、互いの両親が仲も良かった。物心ついた時から彼女といつも一緒にいた。


あの日も、そうだった。忘れられない日。


 ─2015年11月26日9:30頃─


「じゃあ、ママとパパ達4人で買い物行ってくるから!」

 母さんが俺たちに話しかける。

「本当に着いてこなくてもいいのか?」

「なんか、今日は2人で遊びたい気分なの。私達のことは気にしなくていいからね!」

「□□くん、本当にいいの?あの子のわがままに付き合わされてない?」

 彼女の母は心配そうに俺を見た。

「□□と遊ぶの楽しいし、いいよ。まあ、お昼とかおやつも用意してくれたし。たまにはゆっくりしてきなよ!」

「ちゃんと家で待ってるから、なんかあったら連絡してね。」

「わかったよ。必ず帰る時には連絡入れるからね。夕飯はせっかくだしみんなで食べようか。」

 嬉しそうに彼女は答える。

「本当に!?楽しみだなぁ!気をつけて、行ってらっしゃい!」

「行ってきます!」

 普通の、家族の会話。

 あの時はまだ、互いの両親が死ぬなんて思ってもいなくて。

 彼女と2人、夕飯のことや何をして過ごすかを笑って話していた。たたそれだけだった。


─同日13:30頃─


「ねぇ、□□。提案があるんだけど。」

「□□くん、急にどしたの?」

「□□の親と俺の親は1週間くらいしか空いてないじゃん、結婚記念日。」

「あ、私言いたいことわかったよ。当てていい?」

彼女は目を輝かせながらこう答えた。

「サプライズだよね?今日準備して帰ってきた時に『おめでとう!』ってやるんでしょ?」

「大正解!」

当てられて嬉しがっている彼女。

「計画はこうだよ!」

俺はそう言いながらメモ用紙にするべきことを書き連ねていった。


【サプライズ計画】

・家の近くにあるケーキ屋さんと花屋さんで花束とホールケーキを買う

↑はお小遣いを出し合って買う

・折り紙とかで飾り付けと手紙


「できた!どうかな?」

「すっごくいいと思う!そうと決まったら、はい!お財布持ってって!」

そうきたか。責任重大。

「足りなかったら困るし、後でレシート見ながら分ければいいよ!時間ないかもだから早く行ってきて!私は飾りつけしてる!」

時間は13:30頃。確かに帰る時電話をくれるとは言っていたけど、油断はできない。

「そういうことなら。行ってくる!」


─同日16:30頃─

「□□くんもう少し高く貼れる?あっ、そこそこ!」

「よし、こんなもんかな。」

いい感じ。

「ケーキも美味しそうなの買えて良かったね〜!」

ホールケーキを買いに行ったところ、店長さんはいい人で『親へのサプライズでケーキを買いに来た』と言ったところ大きなショートケーキを少し安くして売ってくれた。

「ホントにね…。ちょっと疲れたから休憩〜。」

「とりあえず、やることは終わったんだけど。」

彼女の表情が少し曇る。

「電話…まだ、来てないね。」

……確かに少し遅い。

サプライズの準備で気が付かなかったが、この時期になってくるとだいぶ日も陰って、暗くなってくる。

「もしかして何かあったんじゃ─」

背筋が凍る。

「縁起でもないこと言うなよ!少し遅いだけだって。大丈夫!きっと電話を忘れてるだけだって。うん、きっともう帰ってくるよ。」


今思うと、あの時彼女にかけた言葉に込められた気持ちは、彼女に安心してほしい気持ちが半分。の気持ちが半分だった。

いつもひょっこり帰ってきて、冗談を言い合い笑う家族。何か起こっているかもなんて思いたくなかった。

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