登場

筋肉達磨と筋肉達磨が衝突する。

同じ姿、同じ力、同じ殺意を醸しながら、長峡仁衛と、外套の外化師の攻撃は拮抗する。


「(クソッ、だったらッ)」


長峡仁衛は筋肉達磨を解除すると共に、声を荒げながら神胤の廻りを活発化させる。


「「『奇々傀儡人形師』ッ!」」


そして声が重なる。


「…ッ!?」


長峡仁衛の傍に、外套の外化師の傍に、同じ様に、『奇々傀儡人形師』が出現する。


「だったらッ」


瞬間作成によって、長峡仁衛の神胤を消耗させると共に、大量の『骸機』を生む。


「ならば、此方も」


長峡仁衛の作成によって、外套の外化師は同じ様に大量の『骸機』を生み出した。


「行けェ!」


長峡仁衛が叫び、『骸機』に攻撃を仕掛ける。

同様に、外套の外化師も長峡仁衛に向けて『骸機』に攻撃を仕向けた。

両者、絡繰の人形が衝突し合う。


うじゃうじゃと蠢く『骸機』の特攻と反撃。

波と波が衝突し合う最中、一瞬の隙を突いて、該当の外化師が長峡仁衛の方へと向かい出す。


「ッ!」


長峡仁衛は指を構えて士柄武物を召喚する。

座標を己より前に出して、相手を牽制しようとした直後。


相手も同じように、指を構えていた。

指の先端を長峡仁衛の方に向けて、術式を発動している。

直後、長峡仁衛の立つ上空から、大量の剣が落ちていく。


「ッ」


長峡仁衛は肩や脚部に剣の切っ先を受けると共に、一瞬だけ外套の外化師に視線を逸らす。

それが決定打であるように、外套の外化師が長峡仁衛の腹部を突進した速度と合わせて、蹴りを与えた。


「がぁッ」


腹部を蹴られて、長峡仁衛は地面に転がる。

体中が切り刻まれて、痛みでどうにかなってしまいそうだった。


「終わりだ、貴様の術式だけを得て、継いでやる」


そう呟くと共に、今度は、別の式神を扱う。

瞬間的に世界は一転し、周囲は肉の壁と化す。

長峡仁衛は体を起こすと共に、その世界を見た。


「(…『鬼子母尽』、『霊胎回帰』…)」


長峡仁衛の体から力が奪われていく。

その力は、『鬼子母尽』の子の為に奪われていく。


息を荒げる長峡仁衛。


「(俺の術式、その詳細までも、模倣出来るのかよ…奴の口ぶりからして、俺が死んでも、封緘術式は使える…あぁ、畜生、此処で終わりか?)」


長峡仁衛は歯を食い縛る。

体中から力が抜けていく中でも、長峡仁衛は決して諦める事は無い。


「…俺の術式、丸々、手中に収めているのなら…今、俺が何をしようとしているのか。分かるよな?」


長峡仁衛の質問に、外套の外化師は察する。

抜けていく力以上に、長峡仁衛は神胤を発生させると。


「自爆覚悟だ、やるぞ、『斬神斬人ざんじんきりうど』ッ」


熟練度の高過ぎる式神。

長峡仁衛ですら手に余る式神を、召喚した。


「『斬神斬人』ッ、馬鹿な、死ぬ気か」


「自爆覚悟って言ってんだろうが」


長峡仁衛はそう言った。

しかし、一応は制限を掛ける。

術式には何れにせよ、制御不能な代物が存在する。

それを自分の力として制限して運用可能にしてこその術式。


熟練度の高い『斬神斬人』では長峡仁衛は操る事は出来ない。

それは、同様に、外套の外化師も同じなのだろう。


長峡仁衛は、『斬神斬人』の行動時間を僅か十秒のみに制限。

そして、『斬神斬人』に命令出来る回数を絞る事で、何とか運用を可能にする。

それでも、何時でも長峡仁衛の首を狙う事が出来る『斬神斬人』。

その命令に対して長峡仁衛の命は度外視としている。


「切り刻め、空間毎だッ」


長峡仁衛が叫ぶと共に、『斬神斬人』は、空間に向けて斬撃を振るう。

それに従い、四方八方縦横無尽に、斬撃が噴き溢れる。

外套の外化師も長峡仁衛も、その斬撃に皮膚を裂いて肉を裂き、血が噴出する。


「(『一刀万切』ッ、遍く斬撃を放ち、空間そのものに傷を生む異能ッ!術者の命すら鑑みない攻撃かッ)」


長峡仁衛は腕を組んで仁王立ちをする。

相手も動かない、その方が、死ぬ可能性は減る。

斬撃は続く、恐らく、長峡仁衛が設定した十秒と言う時間。

その間は、『斬神斬人』の無類無量の斬撃が続くと想定された。


「(この攻撃で死ななければ…俺の勝ちだ)」


長峡仁衛も限界が近づいている。

それもそうだ、自身よりも格の高い式神を召喚し、使役したとなれば、大量の神胤を消耗するのは当たり前だろう。

七秒、八秒と、時間が経過する。

外套の外化師の、衣服が切り刻まれる、長峡仁衛の鼻筋に斬撃が刻まれて血が流れる。


九秒が経過した最中。

長峡仁衛は組んでいた腕を解いた。

それと同時、外套の外化師は驚愕する。


長峡仁衛は、地面を蹴って、外套の外化師へと走り出す。

十秒に至る寸前、長峡仁衛は士柄武物を取り出した。

それを、外套の外化師に向けて投げる。


「貴様ッ」


外套の外化師が喋る、長峡仁衛の背中に深い斬撃を受ける。

それでも止まらない、外套の外化師は此方に迫る士柄武物を刀で弾く。

十秒が経過する、斬撃は止み、外套の外化師は、その士柄武物を弾く一手に行動を奪われた。

そして、長峡仁衛が懐に入り込むと共に、拳を彼の腹部に当てる。


「『発勁』ッ」


拳から放たれる技術。

その一撃は内臓を破壊する。

一瞬で意識を刈り取られ、『鬼子母尽』の胎内が崩壊していった。


長峡仁衛は、元の世界に戻った時。

其処には、外套の外化師が増えていた。

新たに、四人程、追加しているのを確認した。


我慢の限界である長峡仁衛は、斃れそうになる。


「(まだ、だ…まだ、逢うんだ…小綿、に、死んで、たまるか)」


最後まで、生きる気力を見せながら。

長峡仁衛は、其処で、振り向いた。

視線を感じた。

懐かしい視線だ。

その視線を受けた長峡仁衛は、顔をそちらに向けて、安堵した。


「じんさんッ!」


長峡仁衛が倒れる直前。

白銀の少女が、倒れる長峡仁衛の体を抱き締める。

長峡仁衛は泣きそうになる。

これ程までに逢いたかった家族が傍に居る。


「小綿…本物だ…あぁ、嬉しいなぁ」


長峡仁衛は声を漏らして、彼女のぬくもりを感じる。


「じんさん、これほどまでに、傷ついて…」


痛ましそうに、表情を浮かべる銀鏡小綿。

長峡仁衛を、引き摺りながら、死体とは違う場所へと連れていく。

彼女の登場と変わる様に、ゆっくりと、霊山一族総本山・白純大社へと足を踏み入れる少女の姿があった。

神胤を、紫電へと変えて周囲に発散させながら紫陽花の如き色をする女性が前に立つ。


「…」


黄金ヶ丘クインが、新たに加わった四人の外套の外化師に視線を向ける。

取るに足らない雑魚だと、認識すると、長峡仁衛の方に視線を向けた。


「よくも…兄様を。全員、その命を無碍に散らす覚悟はおありで?」


慈悲をくれてやる様に、黄金ヶ丘クインはその様に問う。

しかし、外套の外化師は笑っている。


「強そうだ、誰が貰う?」


その様に、会話をしていた。

不愉快極まりないと思う黄金ヶ丘クイン。

長峡仁衛は、意識を保つ間に立ち上がる。


「じんさん、駄目です。その傷では」


長峡仁衛は、まだ、やるつもりでいた。

そして、黄金ヶ丘クインに注意する。


「クイン、奴は、奴らは、術式を模倣するッ、多分、術式の片鱗を見せるだけで、完全にコピー出来る」


情報を黄金ヶ丘クインに与えると、彼女は、長峡仁衛の心遣いに笑みを浮かべた。


「…ありがとうございます、兄様。でしたら、ロロ。貴方は兄様を護っていなさい。術式を使わずに…この中だと、貴方が一番厄介ですから」


その様に言うと、辰喰ロロは、長峡仁衛の前に立つ。


「了解です。お嬢様」


その様に答えて、長峡仁衛を護衛する。


「おい…一人で、やるつもりかッ危険だ」


長峡仁衛が加勢しようとするが、辰喰ロロが止める。


「大丈夫だ。お嬢様を信じろ。それよりも、他に情報は無いか?」


辰喰ロロがそう告げると共に、奥に潜む、外套の外化師が指を組んで術式を使用しようとした。


「アイツッ、転生術式を使う、気を付けろッ!道理が来る」


長峡仁衛の声。

しかし、最早、止められる段階ではない。

転生術式を扱う外套の外化師が声を漏らした。


「〈解功道げこうどう油釜の理あぶらがまのことわり〉ッ!」

「〈針身道しんしんどう械律の理かいりつのことわり〉」


だが、既に発動をしているのは此方も同じ事。

転生者が発動する蹂躙の術式、『道理』。

それを妨害し相殺する事が出来るのは、例外を除いて、同じ転生者の『道理』しかない。


驚きの表情を浮かべる転生術式の外化師。

相対するのは、白銀の少女だ。


銀鏡しろみ小綿こわた

霊山家が転生者狩りを行い、長峡仁衛が拾った命。


両者の転生者が敷く『道理』。同時展開となる世界再構築。


「〈蝦蟇唇がまぐち千泥林せんでいりん〉ッ!」

「〈殲機戰戦せんきせんせん〉」


二つの世界が、法則を塗り替えた。

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