破壊
長峡仁衛が光の中へと足を踏み入れて、その体の感覚が次第に消えていく。
どろどろと、まるで液体になったかの様に、彼の体は溶けていき、肉体の感覚は完全に消えた。
次に目を覚ました時。
長峡仁衛は、細長い通路に立っていた。
此処は、長峡仁衛は見覚えがあった。
「…蹴飛ばされた、場所だ」
其処は、長峡仁衛が霊山蘭によって蹴飛ばされて、銀幕から無理矢理落とされた場所だった。
長峡仁衛は後ろを振り向く。
銀幕があった場所は、既に、岩石の壁へと変わっていた。
無限廻廊への門が塞がれたのだろう。
長峡仁衛は岩石に手を添えて、そして手を離す。
銀幕が閉じられた以上、無限廻廊に戻る事は出来ない。
「…これで、帰れるんだ」
長峡仁衛は、なんとか無事に、無限廻廊から脱出する事が出来た。
その事実だけが、嬉しいと思える反面、その間に、もう二度と出てこれない霊山柩の事を思い出す。
「霊山柩。お前を蹴落としてでも、俺は家族の元に帰りたかった…だから、悪いとは思わない」
長峡仁衛は、後ろ髪を引かれる思いを、切り取って、その場から離れようとする。
此処から先が問題だった。
長峡仁衛はこれから、実家である霊山家から出ていかなければならない。
霊山家は、白純大社と呼ばれる、全国に展開された白純神社を統括する総本山であり、その大社は巨大で、多くの祓ヰ師や、霊山家の関係者が滞在している。
其処から逃げる為には、先ずは、多くの祓ヰ師と相手をしなければならない可能性もある。
「(この先、俺が安全に暮らせる可能性が低い…それでも、あの頃と同じ様に、日常で小綿と一緒に生きる為には…)」
此方からの攻撃は、なるべくしてはならないと、長峡仁衛は思った。
「(戦闘は避ける…そして、当主…爺さんに話し合いをするんだ。其処でどうにか折り合いを付けて、此処から出ていく…かなり厳しいけど、やらないと、駄目なんだ)」
そう思い、長峡仁衛は長い通路を歩き続ける。
通路の奥から、光が漏れて、それを長峡仁衛は確認した。
綺麗な光が、長峡仁衛を包み込む。
暖かな光。ようやく、長峡仁衛は湿気た通路から外へと出た時。
「……は?」
長峡仁衛は、まず、噎せ返る様な、煙と血の臭いに疑問を抱いた。
光が目に慣れるまで数秒、その臭いが最初にやってきた時に、感覚がバグってしまったのではないのかと思った。
だが、次に視界が元に戻った時。
長峡仁衛の目の前には、祓ヰ師たちが、血を流して倒れていた。
煙は、白純大社の本殿が、炎によって燃えていたらしい。
「…どういう、事だよ?」
長峡仁衛は、無限廻廊に居た間に、事件が勃発している事に、薄々感付いた。
………。
長峡仁衛が無限廻廊から脱出する前。
事件は数時間前に遡る。
霊山一族には、前々から屋敷の内部を探る者が居た。
白純大社へと潜りこんでは、内部を探索し、霊山一族の人数や警備の配置場所。
そして、白純大社の内部に展開された簡易結界の入り組んだ迷宮から、目的の代物を回収する為の効率を思案し、今日、この日が屋敷内部に侵入する事が決定付けられた。
「では…計画を始めようか」
漆黒の外套に身を包む集団が声を漏らす。
畏霊が展開する
畏霊を式神として使役すれば、幽世を展開させて自由に移動する事も可能だった。
漆黒の外套らは、幽世から霊山一族が住む白純大社前に立つ。
その内、隊長格である人物が、目的と目標を他の人物らに静聴させる。
「霊山一族総本山・白純大社の地下倉庫へ向かい、霊庫を探る…そして
封遺物。
封緘術式を扱う者や祓ヰ師が畏霊や転生者と言った存在や過去に偉業を成し遂げた祓ヰ師の遺体を封印した器物を指す。
そして、
彼ら、漆黒の外套を着込む者らは、その霊庫から、封遺物を回収する事が目的だった。
「邪魔をする者は全て殺せ、封遺物を回収し…その中から、我らが棟梁も必ず回収せよ」
棟梁。
その言葉に、漆黒の外套らは一様に頷く。
彼らの命は、その棟梁の為に捨てる事が出来る駒に過ぎない。
「その為ならば、我々の命は無用だ…此処で死ね、生き残れば、棟梁の手足と成れ…」
黒色の手袋を嵌める漆黒の外套集団。
皆、戦闘を開幕する寸前で声を漏らす。
「我ら』『影なり』『
集団たちは、覚悟を決めて武器を担う。
腰に携えた鞘から一振りの刀、刀身を抜き出して、武器を揃える様に構える。
命を捨てる覚悟を以て、集団たちは準備を整えた。
幽世から出る為の門を形成する。
「〈
「〈
「〈
呪文を口にすると共に形成される幽世から現世へ戻る穴が広がる。
「さあ行くぞ…殺し合いだ」
門を潜り、霊山一族が総本山である白純大社に集団が侵入する。
彼らは外化師。咒界連盟より祓ヰ師としての権利を剥奪された犯罪者集団。
後に彼らは『深影』と名乗り、今回の事件によって、後の咒界の歴史に刻む様な、大事件を引き起こす。
………。
『深影』が白純大社へ侵入。
鳥居前に携わる門番役二名が刀の形状をした士柄武物にて切創、斃れ込むと同時に背後から心臓を突き刺し絶命。
その光景を白純大社勤務の巫女が確認。
侵入者用の警鐘が響き渡ると同時、白純大社勤務の祓ヰ師たちが総出で庭間へと出陣。
『深影』推定人数47名に対し、祓ヰ師は60名。
その内、霊山家が育成した対人部隊『
『深影』の内半数が地面に潜水。
この時点で『深影』の集団の大半は地面に潜る能力者であると判断。
『深影』20名と祓ヰ師60名による戦闘が開始。
三十四分を以て『深影』の殲滅を確認後、祓ヰ師の負傷者、重傷者を医療室へと移動。
白純大社へと侵入した『深影』、その時間帯では侵入者と言う情報のみが白純大社の術師に伝達されていた為に、地面に潜る『深影』を発見出来ずに逃し、地下へと侵入を許される。
五分後、白純大社の霊庫へと到達し、約七割の封遺物が回収されてしまう。
そして、内部攪乱の為に、数名の『深影』が逃走し、残る『深影』を白純大社に残し、後続で追って来た祓ヰ師と戦闘を開始。
そして、同時刻。
長峡仁衛は、白純大社の庭間を見て、騒然としていた。
巫女服を着た女性が血を流して死んでいる。
黒い狩衣を着込んだ戦闘部隊が、道半ばで膝を突きながら倒れて、絶命している。
漆黒の外套を着込んだ烏の様な集団が、討ち死にしていた。
中には、呻き、声を漏らし、痛みを訴えたり、助けを願う者もいた。
「…どう、なってんだよ。これは…」
長峡仁衛はそう思いながら周囲を見回す。
それと同時、白純大社の本殿から、地面には影だけが残っている。
長峡仁衛を通り過ぎて、その影は白純大社へと出て行った。
それと同時、燃え盛る本殿が爆発する。
すると、同時に、祓ヰ師と戦闘を行っていた『深影』が屋根へと飛び移り、息を荒げていた。
「目的は達成した…第一陣、これより撤退する」
そう叫ぶと共に、屋根から庭間へと降りる、数名の『深影』たち。
長峡仁衛を早期に発見すると共に、黒色の刀身をした刃を、長峡仁衛の方に向けて構える。
「数は一人だ、殺せッ!」
長峡仁衛に向けて、そう叫ぶと共に、長峡仁衛は手を叩く。
相手は、長峡仁衛を殺そうとしている。ならば、長峡仁衛が殺し返しても、文句は無いだろう。
「『筋肉達磨』」
長峡仁衛がそう言うと共に、彼の傍にバスケットボールサイズの式神が召喚される。
赤色を帯びた筋肉繊維の塊が、長峡仁衛の肩に引っ付いた。
「なんだか知らないけど、俺を殺す気なら、俺が殺しても文句は無いよな?」
そう言って、長峡仁衛は戦闘を開始する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます