進化


霊山柩は神胤を士柄武物に流す。

上鬼燈火谷家が製造する士柄武物は一般流用されている分、扱い易い代物となっている。

神胤さえ流す事が出来れば、炎の士柄武物を特殊性能を容易に使役する事が出来る程にだ。


二級相当の『灰炎』は神胤を流し込む事で刃から灰色の炎を拭き溢れる。

此方の火は刃から離れると雪の様に舞う、触れる事で接触した媒体を燃やす蛍の火でもあった。


刀を振る事で周囲に溢れる炎の雪に対して、更に二級相当の『狼煙鬼』を使役。

此方も神胤を流す事で特殊性能を発揮、『狼煙鬼』が有する特殊性能は煙を発揮する事が出来る。

此方の能力は名前の通り、狼と化した煙を操作する能力であり、刀を三度振るい、煙の狼を召喚する。

ただ、この能力で作り上げた狼は基本的に攻撃能力は存在しない。


しかし、周囲のものを動かす程の力は持っている。霊山柩は周囲に浮遊する『灰炎』の雪を、『狼煙鬼』から発生させた狼煙を使い、雪に接触させる。

すると一瞬で炎が煙を喰らい、『狼煙鬼』は炎を纏う灰色の狼と化す。

複合技である。霊山柩は、あらゆる武器に対して的確な使用、用途を見出す事が出来る。


それを使役させて、狼煙を操作する。

燃え盛る炎の狼煙が、四方八方から畏霊に向かう。

畏霊は額縁によって飾られた音楽家の写真を灰色の狼に向けた。

そして音を奏でる事で、狼に状態異常を付加しようとしたのだろう。


だが、灰色の狼、それはただ神胤によって操作された傀儡に過ぎない。

従って、畏霊の攻撃に対して、灰色の狼は状態異常に掛かる事は無い。

ならば衝撃波を放とうと音楽家たちが口を開いた最中。

雪の炎の隙間を掻い潜り、霊山柩が即座に接近すると共に、音楽家の胴体部分を刀で突き刺す。


そして、『灰炎』を使用して、音楽家の肉体を燃やす。

悶える音楽家の肉体。写真として飾られた音楽家の顔は、悶え、苦しむ表情を浮かべた。


長峡仁衛の状態異常も解除された様子で、長峡仁衛はゆっくりと立ち上がる。

そして、霊山柩が刀を振り上げて、そのまま、振り下ろす。

それによって、音楽家の核は破壊されて、消滅した。


「あ…あぁ。」


長峡仁衛は勿体ないと思っていた。

状態異常を操る能力を持つ畏霊ならば、所持していて損は無いと思っていた。


だが、彼女が祓ってしまったのならば、それは仕方が無い事だと思った。


「…助かった。ありがとう」


長峡仁衛はそう言って、霊山柩に感謝の言葉を口にする。

霊山柩は、長峡仁衛の方を見て、彼の体をジロジロと見つめた。

何処か、体に怪我は無いのか、見ている様子だった。

彼女の行動、動作は可笑しいものではあるが…それでも、害はないのだろうと、長峡仁衛は思う。



音楽室の奥には楽器を仕舞う場所がある。

長峡仁衛はその倉庫の扉に手を掛けると、白い空間が見えた。

どうやら、その倉庫の奥が、次の迷宮に進む為の場所であるらしい。


「…出口は発見したし」


長峡仁衛は霊山柩の方に顔を向けて、申し訳なさそうに言う。


「悪い…あのさ、このまま、此処で少しだけ、式神の強化でもしてて良いか?」


と、長峡仁衛は言う。

長峡仁衛の式神は、現状は彼女に祓われてしまった為に、戦力が低下していた。


幸いにも出口は早急に発見出来たし、安全地帯で休息する事が出来る。

缶詰も発見したので、暫くは籠城する事も可能だろう。


「俺も、出来るだけ早く外に出たいけど…今の戦力じゃあ、外に出た所で意味が無いと思うんだ」


長峡仁衛はその様に思っていた。

何故ならば、長峡仁衛は、霊山蘭の手によって、無理矢理、無限廻廊へと落とされてしまった。

霊山蘭は長峡仁衛を殺そうとしていて、もしも長峡仁衛が無事に外に出れたとしても、その後に待ち受けるのは霊山蘭による再殺だろう。


ならば、出来るだけ、自衛が出来る程の力を蓄えた方が良いのではないのかと、長峡仁衛は薄々思っていた。


「お前は早く出たいかも知れないけど…駄目かな?」


長峡仁衛は、彼女に聞くと霊山柩は地図をポケットにしまう。

長峡仁衛の言葉に首肯した、それはつまり、長峡仁衛の言葉に賛同したと言う事で間違いないだろう。


「ありがとうな…じゃあ、もう少しだけ散策して、畏霊を捕まえるよ。他の式神が出来るだけ進化出来れば、それで良いからさ」


長峡仁衛はそう言って、早速、音楽室から出て式神強化の為に畏霊の封緘を行う事にする。

彼女はスケッチブックに、何か記載していた。

長峡仁衛は、彼女の言葉を待って、いると、彼女は次第に、文字を完成させて、長峡仁衛に見せた。


『畏霊を封緘するのなら、こっちに、丁度良いのがありますよ!(^^)!』


そう言われて、長峡仁衛は首を傾げる。


「丁度良いのって、何があるんだ?」


『私は、ある程度、畏霊を感知出来るので、より多い畏霊が居そうな場所が分かります。場所からして、体育館でしょうか?其処に、畏霊が密集しているのがなんとなく分かります('ω')』


と、そう書かれていた。

長峡仁衛は、その文字を見て頷いた。


「そうか、だったら、其処で畏霊狩りだ。…本当に悪いと思ってるけどさ、付き合ってくれるか?」


長峡仁衛は彼女に言うと、相変わらず死んだような顔つきで彼女は頷いた。


『構いません、強化をして下されば、私にも都合が良いです!(^^)!』


と。霊山柩はそう書いた。


「(柩も、俺に強くなれって言ってるのかな…)」


長峡仁衛はそう思いながら、彼女の付き添いに甘んじて、体育館へと向かった。



………。



体育館での封緘作業を終えて、片っ端から長峡仁衛は所持式神を強化した。


「(凄い数だったな…多すぎて限界まで進化出来たぞ…)」


長峡仁衛は自らの式神を確認した。


―――――――――――――――――――。

筋肉達磨きんにくだるま

性質:怪異 形状:変異人体型

 肉体が筋肉で出来た畏霊。

 文字通り筋肉繊維で出来た達磨であるが、行動や状況に応じて肉体を変化させる。


熟練じゅくれん度『五十』

 身体性能(最高位百段)

 武力:五十段 速力:五十段 耐力:五十段 気力:五十段 霊力:四十五段 


異能変遷いのうへんせん

 『達磨之槌』筋肉達磨が作り出す武器。術師が使用可能。

 『肉体変異』自らの肉体、形状を変化させる。


―――――――――――――――――――。




―――――――――――――――――――。

鬼子母尽きしもじん

性質:精霊・怪異 形状:変異人体型

 亡き子供を想い、その願いが集い畏霊と化した。

 神に近しいが、神ではない為に名が変わっている。


熟練じゅくれん度『七十三』

 身体性能(最高位百段)

 武力:四十段 速力:十段 耐力:八十段 気力:五十段 霊力:六十段 


異能変遷いのうへんせん

 『霊胎回帰』世界侵蝕を行い、侵蝕範囲内に存在する生物を式神の世界に取り込む。

 取り込まれた者は『子』の為の栄養となり、力を奪われ続ける。



―――――――――――――――――――。




―――――――――――――――――――。


『奇々傀儡人形師』

性質:幽霊・怪異 形状:変異人体型

 人形師として道を究めた畏霊。

 畏霊として転じた存在と成す道を歩まず、人として終わり、死後、畏霊と転じた。


熟練じゅくれん度『六十五』

 身体性能(最高位百段)

 武力:三十段 速力:三十二段 耐力:四十段 気力:四十段 霊力:五十段 


異能変遷いのうへんせん

 『瞬間作成』あらゆる道具を一瞬で作成出来るが、効果や持続時間が低下する。

 『分身人形』対象と似通う分身人形を生み出す。

 『傀儡之糸』対象を操る糸を生み出し、操作する事が出来る。

 『代替形代』攻撃、呪詛を肩代わりしてくれる人形を生み出す。


―――――――――――――――――――。



長峡仁衛は自らの式神を確認した。


『斬神斬人』

『奇々傀儡人形師』

『鬼子母尽』

『筋肉達磨』


これらだけでも、相当の実力、能力を持っている式神。

まず、負けることは考えられない。


式神を捕らえ、万全のために保健室で一泊して、長峡仁衛と霊山柩は次の迷宮へと向かう準備が可能となった。


「それじゃあ…次の迷宮に行くか」


長峡仁衛がそう言うと霊山柩も頷いた。

いよいよ、次の迷宮へと下る。


そして、次の迷宮こそが、長峡仁衛の無限廻廊の最後となるのだった。


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