模型
武器庫に置かれた士柄武物を長峡仁衛は全て回収する。
「(こんな所に保管されている以上、何かしらの能力を持ってるんだろうけど…俺は剣術とか分からないからなぁ…)」
長峡仁衛は士柄武物を召喚する。
基本的に士柄武物は所持者の使用頻度によって士柄武物に神胤を循環させて馴染ませる。
そうする事で己の力の様に扱う事が可能であり、士柄武物の宿る能力も使用する事が出来る。
「(まあ、武器として使うだけでも、十分に強いから良いか)」
長峡仁衛は楽観しながら召喚した武器を解除して戻す。
「(さて、次に人形師を強化しておくか)」
長峡仁衛は肉体に宿る『八尺様』を強化素材に『人形師』を強化する。
「(残り二体くらいか…後は『八尺様』を強化して、他の畏霊を捕まえたら『八尺様』に割り振って『七尋女房』にさせておくか…)」
長峡仁衛はそう決めて、早速進化した『人形師』の情報を確認する。
「(?…『尸解傀儡人形師』じゃない?)」
長峡仁衛が強化した『人形師』は、『尸解傀儡人形師』とはならなかった。
―――――――――――――――――――。
『傀儡人形師』
性質:幽霊・怪異 形状:変異人体型
様々な材料で人形を作る畏霊。
元々は有名な人形師であった。
大切な者を壊されたと同時に、外道へと堕ちたとされる。
身体性能(最高位百段)
武力:十段 速力:十六段 耐力:十八段 気力:二十六段 霊力:三十段
『形代人形』術者を護る身代り人形を作る。最大八体。
『傀儡之糸』指先から糸を伸ばす。糸に触れた存在の行動を制限、操作出来る。
『人形独創』人形を作る。一体しか作れない代わりに継ぎ足しで強化が可能。
―――――――――――――――――――。
「(『傀儡人形師』か…『尸解傀儡人形師』が最大進化って所で、これはその中期の畏霊って所か?)」
若干、異能変遷の効果が劣るものの、それでも破格の性能であると長峡仁衛は思った。
「これで、俺の手持ちは三体かぁ…」
ダメージの肩代わり、糸による対象の傀儡化、際限なく強化する人形を作る『傀儡人形師』。
瞬間移動に似た行動や、対象の過去に遡り攻撃を行う力を持つ『八尺様』。
そして…斬撃を操り、万物を切り裂く事が出来るとされる『斬神斬人』。
この三体が長峡仁衛の式神となるが、懸念する所がある。
「(恐らくだけど、『斬神斬人』は使えない。熟練度が高過ぎて、俺の言う事を聞いてくれないんだ…俺も攻撃をされる可能性も考慮して、自爆覚悟での召喚なら、なんとか出せるかも知れないけど)」
長峡仁衛の悩みの種は尽きない。
それでも、準備は完了した。
………。
ずるずると体を引き摺る音が迷宮に響く。
左腕から先が千切れて、断面から血が溢れている。
牙を剥いて歯を噛み縛りながら、霊山新は目を剥き出しにしながら歩き出す。
「ざ、けんな…あの、あの女ァ、俺の、地図をォ…ッ」
血と涙が交じりながら、霊山新は涙を流していた。
それは屈辱故か、自分の情けなさを恥じているのか。
彼自身、その感情が一体どの様なものであるのかは分からなかった。
「ご当主様…アァ、の、あのクソ、爺がァ…期待、してたんじゃなかったのかッ…俺を、認めたんじゃ、ないのかよォ!」
誰に語っているのか、虚空に向けて声を荒げて、壁に靠れながら歩き続ける霊山新。
彼の手には、くしゃくしゃにした手紙が握られていた。
それは、霊山柩に向けて宛てられた、霊山蘭の直筆のメッセージ。
霊山新は、約束通り、その手紙を見せたと同時。
背後から襲い出す霊山柩によって左腕が千切れて、斃されたのだ。
その後、霊山柩は彼を置いて、長峡仁衛の後を追った。
詰めが甘かったのか、霊山新は生存し、そして、悶えながらも彼は何故彼女が攻撃してきたのか、その原因を探る為に床に捨てられた手紙の内容を確認したのだ。
『柩よ、お前が何故、長峡仁衛の許に向かったかは知らぬ、だが、奴は死んでいる事は間違いない。お前の行動は無駄なのだ。早々に戻って来い。無限廻廊から出れる出口を一つだけ開けておいた、地図もあれば、抜け出せるであろう、近い内に、何者かが霊山家を狙っておる、戦力が要る、お前の力を貸しておくれ、…霊山蘭』
その内容を確認した時、霊山新は疑問に思った。
これは確かに、霊山柩の為に認めた手紙。しかし、その内容は、どう解釈しても、霊山新は度外視している。
出口は一つだけ、地図もあれば…この書き方は、まるで霊山新から奪い取れと言う意味にも見えた。
事実、そうなのだろう。
だから、霊山柩は霊山新を奇襲した。
だから、霊山新は無惨にも、こうして這い蹲っている。
「最初から…俺は使い捨てとして、この無限廻廊に捨て置く算段だってのか?あぁ?!ざけんなッ…ふざけんなッ、クソがァああ!!」
叫ぶ。
痛みを上回る怒りによって霊山新は意識を取り持つ。
歩き、歩き続け、そして、霊山新は、部屋へと向かう。
迷宮の大物が潜む部屋、其処は、『尸解傀儡人形師』が居た場所であり、長峡仁衛と霊山柩が居た場所でもある。
「許さねぇ、ぞッ、其処から、出口から出るのは、俺だァ…ッ!絶対に、絶対に、渡さねぇぞッ!!」
霊山新は、その言葉を言い切ると同時に倒れた。
死と言う絶望を見詰めながら、彼は死へと誘われる。
………。
武器庫の奥。
棚を退かすと、其処には次の迷宮に続く穴があった。
長峡仁衛と霊山柩は共に、迷宮の穴へと降りていく。
数秒程の落下、着地すると、其処は緑色の廊下に、窓ガラスが壁に張った、学校の様な廊下だった。
「今度は学校か?…まあ、良いか、柩。出口は何処だ?」
長峡仁衛がそう言って霊山柩の方を見る。
地図を所持する彼女は視線を前方に向ける。
長峡仁衛も、視線を前に向けると、重苦しい息を吐いて手を前に突き出す。
「開け」
臨核から神胤を生産して掌から放出すると、神胤が形成されて一振りの武器と化す。
曲刀の士柄武物を構えると、霊山柩もスカートの裏から『纏弓』と炎を操る士柄武物を取り出す。
長峡仁衛たちの視線に映るのは、人型だった。
普通の肉体、少し、プラスチックにも似ている。
左半分が、皮膚が剥げて筋肉繊維が剥き出しになっている。
それは、人体模型だった。
人体模型は、クラウチングスタートの様な格好をすると、廊下を蹴って走り出す。
「…」
霊山柩は『纏弓』を構えた。強く弦を引き絞り、士柄武物を矢と化して…放つ。
触れれば接触場所から炎を発生する上鬼燈火谷家自慢の士柄武物。
その一撃は、人体模型に接触せずに、人体模型の前に矢が突き刺さる。
再度、霊山柩が士柄武物を取り出そうとした時、人体模型が飛び込んで、霊山柩の上に覆いかぶさる。
「…」
人体模型は、霊山柩の首に掌を添えて彼女の首を絞める。
人体模型の筋肉繊維が肥大化していき、神胤で強化している彼女の防御を越える程の力で彼女を絞め殺そうとする。
隣に居た長峡仁衛は、彼女の上に乗っかる人体模型に向けて蹴りを放つ。
神胤で肉体を強化しているので、その一撃で人体模型は吹き飛んで壁に衝突する。
すると、長峡仁衛は曲刀で人体模型の筋肉繊維部分を切り裂いた。
ダメージを受けた人体模型に向けて、長峡仁衛は手を伸ばし、頭部を五指で掴んで力を込める。
「封緘」
その言葉と共に、長峡仁衛は、人体模型を封じた。
―――――――――――――――――――。
『
性質:怪異 形状:変異人体型
学校七不思議の一つ。
『動く人体模型』と言う怪談に恐怖を覚えた人の感情から生まれた畏霊。
耐久力は人形と変わらないが、武力と速力が極めて高い。
身体性能(最高位百段)
武力:三十段 速力:三十段 耐力:十一段 気力:二十段 霊力:二十段
『筋骨隆々』筋肉繊維と骨格を増強させ、身体能力を極限にまで高める。
―――――――――――――――――――。
一瞬で情報を確認すると共に、長峡仁衛は廊下で横たわる霊山柩の方へ駆け寄った。
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