肩代
「(相手が雑魚で良かったな…進むか)」
長峡仁衛は『骸機』の残骸を俯瞰しながら先に進む。
道中、何か人の様な気配を感じたが、しかし、こんな場所で人間に出会う筈はないと思い、首を左右に振る。
「(…っと)」
暫く歩いた時。
長峡仁衛は、行き止まりに突き当たる。
いや、正確には行き止まりではない。
襤褸の壁とは違い、其処には重圧な扉があった。
黒色の鋼で出来ている様な扉、明らかに、他の迷宮通路とは違う雰囲気を醸し出す。
「(世に聞く、ボス部屋って奴かな?…だとしたら、此処に入ったら、ボスが待ち受けているってワケか)」
長峡仁衛は後ろを振り向く。
『戦禍の不死者』が待機している事を確認して、扉に手を掛ける。
「(戦力的には不十分。俺も疲弊が募って万全とは言えない状況。しかし休んでいる暇は無い…少なくとも、俺が歩いている間には畏霊が来ない様な安全地帯は無かった。…本当なら『斬人』を回収した方が良いかも知れないけど、…何故か『斬人』を召喚している分の負荷が消えている…俺が成長して、その分容量が開いたって事か?)」
扉に手を掛ける。
「(ボスと出会わないメリットは多いけど…ボスを討伐した時のメリットもある…その内には、ボスを手駒にする事が出来る可能性がある、と言う事。それだけでも、俺が迷宮のボスに挑むメリットはある…それに、強大なボスが存在するのなら、何かを護っている可能性がある…出口かも知れないし、そうでないかも知れない)」
迷う長峡仁衛は、フッと息を吐いた。
「(やっぱり…『斬人』を回収して、そしてなんとか万全な状態で挑もう、そうだ、そうしよう)」
長峡仁衛がそう決心して扉から手を離した時、はは、と長峡仁衛は笑った。
「(式神遣いの弱点は、式神頼りになってしまう事。…万全という言い訳で、俺は逃げたのか、今…そんなんで、強くなれるのか、俺は、この迷宮から出る事が出来て、それで小綿に会えるのか?…)」
否定的な思考が長峡仁衛を責め立てる。
「(…メインアタッカーが居ない状態での戦闘を考慮しないといけない。依存し続けて、駄目になる人間は幾らでも居る…俺は、そうなったら駄目だ)」
重苦しい息を吐いて、長峡仁衛は扉を押す。
迷宮の奥へと、長峡仁衛は踏み込んだ。
座敷の間。
ふと長峡仁衛が、畏霊と相対する前に思った事がそれだ。
とにかく広い空間。百畳以上あるのでは無いのかと思える程に、広大だ。
その屋敷の中心に、畏霊が居た。
蜘蛛の様な八本の手を持ち、青と赤の半々の羽織りを着込んだ、頭部を包帯で巻きつけた、怪物。
長峡仁衛はその姿を見て察する。
「これは、大物だなぁ…」
霊山一族の文献で数多くの畏霊を封緘した際に記録された畏霊管理簿にて見た、数百年前まで遡る畏霊。
名を『
強固な扉がひとりでに閉じる。
恐らくは長峡仁衛が侵入した事でシステムが作動、中に入った人間を閉じ込める、または強固な部屋に閉じ込めた畏霊を外に出さない様にする仕組みであると、長峡仁衛は思った。
「(あぁ、強いな…けど良かった、相手がこれなら…学習済みだッ)」
長峡仁衛は後退すると共に両手で強く体を叩くと同時に神胤を放出させた。
「来い、『七尋女房』ッ!」
形成される式神。
長峡仁衛の身の安全を守るために『七尋女房』を顕現する。
『尸解傀儡人形師』の情報は霊山家の文献や資料で知る。
人形を作る事が出来る能力を持つこの畏霊は、材料として人間の肉体を使う。
この迷宮の中では人間は居ない…だが、その代わりとして『骸機』を生み出しているのではないのかと思った。
相手は強力だが、長峡仁衛は運が良いと思った。
相手の手の内が分かっている、だから、対処するのはたやすいと。
だから長峡仁衛はこの状況下で周囲に攻撃する事が出来る『七尋女房』が適任だと判断した。
岩石で出来た石像のような肉体。
巨大な体が四つん這いのようにその部屋の中に出現する。
『尸解傀儡人形師』が上を見上げた。
何かが降り注いでくる。それは。糸で出来た卵だ。
地面に衝突すると共に、油の様な臭いが発散しながら、液体に塗れた『骸機』が召喚される。
人形を生成する能力を持つ『尸解傀儡人形師』。
無尽蔵に増え出す『骸機』には、『七尋女房』が相応しい。
「叩けッ」
長峡仁衛が命令をすると『七尋女房』は腕を大きく振り上げる。
迫り来る『骸機』たち。
『七尋女房』は地面を叩き割ると、畳が衝撃によって跳ね返る。
そのまま衝撃か伝播していき『骸機』の方へと向かっていき彼らの足を破壊した。
『
天井に吊り下げられていた『骸機』の卵が孵化していき、そこからまた新しい『骸機』が出現する。
「もう一度だ、悉くを倒せッ」
再度、長峡仁衛が命令をする。
その命令に対して『七尋女房』が大きく手を振り上げた瞬間。
長峡仁衛は驚いた。
なぜならば『七尋女房』の攻撃に合わせて『骸機』たちが一斉に飛んだのだ。
衝撃が地面に伝わる。
しかし『骸機』たちは宙に飛んだために攻撃が食らう事はない。
学習していると長峡衛は思った。
他の式神とは違い明らかにあの畏霊は熟練度が高いバル従ってその畏霊の姿勢も多少はあるのだろう。
敵対する相手との戦闘に対して学習する能力が高いと見た。
「厄介なもんだな…ならッ!」
このまま相手が接近すれば物量で巻ける。
ならば遠距離攻撃だ、相手が近づく前に倒しきる。
長峡仁衛が高らかに叫ぶ。
すると『七尋女房』の日に来たいから岩石の破片が周囲に浮かび出す。
幾多もの石礫が、『七尋女房』の体から噴出した。
「行けェ!」
それが『骸機』たちに向かって射出されている。
この攻撃にはさすがに『骸機』たちも対応出来なかった様子だ。
急いで両手を重ねて防御をする事しか出来ない。
しかしその防御ですらも勢いの乗った石礫によって防御をした腕ごと粉砕する。
さらに長峡仁衛は上空に指を指した。
「次は卵だ、撃ち落とせェ!」
『骸機』が増えるのならば、その元凶を潰せば良い。
天井に吊るされた『骸機』の卵を投擲によって石を発射する。
『■■■ッ!!』
『
自らの子供が攻撃された為に怒り狂っているのだろうか、憤怒の混じった大声を漏らす。
畏霊の甲高い声を聞いた長峡仁衛は弱っていると確信した『七尋女房』を使い一気に前へ出る。
「叩き潰せッ、!!」
『七尋女房』に命令を与え長峡仁衛の言葉に頷いた『七尋女房』は腕を振り上げる。
そして『
叩かれた『
「ッ!一撃じゃ無理、だよな、お前の力ならッ!」
明らかに肉体を惜し潰せるだけの威力はあった筈だ。
それなのに『
その代わり周囲に地面に転がる『骸機』の一部が破損していた。
一体だけではない、床に転がる『骸機』全員だ。
「(人形師は人形にダメージを肩代わりさせる。俺の『戦禍の不死者』と同じ効果だ…周囲には壊れていてもダメージを肩代わり出来る人形が大勢だ…だったらッ)」
七尋女房が腕を振り上げ、何度も何度も『
「周囲の人形が粉微塵になるまで叩き潰す」
破壊音が周囲に鳴り響く。
すると周囲の『骸機』が次第に肉体に亀裂を生んだ。
相手がどれほど『骸機』にダメージを肩代わりしていようが、ならば肩代わりを行わせ続け、『骸機』を破壊してしまえばいい。
そうすれば『
そして何度も何度も叩かれているうちに周囲の人形が粉々となる。
『■■■―――!!』
ダメージが入ったらしい。
周囲には肩代わり出来る人形は粉砕され尽くされた。
だから、一撃を受けたと同時に大ダメージが『
肉体が半分ほど潰れて苦しそうに悶える。
「人形師、お前を封緘する」
その瞬間を見据えて長峡仁衛が『
そして…『
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