斬神
長峡仁衛が早速捕まえた迷宮のボスを確認する。
―――――――――――――――――――。
『
性質:幽霊・怪異 形状:変異怪獣型
数百年前に誕生した畏霊。
人の肉体を媒介に人形を作り操る事が出来る。
無機質でも人形として作る事が可能だが、性能は人間を使った時よりも劣る。
身体性能(最高位百段)
武力:三十一段 速力:二十七段 耐力:二十段 気力:十五段 霊力:二十四段
『人形生成』材料さえあれば人形を生成する事が出来る。
『身代人形』自らが生成した人形に攻撃や呪術を肩代わり出来る。術者に対する製作も可能。
『人形統制』作成した人形を操作出来る。
―――――――――――――――――――。
その異能変遷を確認した時長峡仁衛はとんでもないあたりだと思った。
『人形』を生成する事の出来る異能変遷。
それに加えて精製した『人形』を自らのダメージの肩代わりをする事が出来る異能変遷。
そして極めつけは『人形』を統制する事が出来る異能変遷だ。
この異能変遷さえあれば長峡仁衛が頭を悩ませなくても大勢の『人形』を操る事が出来る。
「(熟練度『六十二』か…今の俺は、それくらいの式神を操る事が出来る…取り合えず強化素材を与えて人形師の肉体を回復させておこう)」
熟練度の高い畏霊は、高過ぎれば他の式神を召喚する事は難しくなる。
『
だがそれ以上の熟練度の高い畏霊を召喚してしまえば、長峡仁衛は精神的に摩耗してしまう。
そのようなデメリットがあってもお釣りがくるレベルの異能変遷だと長峡仁衛は思った。
とりあえず長峡仁衛は『
召喚した『
長峡仁衛が早速『人形』の量産をする事にした。
材料として『八尺様』と『戦禍の歩兵』を使用した。
一時間程で『八尺様』一体で『人形』が十体製作する事が出来た。
「えぇっと…『戦禍の歩兵』で作ったのは…」
『戦禍の歩兵』で作られた人形は他の人形とは違う。
人形師はその一体の人形を長峡仁衛に渡して、それを長峡仁衛は受け取る。
『身代わり人形』
術者の肉体の一部を入れると、ダメージを肩代わりしてくれる。
情報を確認した長峡仁衛は、これが自分の身代りになってくれる代物だと確信する。
「じゃあ爪とか髪とか入れておくか、これが量産出来たら、かなり役立つな」
長峡仁衛は『戦禍の歩兵』を消耗して身代り人形を作ろうと思っていた。
その時だった。
長峡仁衛が部屋へと入ってきた時に開いた下入り口の方に液体のようなものが迫って来ている。
長峡仁衛はそれは『雲泥韻音』だと思った。
「(俺の元に戻って来たのか?…いや、これは)」
『雲泥韻音』が長峡仁衛の元へと来たワケではない。
であれば…この近くに出口があるのかもしれない。
長峡仁衛は『雲泥韻音』の動きを止める事なく見ていた。
すると『雲泥韻音』が向かった先は『
長峡仁衛は気がつかなかったがどうやら部屋の奥には重圧な扉があったらしい。
その扉の奥へと『雲泥韻音』が入ろうとしていたところで長峡仁衛が『雲泥韻音』の動きを一旦止めて、命令を中止する。
それに従って『雲泥韻音』は長峡仁衛の元へと帰っていく。
「(そうか、この扉の奥に、次の出口があるのか、じゃあ、遅かれ早かれ、人形師と戦うのは決定付けられてたって事だな…なら、運が良い。他の畏霊も現れそうに無いし、このボス部屋でゆっくりと人形量産を行って置くか…)」
そう考えて、再び人形製作に勤しもうとした最中。
「…?、おえッ」
長峡仁衛は吐いた。
背後から身の毛がよだつ恐怖の塊をぶつけられたような感覚に陥った。
畏霊が所持する特有の力。人間に対する嫌悪感と狂気をオーラとして発する独特の気迫。
「…瘴気か、これ」
長峡仁衛はとっさに振り向く。
薄暗い部屋の中でゆっくりと迷宮の広間へと入ってくる人影があった。
畏霊が侵入したのかと、思ったが、しかし。
長峡仁衛はその姿にどこか既視感のようなものを覚えている。
そして長峡仁衛はその人影が何者であるのか理解した。
「戻って、来たのか?」
『斬人』である。
長峡仁衛の所持している式神がやってきたのだ。
長峡仁衛は『斬人』を探す手間が省けたと思った。
だが、どこか様子がおかしい。
長峡仁衛の所持していた『斬人』とは何処かフォルムが違う。
手に握り締める大太刀、その大太刀を握り締める腕。
螺旋の様に、二つの腕が絡まっているかの様に、野太い。
二つの片手を持つ『斬人』の腕が、一つになる。
襤褸の着物だった衣服は、白色の、小綺麗な着物となり、死装束にも見える、その雪の様に白い布地に、赤い血が付着していた。
口元に噛み締める切腹用の刀。目元は、布を巻き付いて視線を遮る。
喉を鳴らす。
これほどまでの緊張感は久方ぶりだ。
長峡仁衛が一度瞬きをした瞬間『斬人』が刀を振った。
「…ッ」
それによって斬撃が発生し、飛び出しては長峡仁衛の首を切断した。
確かに長峡仁衛が首を切られた。
だが長峡仁衛が所持していた『
それによって、長峡仁衛の首は、身代り人形が切れた。
長峡仁衛は息を飲んだ。
『斬人』が自分に攻撃をするなどまずありえない。
式神は基本的に術者に対して攻撃はしない。
まず、その様に式神となる時に対しての初期契約を行うのだ。
それを破るとなればそれ相応の理由というものが存在した。
「(明らかな暴走だ…何が起こった?)」
長峡仁衛はなぜ式神が暴走しているのかを考える。
『斬人』の姿は、長峡仁衛の記憶の中とは違い、進化している様に見えた。
「(進化…進化かっ)」
そして長峡仁衛は結論に至る。
長峡仁衛が『斬人』と離れている間。
『斬人』は迷宮の通路にて現れた『骸機』と相手をしていた可能性がある。
命令を受けていない『斬人』は自身の身を護る為に『骸機』と戦闘をした。
更に、命令を与えていない為に、畏霊を『喰らっても』良いと、独自に判断したのだろう。
それによって、『斬人』は『骸機』を喰らい続けて進化した、と言った所か。
「(だけど、腑に落ちない…一体、幾らの『骸機』を喰らえば其処まで成長する!?この迷宮には、『骸機』以外の畏霊が居たのか?!あそこまで、俺の命令を効かない程に進化をしていると言う事は…かなりの熟練度に達している)」
先程封緘し、長峡仁衛に従う『人形師』ですらも、長峡仁衛の命令に従う。
熟練度が『六十二』。ならば、『斬人』はそれ以上の熟練度に達していると見て良いだろう。
現状。
長峡仁衛が『斬人』を式神として使役する方法は無い。
だが、封緘する事は出来る。
『
しかし長峡仁衛は冷や汗を流す。
明らかに長峡仁衛よりも上手。
このまま、逃げ出した方が良いと思えてしまう程に、『斬人』は強く、昇華している。
だが、逃げる選択肢など与えぬ。『斬人』は刀を振り下ろす。
光にも似た斬撃が飛ぶ。その斬撃は雷撃だ。不規則な軌道。直角であったり歪曲したり、斬撃に規則性が無い。
だが、確実に長峡仁衛を狙う攻撃。
地面を強く蹴る。
「人形師ッ!」
長峡仁衛の言葉と共に、人形師が自らが作り出した『人形』を操る。
長峡仁衛の前に斬撃が飛び、人形がそれを受け止めるが、複数の人形が切断される程に、その威力は絶大。
人形の壁すら無意味に長峡仁衛に斬撃が迫る。
長峡仁衛は肉体に流れる神胤を過大に放出させて攻撃を受け止めた。
神胤によって強化された肉体、硬度を増す皮膚ですら、斬撃によって裂ける。
「ッ!」
歯を強く噛んで、長峡仁衛は攻撃を耐える。
『斬人』。此処まで強くなるとは思わなかった。
長峡仁衛は、立ち上がり、式神の数を確認する。
『斬人』は決して長峡仁衛を逃がさない。
ならば、戦う他無かった。
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