次期

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戦禍せんか不死者ふししゃ

性質:幽霊・怪異 形状:変異人体型

 戦争の恐怖から生まれた畏霊。

 国を護る為に死しても尚、戦い続ける戦死者の霊から生まれた。

 護る力を臨む者に力を与える。


熟練じゅくれん度『四十』

 身体性能(最高位百段)

 武力:二十段 速力:十七段 耐力:二十段 気力:四十段 霊力:十五段 


異能変遷いのうへんせん

 『銃器発砲』銃火器を使用し、発砲を行う。

 『援護射撃』式神として召喚されずとも、稀に銃器を使用して射撃を行う。

 『士之灯火』術師の能力値を上昇させる。

 『不死之輩』召喚時、術師のダメージを肩代わりする。


―――――――――――――――――――。


新しい式神を所持した長峡仁衛はその異能変遷を確認する。


「(式神として召喚している時にダメージを肩代わりしてくれる、更に俺自身の戦闘能力を上昇させてくれるのか…完全なバフ系の能力だな、これは)」


長峡仁衛は新しい式神の情報を確認した後に、周囲を見回す。

機関銃を装備した畏霊が周囲に集まりつつあった。

それを尻目に、長峡仁衛は指先で地面に触れる。

地面は、紛れもない泥だ。

それを口の中に含んで、舌先で味わってみる。


「(…泥だな。畏霊による現象じゃない。ちゃんとした泥だ。じゃあ…水溜まりもあるだろうし…色々面倒な手順があるけど、どうにか水が確保出来るな…)」


長峡仁衛は、七尋女房の近くに寄り、七尋女房は長峡仁衛を護る為に掌で彼の体を包み込む。


「(『雲泥韻音』は水っぽいけど、肉体は畏霊だから、飲み込めるはするけど毒素を含んでいるから、水を飲むには適していないから…この泥を飲んだ方が、まだ健康的だ…飲み水を確保する為に、先ずは周囲の畏霊を掃討しないとな)」


長峡仁衛は決める。

七尋女房を使役して周囲の畏霊の討伐、及び確保、封印を行う。

無限湧きするが、封印するのに時間が掛かる八尺様とは違い、複数で活動をする『戦禍の歩兵』たちは、全体攻撃を持つ七尋女房によって簡単かつお手軽に、多くの畏霊を封印する事が出来た。


その後、長峡仁衛は近くにある泥水を発見すると、それを衣服を脱いで服に染み込ませる。


「(この水を後で『雲泥韻音』を使って、泥の部分さえとって貰えば水が飲めるな…いや、でも沸騰させた方が確実な飲み水か…戦場だし、何処かに窪みのある鉄板とか無いかな…)」


長峡仁衛は歩きながら、道具が無いか確認した。

そして、数分程歩き続けた時、銃火器を発見する。

畏霊が作り上げたものではない、本物の銃火器だ。


「(戦場を模したこの空間、よりリアルにする為に道具とか置いてるんだろうな…)」


そんな事を考えながら、長峡仁衛は捜索を続けていた。



………。




辰喰ロロはこの黄金ヶ丘邸でメイドを務めている。

彼女は昔、昔黄金ヶ丘邸に救われた経験があり、それが要因で彼女はこの黄金ヶ丘邸のメイドとして働いていたのだ。

彼女の役割は基本的に黄金ヶ丘クインの身の回りの世話である。

料理や洗濯掃除、それらを行うのは無論の事。

決して人に言える事のできない裏方の仕事など、多種多様に行動するのが彼女の役割。

辰喰ロロは黄金ヶ丘クインの料理を仕込むために厨房へと向かった所そこには銀鏡小綿がいた。

何か割れるような音が響いて辰喰ロロはと急いで入ると、そこには皿を床に落として周囲に皿の破片が散らばっている所を呆然と見ている銀鏡小綿の姿があった。


「何をしているんだお前?おいおい、大丈夫か?」


心配するような口ぶりで辰喰ロロは銀鏡小綿の方へと向かって行く。

銀鏡小綿は辰喰ロロに声をかけられた所でそこで初めて我に戻ったかのような顔をした。


「あ…どうも。あの、少し、ぼう、としていたみたいです。じんさんにお料理を作ろうと思っていたのですが…」


彼女の言葉に辰喰ロロは呆れた表情だった。


「長峡の事か?何をバカな事を言っているんだ。長峡は今は霊山家の方に居るだろ?」


彼女の言葉に銀鏡小綿は少しだけ硬直した後に首を縦に振った。


「そう、そうでし、た。じんさんは、居ない、のでした…なんだか、じんさんが。お腹を空かせていると思っていたのですが…」


自分のおかしさに気がついた彼女は何度もうなずいて重苦しい息を吐いた。

そして彼女は地面に転がる皿の破片に手を伸ばす。

片付けようとしているのだろう。

しかしどことなく意識があさっての方向に向いているようで、注意力が散漫だった。

必然的に彼女は皿の破片を掴んで指を切ってしまう。

痛みと共に彼女は手を引っ込めると柔肌に傷ついた指先を見た。

当たり前のように血が流れている。


「また、指を…手当てを、しないと」


「…あのなあ、お前、疲れてるだろ?少し休め、」


辰喰ロロは彼女の容態を見てそのようにアドバイスをする。

そう言われた彼女はなぜかと辰喰ロロの方に目線を向けた。


「分かっていないようなら教えてやる。お前まずは自分の手のひらを見てみろ」


そう言われた銀鏡小綿はゆっくりと視線を自分の手のひらに向けた。

彼女の手のひらにはたくさんの絆創膏が貼られていた。


「普通の人間はそこまで手のひらに傷を作るような真似はしない。明らかに異常だ。…一旦、寝ろよ。それで多少回復するかもしれないから」


「…じんさんが、危険な目にあっているかもしれません…それなのに、私が安心して眠る事など、出来る筈がない」


彼女の言葉に辰喰ロロは溜息を吐く。

そして銀鏡小綿の方に辰喰ロロは近づくと彼女の腕を掴んで引っ張った。


「だったらなおさら休んでおけ。いざという時が起きた時にきちんと対応出来ないだろ。あいつの事を思っているのならまずは自分を大切にしろ」


そのように言ってメイドは、銀鏡小綿を持ち上げて彼女の部屋へと歩いていった。




………。



霊山家。

数豊富な封緘術式を所持する祓ヰ師が多く存在する御三家の一角。

その当主、霊山蘭は今年で八十を迎える老人であり、祓ヰ師と言う業界の中では、長生きの部類に入る。

しかし、いくら長命であろうとも、何れは代替わりが存在する。

近い内に、代替わりが行われる事が揶揄されていた。

現状では、次期当主候補が九名。

血筋が良好であるものや、術式が稀有な代物であるもの、多くの功績を残したもの。

何れも、霊山家の血を持つ者に限られるが、その中から選りすぐられた存在こそが、次期当主の器となる。


「…」


白い修道服を着込んだ、百合の様な色合いをする少女が居る。

彼女は、霊山柩と呼ばれる、当主候補の一人だった。

県外を越えて畏霊を封印、討伐を行った遠征からの帰還。

霊山一族の長へと、霊山柩は報告をしようとした時の事だった。


「おい、柩」


軽薄そうな表情が滲み出る、一人の青年。

髪の毛を緑色に染めた、最先端のファッションに身を包む男性が、彼女が歩く廊下を遮っている。


「帰って来てたのかよ、お前。先に連絡しておけよな」


ニヤニヤと、厭らしい笑みを浮かべながら、その男は言う。

彼は、霊山一族の次期当主候補に選ばれた、霊山新と呼ばれる男だった。

霊山柩は、彼の事など眼中にない様子で、霊山新を通り過ぎる。


「あ、おい、待てよ、話をしてんだからよ、聞けよ」


そう言って、霊山新が霊山柩の歩みを止めようとする。

しかし、止まる様子が無いので、どうにか止めようと話をしようとする。

そして、彼女の注意を引く話でもしようと、ある話題を持ち込んだ。


「知ってるか?あの無能でクズな仁衛が来たの」


その話をすると、霊山柩は歩みを止めた。

霊山新は、長峡仁衛の話に興味がある事に嬉しそうに思えた。

彼は霊山家の中では敵に等しい存在だ。

外部の血を取り込んだ、穢れた存在であり、誰もが長峡仁衛を嘲笑し軽蔑している。


「あいつ、術式が開花した見たいでさぁ…それで一度白純神社に帰って来たんだけど…」


話のオチを溜め込む霊山新。

霊山柩は、声を殺して霊山新を注視する。


「調子乗ってたんだ、アイツ。自分も霊山家になれるって思ってたに違いない。無限廻廊に処分されるとも知らずになぁ!ははッはははッ!受けるだろォ?!」


腹を抱えて笑う仕草をする霊山新。

それを聞いた霊山柩は踵を返して歩き出す。

霊山新の方へと向かって来る為に、彼は引き続き会話を続ける。


「まあ、あんな雑魚の事なんざどうでもいいか。それよりも棺。一緒に飯でも…」


そして、無視される霊山新。

霊山柩は、そのまま、無限廻廊へと続く道へと歩き出す。

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