第19話 美咲は、井坂を懸命に説得するが……?

 陣内が美咲のマンションに泊まった翌日(真里菜の転落死事件から2日後)。

 朝早くマンションを出た陣内は、ひとまず城北大学の自分の研究室にいくことにした。

 授業が始まる1時間以上も前であったが、朝早くから研究室にこもって研究する教員が多く、正門横の守衛室に詰めている警備員に、「おはようございます」と挨拶すれば、なにも不審がられることはなかった。


 朝早くきたものの、陣内はなにも手につかなかった。書きかけの論文の続きを書こうとしたが、頭に浮かぶのは、昨夜美咲に指示された課題。なによりも坂上に会って話をつけるのが、気が重かった。

 坂上は、果たしてすんなり承諾するだろうか? とてもそうは思えない。金に困っているのだ。逆に脅されて、金を強請ゆすられることも考えておかなければならないだろう。どちらにしても、電話で話をつけることはやめ、夜にでもいつか連れていかれたバーを訪ねれば、坂上をつかまえることができるだろうと考えた。


 もうひとつの課題、大麻の栽培装置の処分は、それほど難しいことではなかった。

 幸いにして陣内は車を所有している。水耕栽培、養液循環、人口照明などの装置は、かさばるが、トランクと後ろの座席を使えば、乗用車でも運べなくない。

 粗大ゴミとして直接清掃センターに持ちこめば、そこで処分してくれる。ただ自宅近くの清掃センターだと、誰かに目撃されるとも限らない。隣の区か、それとも思いきって他県まで運んだ方が、賢明かもしれない。

 栽培中の大麻草と完成した乾燥大麻を、どのように処分すべきか? ゴミに出したりすると、足がつく。土に埋めてしまうのが、最良の処分方法だと思うが、果たしてどこに埋めればいいのか、思い浮かばなかった。車で遠くまで運び、どこかの山にでも埋めるほかはない。

 陣内は、思考を巡らし、インターネットで調べたりして、ようやく処分計画がまとまった。


 この日の夜は、美咲の助言で池袋のホテルに泊まるので、実行に移せない。

 翌日の深夜、寝静まった頃、栽培装置と大麻草を地下の駐車場に停めてある車に運びこむ。それまでに、栽培装置をできるだけ解体し、元がなにかわからないようにする。大麻草も切り刻んでおく。

 次の日の早朝、関越自動車道を北上し、東松山インターチェンジで降り、東松山市のクリーンセンターに解体した栽培装置をもちこむ。そのあと、森林公園に立ち寄り、大麻草を土の中に埋めるという計画だった。



 陣内が慌ただしく出かけたあと、美咲は、ひとりマンションに残り、陣内と同じように思考を巡らしていた。法科大学院の授業は2時限から。急いで大学にいく必要はない。

 美咲の課題は、井坂を如何いかにして説得するか、である。

 昨夜陣内は、井坂が朝日体育大学で刑事に顔を見られ、警察に追われていると思いこんでいる。約束した夕方まで、陣内のマンションで大人しく隠れているだろうといっていた。

 井坂に会いにいくのは、夜でもいいはずだ。とり敢えず真里菜は自殺したと、説得するほかはない。万一それで納得せず、警察にいくといい出したら、どうするか?


 大麻のことを絶対に喋るなといっても、井坂には無理かもしれない。気の弱そうな男だと、陣内がいっていた。そうなると、陣内もおしまいだ。せっかく築きあげた陣内の地位と名誉が、一瞬にして崩れ去ってしまう。それだけは避けたい、なんとしても。

「よし」というかけ声とともに美咲は立ちあがり、ランディングデスクに仕舞ってあった睡眠薬をとり出した。1年前不眠症に悩まされたとき、医者に処方してもらったものだ。まだ2袋残っている。それをバッグの中に入れ、大学に向かった。



「井坂君? 私は有村美咲といいます。陣内先生に頼まれて電話してるの……」

 夕方、陣内から預かったプリペイド式スマートフォンで井坂に電話を入れると、呼び出し音が一度鳴っただけで、すぐ井坂が出た。陣内からの連絡を待ちわびていたのが想像できる。

「そうですが……。先生は、どうしたんですか?」相手が陣内でなく、美咲だったので、警戒するような声で返事をした。

「先生は、まだいろいろと調べてるみたい。これから私がそっちにいくから、なにか、ほしいものはある?」


「有村さんっていいましたが、あなたは?」

「法科大学院の2年。私も陣内先生の教え子よ。ところで、ご飯は食べたの?」

「ええ、カップラーメンを食べました」

「それじゃ、お腹がすくでしょう?」

「大丈夫です。それじゃあ、なにか飲み物を買ってきてくれますか? 炭酸が入ったのが飲みたいんですが……」

「わかったわ。1時間ぐらいでいけると思うわ」といって、美咲は電話をきった。


 美咲が陣内のマンションについたのは、7時すぎ。陣内から預かった鍵で、玄関のオートロックを解除し、エレベーターで3階にあがった。

 鍵をもっていたが、チェーンロックがかけられていると思い、玄関のインターフォンのボタンを押した。

 スピーカーからガサガサという雑音が聞こえたので、「今晩は。有村です」と小さな声で応答すると、しばらくしてチェーンロックが外される音が微かに響き、ドアが開いた。

 険しい顔つきをした井坂が立っていた。美咲は、無言で中に入り、鍵をかけ、チェーンロックを降ろした。井坂のあとに続いて、リビングにいくと、井坂が食べたと思われるカップラーメンの容器がテーブルの上に残されていた。


「これ、頼まれたもの」

 美咲は、カップラーメンの容器の横に、ペットボトルに入ったコーラとスプライトを置いた。

「どうも、ありがとう。それで、陣内先生は?」

「先生は、まだ真里菜さんの事件を調べてるみたいだけど……」

「そうですか」残念そうに呟いた。

「でも、警察は、真里菜さんは自殺だったとみてるようよ。11号館の屋上から飛び降りたって」

「そんなこと、絶対ありませんよ! 真里菜が自殺するなんて……」

「わかんないわよ、女心なんて、男には」

「そんなこと、ないですよ! 真里菜に限っては」

「凄い自信だこと。よほど真里菜さんのことが好きだったのね。でもね、女は、男がわからない悩みを抱えてるものなのよ。真里菜さんだって、きっと……」


「もういいんです。これから警察にいって、自分で確かめます。真里菜が死んだというのに、こんなところに隠れてても、なんにもなりませんから。陣内先生によろしくお伝えください」

 井坂は、ソファーに置いてあったディバッグを肩にかけ、部屋を出ていこうとした。

 咄嗟とっさに美咲は、井坂の腕をとった。

「まっ、待ってよ。せめて陣内先生が戻ってくるまで、待っててよ。今から警察にいったって、夜になってることだし……」


「先生は、いつ戻るんですか?」

「まだ時間がかかりそうだといってたから、2、3時間後になるかもしれないけど……。とにかく陣内先生が戻るまで、待っててくれない。

 警察には、明日の朝、いっても遅くないじゃない。ねえ、それまで待ってて! お願い!」

 美咲は、必死になって井坂を引きとめた。最後は、目に涙を浮かべて哀願していた。

「わかりました。明日の朝、警察にいくことにします。それまで、ここで陣内先生が戻ってくるのを待つことにします」

 美咲の気迫に圧倒された井坂は、しぶしぶ了承し、ソファーに座り直した。

 最悪の事態を回避できた美咲は、安堵あんどの溜め息を吐いた。



 夜9時をすぎた頃、陣内は、3ヵ月前坂上に連れていかれたバー『タイム』に顔を出した。あんじょう、坂上はカウンターで飲んでいた。

「珍しいじゃないか。どうかしたのか?」

 坂上は、座ったまま陣内を一瞥していった。もう二度と会わないと、いってたんじゃないのか、という侮蔑ぶべつの表情がこもっていた。

「話があるんだ」立ったまま陣内は小さな声で答えた。

「わかった」坂上は立ちあがり、「ちょっと出かけてくるわ」と、カウンターの中にいた響子に声をかけ、陣内の脇を抜けて表に出た。

 陣内も慌てて坂上のあとを追った。


「なにかあったのか?」坂上は、陣内が追いつくのを待って尋ねた。

「困ったことが起きた……」

 陣内は、その場で事情を話そうとしたが、坂上が再び歩き始めたので、黙ってついていった。

 坂上は、ロマンス通りのロサ会館隣のカラオケボックスに入っていった。

 受付で手続を済ますと、若い店員が案内してくれたのは、3畳もない狭い部屋。坂上は、店員に生ビールを2杯注文し、部屋にあったリモコンを使って適当に選曲した。部屋の中に大音響の音楽が流れ出したので、慌ててボリュームを絞った。


「それで、どうしたんだ? ここだと、誰かに聞かれる心配はない。これだけうるさいと、外から聞こえやしないよ。曲さえかけてれば、変なふうに疑われることもないからな」

「実は、大麻のことが警察に見つかりそうなんだ――」

 陣内は、井坂を使って売りさばいていたことを正直に話し、井坂の恋人である真里菜が殺され、その容疑が井坂にかかっていると嘘をついた。これ以上大麻の密売を続けると、井坂から大麻の件が発覚する恐れがあるので、大麻から手を引きたいと懇願した。


「お前も馬鹿なことをしたもんだなぁ。売りさばくのは、俺に任せることになってただろう。それを素人の大学生なんぞ、使ったりするもんだから、こういうことになるんだ。どうしてくれる?」

「君だって、折半を惜しんで、ネコババなんかするから……。僕も、対抗措置をとったまでだ。君にも、責任の一端はあるんだよ」

「そん、そんなこと、しちゃいないよ。ちゃんと半分は、お前に振りこんでるじゃないか!」

 図星をさされた坂上は、ムキになって怒鳴ったが、ひと息吐き、気をとり直して話を続けた。


「でもな、まだ警察に見つかったわけじゃないだろう。その学生がなんにも喋らなければ、警察にバレることはない。ほんとにそいつが、その女を殺したのかよ?」

「いや、それは、まだなんともいえないよ。もしかすると、自殺かもしれないけど……」

 坂上に問いただされ、陣内は、つい本当のことを口走くちばしってしまった。

「なら、大丈夫だ。お前からその学生に口どめしておくことだな。そいつだって、自分から罪になることを、わざわざ警察に喋ることもないからな」

「そうだけど……。でも、警察はそれほど甘くないよ。この辺りが潮どきだよ。もうやめようよ」


「潮どきって、まだそんなに稼いじゃいないよ。これからっていうときじゃないか。俺はやめる気はないからな。今やめたら、勿体もったいないぜ。どうしてもお前がやめたいというなら、俺にも考えがあるからなぁ」

「考えがあるって、どうするつもりだ?」

「どうするかって、だいたい想像つくだろう。なあ、陣内よ。こんなおいしい儲け話はないぜ。ちょこっと餌を撒くだけで馬鹿な学生が、蟻が群がるように寄ってきて、買ってくれるんだ。まだ見つかってもないのに、怖気おじけづいてやめることはない。そうだろう」

「……」

 これ以上、陣内は反論できず、坂上を説得することを諦めざるを得なかった。


 カラオケボックスの前で坂上と別れた陣内は、今夜宿泊するホテルに向かって歩きながら、これからどうすべきかを考えた。昨夜美咲に大麻の密売をすぐにやめるようにいわれたときも、簡単に坂上が承諾するとは思っていなかった。

 おそらく坂上は、やめるのと引き換えに、金を要求してくるだろうと予測していたが、その考えも甘く、最悪の事態になってしまった。

 こうなったら仕方ない。もうひとつの計画を実行するしかない。ようやく決心した陣内は、電話ボックスに入り、手帳にメモした番号をプッシュした。念のため受話器の通話口にハンカチを巻いておいた。


「はい、山城興業!」ぶっきら棒な声が受話器から聞こえた。

 すぐ陣内は喋ろうとしたが、緊張して声が喉に詰まり、うまく出ない。

「もしもし、もしもし」ぶっきら棒な声が繰り返した。

 陣内は、意を決して話し出した。敢えて大きな声を出して。

「おっ、お宅らは、大学のキャンパスで、学生相手に大麻をさばいているそうじゃないか!」

「てめえ、なに、いってやがる!」

「北口のパチンコ屋でくすぶってる、坂上っていうチンピラを使って、派手にさばいてるって、噂だぜ!」

「てめえ、何者だ?」

「善良な市民さ。天下の山城組ともあろうものが、ケチ臭いこと,しちゃいけないよ!」

「てめえ、なにをほざく――」陣内は,一方的に受話器を置いた。

 ガチャンという音ともにピーと鳴って、テレホンカードが出てきた。

 これでよし。あとは,山城組がうまくやってくれることを祈るしかない。

 陣内は,電話ボックスを出て、ホテルに向かった。



 どうにか井坂を陣内のマンションに引きとめた美咲は、一度大山のマンションに戻った。途中、夜遅くまで開いている量販店のスポーツ用品コーナーで、防寒用のベンチコートと野球帽を購入。どちらも目立たないように黒色を選んだ。

 時計の針が12時をさした頃、美咲は支度を始めた。長い髪を後ろで束ね、上はグリーンのトレーナー、下は紺のジーンズを穿き、その上から買ったばかりのベンチコートを羽織る。野球帽を被り、束ねた髪をコートの中に入れる。黒いマフラーを首に巻き、口元を隠した。ショルダーバッグには、睡眠薬と2メートルほどの荷造り用のビニール紐を入れてある。


 大山のマンションから川越街道に出て、徒歩で池袋方面に向かう。途中、熊野町の交差点で右に折れ、山手通りを南下。まだ電車が動いている時間帯であるが、敢えて電車に乗らず、タクシーも使わず、歩くことにした。人目をできるだけ避けるために。

 要町かなめちょうをすぎ、西武池袋線の椎名町駅付近に到達した頃、井坂に電話を入れた。ようやく陣内が真相を突きとめたので、すぐに会いたいといっていると、井坂を呼び出した。

 待ちあわせの場所に指定したのは、椎名町駅近くの椎名神社しいなじんじゃ。井坂には、タクシーを使わず歩いてくるように指示。陣内のマンションからだと、椎名町駅は直線距離で約1.5キロメートル。それほど時間はかからない。

 先に椎名神社に到着した美咲は、入口の門柱の陰に隠れて井坂を待った。


 20分も待つことなく、井坂がやってきた。手招きして神社の中に呼び入れた。

 閑散とした境内は人気ひとけもなく、手水鉢ちょうずばちの上に、電燈がほのかに灯っているだけで、周囲は暗闇に包まれている。

 社務所しゃむしょの前にベンチがあるのを見つけ、美咲は腰をかけ、井坂にも促した。

「陣内先生は?」すぐに井坂は尋ねた。

「もうすぐくると思うわ。寒かったでしょう。これでも飲んで」

 美咲は、井坂に温かい缶コーヒーをさし出した。自分でも手が震えているのに気づいていたが、井坂は不審がらず、「ありがとう」といって、ひと口飲んだ。


あったまるね。でも、どうして陣内先生は、こんな寂しいところで待つようにいったんだろう?」

「先生は、この近くにいるのよ。しばらくしたら、くるって。さっき連絡が入ったの」

 美咲は、動機が激しくなり、声が震えそうになるのを必死にこらえて、できるだけ平常を装って答えた。

「そうなの……」

 井坂は、納得したのか、残りの缶コーヒーをすべて飲み干した。


 10分ほど経っただろうか、井坂が痺れをきらした。

「遅いですね、陣内先生は。なにしてるんですかね。ここじゃ、寒くて待ってられませんよ。どこか、暖かいところにいきませんか?」

「もう少し待ってよ。さっきすぐ、くるっていってたから……」

 あやふやな返事をしながら、美咲は、早く睡眠薬がきいてくれるのを祈っていた。もうそろそろ眠ってくれてもいいはずだと。

 そのとき、神社の入口付近で、数名の若い男の声がした。酔っぱらっているのか、ひとりが大声で歌い始めた。ほかの男たちがそれをはやし立てている。だんだんとその声が近づいてきた。


「まずいわ。人がくるわ。井坂君、ここを出ましょう!」

 美咲は井坂の腕をとって、近づく男たちとは反対側の裏口にいこうとしたが、井坂の脚がもつれ、危うく倒れそうになった。睡眠薬がきき始めたのか、井坂の意識は朦朧もうろうとなっている。

 美咲は、井坂の腕に肩を入れ、担ぐようにして神社を離れた。

(どうしよう? どうしたらいいの?)

 井坂が眠ったあと、ビニール紐で絞め殺すという計画がもろくも崩れ、美咲はあせった。

(私は、いったいどうしたらいいのよ?)

 夢中で井坂を担ぎながら次善策じぜんさくを考えたが、まったく浮かばず困り果てていたとき、ふと下を見たら、線路が見えた。

 無我夢中で、どこをどう歩いたのか覚えていなかったが、西武池袋線をまたぐ高架橋を通りすぎようとしていたのだった。井坂の体重を支えるのにも、美咲の体力が限界に達していた。


(ここから落とせば、井坂は死んでくれる)

 そう思った瞬間、美咲は、井坂を欄干らんかんの向こう側に突き飛ばしていた。ドサッという音がしただけで、辺りは静まり返っていた。美咲は、全身の力が抜け、座りこんでいた。

 自分が殺人を犯したという恐ろしさのあまり気を失いかけたが、こんなところでじっとしていられないと気をとり直し、早くこの場を離れたくて、夢中で駈け出していた。どこをどう走ったのか、まったく覚えていなかったが、気がつくと、要町の近くまで引き返していた。


 呼吸を整え、自分の持ち物を点検した。帽子とマフラーはちゃんとつけてあった。ショルダーバッグも肩にかかっている。そのとき、井坂がディバッグを背負っていたのを思い出した。

(あのバッグは、どこへいったの?)

 確か井坂を担いだとき、持っていなかったはず。そうすると、椎名神社のベンチに置いたままかもしれない。

(まずい!)

 美咲は、きびすを返し、椎名神社まで引き返した。幸い先ほどの若い男たちの姿はない。井坂のディバッグは、想像したとおりベンチの横に落ちていた。


 美咲は、ディバッグを拾いあげて肩にかけ、大急ぎで大山のマンションに向かう。3時すぎ、やっとの思いで、マンションに辿りついたのだった。

 マンションでディバッグの中身を確認すると、売り物の乾燥大麻、文庫本、手帳、井坂のスマートフォンなどが入っていたが、肝心の陣内との連絡用のスマートフォンが見あたらない。それに、財布もないのに気づいたが、今さら線路に降りて捜すわけにもいかず、諦めるしかなかった。



 次の日の朝、前夜池袋のホテルに泊まった陣内は、大学に出勤すると、事務室が慌ただしいので、顔見知りの職員から、その事情を聞いて驚愕きょうがくした。

 井坂宏治の遺体が、西武池袋線の椎名町駅近くの線路内で発見されたのだという。

(いったい井坂は、どうしたのか? 昨夜美咲は、井坂を説得するといっていたから、井坂と会っているはずだ。もしかすると、彼女が殺したのだろうか? いや、そんなことするはずない。

 おそらく真里菜が死んで、世をはかなんで自殺したのかもしれない。大麻の密売が発覚しそうになり、怖気おじけづいていたから、自殺してもおかしくない。早く美咲と会って、確かめないと……)

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