第17話 殺人事件の有力な容疑者が浮かびあがる!

 真里菜の転落死事件から12日が経過した土曜日の午後。

 法律研究部の部室に、明日香たちが顔を揃えた。明日香、片瀬、麻衣子、エルコバ、ミニコバ、いつもの3年生5人組。

 明日香と片瀬は、昨日見つけた真里菜のメールの件を皆に話して、もう一度今回の事件を整理して、犯人を推理しようと考えていた。

「……ということで、今日、皆に集まってもろたんは、これまでの岡本と井坂の事件の経緯を整理したいと思たからや。そんで、犯人を推理しようやないか? ふたりのために。

 それじゃあ、まず村木から、これまでわかったこと、説明してくれや」

 片瀬が進行役になり、法律研究部のが開催され、明日香が説明を始めた。


「まず、真里菜さんの事件についてだけど――」

 真里菜さんは、何者かに11号館の屋上に呼び出され、そこから突き落とされたと、推測されます。とり敢えず、その何者かを『犯人X』とするね。

 犯人Xは、公衆電話から真里菜さんのスマホに電話をかけてます。これは、刑事さんに聞いたことなんだけど、12時半頃と2時半すぎの2回。ちゃんとお昼休みと3時限が終わったあとにかけてるから、犯人Xは、城北大学の関係者、つまり学生か、教職員でないかと、警察は考えてるみたいよ。


 次に、真里菜さんの恋人である井坂君のことだけど、井坂君が大麻の密売をしてたことは、警察の捜査で、ほぼ間違いないとされてます。

 昼夜を問わずバイトをしてた井坂君が、急にバイトをやめてしまったというのは、おそらく大麻の密売で、それなりのお金をもうけたからだと、推測できるわよね。

 それと、最近真里菜さんが、元気がなく塞ぎこんでいたという千佳ちゃんの証言から、真里菜さんは、井坂君が大麻の密売をしてたことに気づいてたか、もしくは井坂君から告白されてたんじゃないかと思うのよ。

 いくら割のいいバイトだとしても、手が後ろにまわっちゃあ、おしまいよね。それを真里菜さんが、心配してたんじゃないかと、想像できるわ。


 3つ目は、事件の数日前、真里菜さんと陣内先生が、いい争ってたという千佳ちゃんの目撃証言。

 これと、昨日見つけた真里菜さんの陣内先生宛ての2通のメールをあわせると、井坂君に大麻の密売をさせたのは、陣内先生じゃないかという疑いが濃くなるよね。

 メールに「人の弱みにつけこんで」って書いてることから、陣内先生は、なんらかの井坂君の弱みを握り、井坂君に断らせないよう仕向けたとも考えられるわ。残念なのは、真里菜さんのメールで、大麻のことはひと言も触れてないの。だから、確実にそうだとはいえないのよ。

 でもね、真里菜さんが、大学の准教授である陣内先生を脅かしてまで、やめさせようとしていることから、井坂君の大麻密売に陣内先生がかかわってるのは、ほぼ間違いないんじゃないかと思えるの。


 以上を総合すると、犯人Xは、陣内先生だという結論に辿りつくわ。

 つまり、真里菜さんが、井坂君のことを心配して、井坂君に大麻の密売をやめさせようと陣内先生を脅した。やめなければ、大学や警察に告発するぞと。

 この脅かしに屈しなかった陣内先生は、真里菜さんを口封じのため11号館の屋上から突き落として殺してしまった、というのがひとつ目の結論よ。


 井坂君の事件については、おそらく井坂君は、自分から真里菜さんに大麻の密売を告白したんじゃないかと思うわ。陣内先生がかかわってることもね。

 事件の翌日、真里菜さんが殺されたことを知った井坂君は、当然陣内先生が犯人じゃないかと疑うよね。それを確かめるため陣内先生に会いにいった。そこで、陣内先生に捕まり、監禁された。

 陣内先生にとっては、真里菜さん殺しを知られ、大麻の密売に深くかかわってる井坂君を生かしておくには危険すぎるので、殺してしまった、というのがふたつ目の結論よ。

「――以上が、真里菜さんと井坂君の殺害事件の真相だと思うのよ。かなりあたしの推理と憶測が入ってるけどね」と締めくくって、明日香は説明を終えた。


「素朴な疑問なんだけど……」エルコバが口火をきった。

「大学の、しかも法学部の准教授ともあろう者が、誰もが違法だとわかってる大麻の密売なんか、やるもんだろうか?」

「俺もそれについては、しっくりせえへんのや。陣内センセは、刑法の専門家やで。大麻の密売で捕まれば、どれぐらい懲役らうかも、知ってるはずや」片瀬が同調した。


「そうようね。でも、陣内先生って、けっこう贅沢な暮らし、してるみたいよ。身につけるものは、たいていブランド品。いつも高そうなホテルのバーで、お酒飲んでるっていう噂、聞いたことあるわよ」麻衣子の情報通が披露された。

「じゃ、陣内先生は、お金がほしくて、大麻に手を出したっていうの?」ミニコバが異論を挟んだ。

「その可能性があると、いいたいだけよ。城北大学の准教授がどれぐらいお給料、もらってるか知らないけど……。贅沢な暮らしができるほど、高くないと思うわ。現に憲法の板垣先生、彼も准教授だけど、いつもみすぼらしいくたびれたスーツしか着てないもん」


「ねえ、アルマーニのスーツって、いくらするの?」エルコバが誰ともなしに尋ねた。

「そんなこと、知ってるわけないやろ」片瀬が憮然ぶぜんとして答えた。

「だいたい30万から50万ぐらいよ」麻衣子が教えてやった。

「そんなにするの!」

「いいのだと、もっとするみたいよ。ちなみに、板垣先生、スーツは『洋服の青山』で買ってるみたいよ!」

「なんで、お前が知ってるんや?」奇妙に思った片瀬がただした。

「本人に聞いてみたもん。あんまりみすぼらしいスーツなんで、どこで売ってるのかしらと思って」

「あれは、何年も着古しているから、みすぼらしくなってるだけで、あんなスーツが、新品で売ってるわけないよ!」ミニコバが麻衣子に噛みついた。

 最近、このふたり、どうも折りあいが悪いようだ。


「スーツの値段なんて、どうでもいいでしょう。事件に関係ないんだから」明日香が軌道修正を試みたが、それを遮るように麻衣子が、さらに情報通を発揮した。

「でもね、これも噂だけど、陣内先生、大学に内緒で司法試験の専門学校でバイトしてるらしいよ」

「ほんと?」今度は、明日香が反応した。

「ええ、うちの法科大学院生が、ある専門学校で陣内先生の授業、受けたっていってたわ」

「なんでお前が、そんなことまで知ってんだよ?」片瀬が苛立いらだつようにいった。

「バイト先に、うちの院生がいるのよ」

「そうなると、金のために陣内センセが大麻を密売してたことが、あながち否定できへんなぁ。そんでも、自分の教え子を巻きこんでまでやるやろか? 誰が考えても、大麻の密売は犯罪やで!」


 片瀬の疑問に明日香が答えた。

「実は、秋学期が始まった頃、陣内ゼミで、『法規制の限界』というテーマで議論したことがあるの。麻衣子も覚えてるでしょう?」

 まったく記憶がなく、反応しない麻衣子を無視して、明日香が続けた。


「憲法で基本的人権が保障されてる以上、それを制限することは、最小限度にしなければならないことは、当然よね。特に刑罰を科してまで規制するのは、より最小限度にしなければいけない。

 この議論の中で、煙草と大麻が話題に出たの。日本では、煙草は合法なのに、なぜ大麻は違法なのかって。

 知ってると思うけど、大麻は、覚醒剤などの麻薬と違って禁断症状がなく、依存性は煙草よりも低いとされてるの。大麻の健康被害は、すべてが解明されてないけど、煙草の方が大きいという人もいるぐらいなの。それで、海外では、合法にしている国もあるのよ。有名なのはオランダ。街角で大麻を自由に買って、吸うことができるの。

 学生たちで大麻を規制することの可否について議論したあと、最後に陣内先生は、大麻を規制するのは、憲法違反の疑いが濃いとまでいってたの。あたし、今でも、それをはっきり覚えてるわ」


 明日香の論調に皆が圧倒された。少し間をおいて、エルコバが反論した。

「でも、ひとりの学者がいくら持論で合法だといっても、現に日本には、大麻取締法があって、大麻が規制されてることに間違いないんだから……」

「そうよ、そのとおりよ。あたしがいいたいのは、大麻取締法が憲法違反だといってる陣内先生が、大麻の密売をくわだてても、不思議でもなんでもないってことよ!」

 明日香の再反論で、一同黙ってしまったが、突然麻衣子が大きな声をあげた。


「ちょっと待ってよ! 井坂を別にしても、陣内先生は、真里菜を殺すことはできないわ!」

「なんやて!」麻衣子の声に釣られて、片瀬も声をあげた。

「私、あの日、お昼頃池袋について大学に歩いてくる途中、西口でバッタリ陣内先生に会ったのよ。階段のところで鉢あわせになって。

 先生、大きなバッグ持ってたんで、どちらにお出かけですかって聞いたら、これから学会で大阪に出張するっていってたわ。

 じゃあ、明日のゼミは休講ですねって聞いたら、明日の昼には、戻ってくるっていってたの」


「岡本が殺された日に、間違いないんか?」片瀬が念を押した。

「そうよ、間違いないわ! あの日、自主ゼミがあった日だし、陣内先生に会ったすぐあと、エルコバにチョコパ、おごってもらったもの。そうでしょう?」麻衣子がエルコバに問いかけた。

「そうだよ。麻衣子さんと一緒にルーブルにいったのは、自主ゼミの日だったよ。間違いないよ!」

「ってことは、アリバイ成立か。そうなると誰が犯人や? 俺には、陣内センセ以外、それらしき犯人は、浮かんでけえへんで……」片瀬が誰彼だれかれなしに呟いた。


「ちょっと待ってよ。麻衣子は、陣内先生が大阪に出張するところを見ただけだよ。

 いや、正確にいうと、陣内先生が大阪にいくといったのを聞いただけで、実際にいったかどうかわからないよ。

 もしかすると、陣内先生のアリバイづくりのカムフラージュかもしれないよ」

 またもミニコバが麻衣子に反論した。

「確かに、その可能性は残るよね。それに、仮に実際に出かけてて、陣内先生にアリバイが成立するとしても、単独犯が前提となるものね。もし共犯がいれば、陣内先生にアリバイがあろうが、なかろうが、関係なくなるもの」

 明日香も、麻衣子の目撃証言だけで、陣内が犯人でないといいきれないと思った。


 誰も発言しなくなったのを見計らって、片瀬が提案した。

「もういくら考えても、これ以上ええ考え、浮かんでけえへんから、この辺でお終いにしようか?」

「そうしよう!」エルコバとミニコバが賛成した。

「せっかくだから、これからルーブルにいかない? 私、チョコパ食べたくなっちゃったわ」甘党の麻衣子の提案に一同が賛同した。



 ルーブルの前で皆と別れた明日香は、ひとりで家に帰ることにした。片瀬は図書館で勉強、麻衣子はショッピング、エルコバは映画、ミニコバはバイト。けっこう皆忙しい。

 土曜の昼下がり、電車はいていて座席に座ると、ついさっきまで、皆で議論していたことが思い浮んだ。

 法律研究部のでは、結論が出ないままであったが、犯人Xとして陣内准教授がもっとも疑わしい人物として浮上してきた。アリバイ問題をとり敢えず棚あげして考えると、一番有力な容疑者だ。


 でも、なぜか明日香には、陣内がふたりの教え子を殺したとは思えない。

 将来を嘱望されたエリート法学者が、身の破滅に繋がる殺人を犯すとは考えられない。しかも陣内は刑法学者。犯罪や刑罰のことを知り尽くしているはず。

 確かに、大麻の密売が発覚すれば、陣内は大学にいられないだろう。真里菜がメールで書いていた大学や警察に告発するという脅迫は、陣内に強烈に迫ったかもしれない。

 しかし、相手はまだ20歳にも満たない小娘。陣内の話術をもってすれば、真里菜を丸めこむのは容易なこと。いくら脅迫メールがきたからといって、いきなり口封じに殺してしまうだろうか……?


 綿密な理論構成に基づく、学説の展開を得意とする陣内の性格からして、よほど気が動転していたなどの事情がない限り、殺人を犯すような軽はずみのことは、絶対しないだろう。

 それと、常にブランド品を身につけ、格好を気にし、酒が入ると、見境なく女を口説くどく女たらし。学問では論客で、強気な姿勢を見せるが、内心は気が弱く、軟弱極まりない男に、果たして人を殺すことができるだろうか……?

 明日香には、陣内が殺人を犯すなど、とても考えられなかった。


 なにか見落としてないだろうか? そう考えると、陣内の背後に誰かもうひとりいそうな気がする。そのもうひとりが有村美咲ではないかと、脳裏に浮かんだ。

 ひと月前のあの日、陣内に誘惑されそうになったとき、美咲が突然現れた。しかも新宿の高層ホテルのスカイラウンジバーに。あまりにもタイミングがよすぎた。まるで陣内がほかの女を口説かせないように見はっていたかのように。


 そう考えると、陣内と美咲の間に、なにかあるのではないかと疑いたくなる。ふたりは、恋愛関係にあり、美咲が窮地に陥った陣内を救うために、真里菜と井坂のふたりを殺したのではないかと……。

 考えられなくもないが、聡明な美咲が、いくら陣内を愛してるとしても、軽はずみに殺人を犯すなど、絶対にしないだろう。美咲は、決してそんな馬鹿な女ではないはずだ。

 明日香の頭の中は、堂々巡りをしていた。

「所沢、所沢、西武新宿線はお乗換え……」車内放送で明日香はわれに返り、慌てて下車した。



「ただいま」

 明日香が帰宅すると、リビングのソファーで、姉の紀香がひとりくつろいでいた。

「お帰り」左手に煎餅せんべい、右手に湯呑茶碗を持ち、紀香はテレビを観ていた。

「お姉ちゃん、どうしたの? 珍しいじゃん。休みの日に家にいるなんて」

「昨日でやっと校了。この1週間働き詰め。さすがに遊びにいく気も起きないわ」

 出版社に勤務する紀香は、若者をターゲットにした月刊のファッション雑誌を担当している。締めきり間際は、いつも多忙を極める。


「お母さんは?」

「ヨガ」

「あっそう。お父さんは?」

「ポチと散歩」

「ふたりとも、お出かけかぁ。あたしにも、お煎餅くれない?」明日香が紀香の隣に座って手を出した。

「あげるからさ。先にお茶入れ替えてくんない?」紀香は、右手にもっていた湯呑茶碗をさし出した。

 明日香は立ちあがり、紀香の湯呑茶碗をもってキッチンにいき、薬缶やかんに水を入れ、ガスレンジのスイッチを押した。


 見た目は派手な紀香であるが、食べ物の嗜好しこうは純和風。コーヒーにケーキやクッキーよりも、緑茶に煎餅や団子を好む。自分でも、ばばくさいと思いながら、外では自重しても、家ではやめられないらしい。

 明日香が湯呑茶碗を両手にもってリビングに戻ると、ちょうど観ていた番組が終わったのか、紀香はテレビのスイッチをきった。

「どうしたの? 元気ないじゃない。男にでも振られたの?」

「まさか、そんなんじゃないよ!」

「つきあってもないのに、振られるわけないか」

 紀香の嫌味に、一瞬ムカッとなった明日香だが、今回の事件について、姉に相談してみようと思った。紀香ならば、違った観点から事件を分析するかもしれないと。


「お姉ちゃん。実は、大学でね、殺人事件が起こって――」

 明日香は、真里菜と井坂のふたつの殺人事件のあらましを話した。そして、明日香は、容疑者として陣内が最も疑わしく、その背後に美咲がいるのではないかと、推理していることもつけ加えた。

「それで、明日香は、その女が犯人だと、考えてるんだ?」

「そこまでは……。でも、少なくとも、ふたりの共犯じゃないかと、疑ってるんだけどね」

「愛する男のために殺人を犯す馬鹿な女。その美咲っていう人、そんな馬鹿な女なの?」

「全然。彼女は、成績優秀な法科大学院生。来年の司法試験に合格するのは、確実じゃないかと、いわれてる人なの」

「あんたも馬鹿ね。恋愛と学校の成績は関係ないの。いくら成績が優秀でも、恋愛できない女なんて、掃いて捨てるほどいるよ」

「そうだけど」


「あのね。明日香、あんたは、惚れた男と結婚するのと、惚れられた男と結婚するのと、どっちがいいと思ってる?」突然紀香は、矛先ほこさきを変えて質問をぶつけてきた。

「難しい質問ね。あたしなら、好きな人と結婚したいから、惚れた男と結婚する方を選ぶかなぁ」

「だから、あんたはダメなの。じゃあ、男と女、どっちが飽きっぽいと思う?」

「男の方かなぁ」

「処置なし。あきれてものもいえないよ。飽きっぽいのは女の方なの。自分のことだから、わかるでしょう。

 好きだ、れたといっても、女の方が冷めやすいの。これは、統計データからも明らかなのよ。男の方が一途いちずで、未練がましいの。

 あんたの周りにいない? そんな男」

「いないよ!」明日香がむきになって反論した。


「そうだとすると、女が惚れても飽きっぽいから、恋愛は長続きしないけど、男が惚れた方が、愛を持続できるわけ。だから、女は、惚れられた男と結婚するのが最高。惚れた男と結婚するのが最悪なの」

「嘘だぁー!」明日香は、とてもそうは思えなかった。

「あんた、まだわかんないの。うちのお父さんとお母さん、見てるとわかるでしょう。

 あの夫婦、お父さんの方が惚れこんで、お母さんをおがみ倒して、結婚してもらったはずよ!」

「ほんと? そんなこと、誰に聞いたの?」

「誰にも聞いちゃいないよ。あたしの勝手な想像よ。でも、間違いないと思うわ」


 確かに、もうすぐ50歳になろうとする母は、今でも、若々しく美しい。姉とふたりで歩いていると、よく姉妹に間違われる。

 これに対して、父は醜男ではないが、決してハンサムでダンディとはいえない。最近髪は、白く薄くなりつつある。母とふたり並ぶと、こっちは父娘に間違われる。

 でも、夫婦仲はとてもよく、ふたりで買い物や散歩によく出かける。去年銀婚式を迎えたというのに、いまだに父が出勤するとき、お出かけのキスをしているのを見ると、見ている方が恥ずかしくなる。

 明日香は、だんだんと姉の想像が、的を射たものだと思うようになってきた。


「……んで、さっきの話。陣内っていう教師と美咲って院生のことだけど。女の方が、惚れこんじゃってるんじゃないの?」

「それは、わからないよ」

「あたしの経験だと、女たらしの男とつきあえるのは、その男に惚れこんだ女しかいないはずよ」

「そうかな?」

「だとすると、最悪のパターンね。男に愛情が残ってると、まだいいけど、なくなると修羅場しゅらば。逃げる男をどこまでも追いかけちゃうの、そういう女は。

 浮気は認めても、独占欲が強く、最後は、必ず自分のところに戻ってくるっていう変な自信のようなものがあるのよ。

 その反面、相手に自分の存在価値を植えつけるために、どこまでも護ってやろうとする母性本能が強いんだ」


「難しいね。男と女の恋愛って。あたしには、わかんないわ」

「経験もないくせに。あんたにわかってたまるかよ!」

「それで、お姉ちゃんの結論は?」

「犯人は、美咲っていう院生。陣内っていう教師をかばっての犯行。これで間違いないよ!」

「ほんとかな?」

「あたしの恋愛論、甘く見ないで!」

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