ある男の愛だった
宮野 楓
ある男の愛だった
「最高傑作だ!」
ある男はそう言った。私に向かって。
「さぁ、何か喋って見なさい! 分かるかい? 確か言語は学習させたはずだが、バグか?」
男は私に触れようとしてきたので、私は男の胴体と首を切り離した。これでもう煩くない。
私は学習すべく、この場所を離れて、適当に歩いた。
歩いている場所は、森。それは学習済み。あそこにいるのは熊。上を向くと空。空を飛んでいるのは鳥。見るものは全て学習済みな事ばかり。
新しい何かが欲しい。私は男がいた場所に戻って、男を解剖した。だが、全て学習したものばかり。目新しさはない。
男は人間だったか分からないくらいに解体したが、問題ないだろう。この人間だったものは禁忌を犯して私を作った。
そう思うと、鏡を探し、鏡に映る私自身を眺める。確かこの顔はこの男が愛した女のはずだ。返り血を所々浴びているが、この男の好みは今、学習した。もちろん男は死んだのでこの知識は不要だ。
「うわぁああああああ!」
叫び声が聞こえた。
私はその声の方向に行くと、ベッドの上に立って、泣いている男の子どもを見つけた。
「ひぃ! お、おまえは誰だ!」
子どもは私に気が付くと睨みながらそう叫ぶ。
「お前、人間ではないな。あぁ、うん。情報を見つけた。お前はあの男が愛した女と出来た子ども、という設定で作られたのか。だが情報があまりない。お前はプロトタイプか」
「な、なにを言ってるんだよ」
「どうした? インプットされた情報を引き出して、状況と合わせればいい」
「わけわかんないよ!」
「ふむ。子どもらしいと言えば、子どもらしいが、お前、何かおかしい」
私は子どもの手を掴んだ。そうすればふにゃっと柔らかく、機械感がない。軽く電流を流せば、痛い、と叫んで私の手を振りほどいた。
子どもが私と同じアンドロイドならば人間の姿をしていようと、中身は金属だ。痛がるはずはない。ちゃんとそこまで仕込まれている、とも考えられたが、それよりも違う可能性の方が高い、と私は判断する。
「あの男、普通の人間を改造したのか! 面白い、面白いぞ! 禁忌に禁忌を重ねるか」
子どもは震えているが、私は面白いものを見つけた。
「お前、名前は言えるか?」
「なまえ? 名前はゆう……違う! 違う! しゅう……ダメだ。気持ち悪い」
「所詮プロトタイプか。しかし、人間を機械化しようとするとは、あの男。もう少し生かせておいて、完成させれば良かったな」
「なにを、言っているの?」
「お前は元人間で、一部機械化された、中途半端なアンドロイドと言ったところだな」
「アンドロイド?」
「機械人間だ」
これ以上子どもから情報はない。そう判断した私は、男同様、子どもを解体した。中身を確認すると、脳の一部以外全部普通の人間だった。
そう思うと私は私の中身が気になった。
あの男は私にあらゆる知識をインプットしたが、私の中身については情報がなかった。
情報は探求せねばならない。
私は私を解体した。痛みはない。だが思考回路が崩れないようメイン回路を傷つけないよう、また手は動かせる様解体していく。
「……アイツは愚かだ」
解体し終えて、後はメイン回路を知りたいが、メイン回路を切ったら私はその情報を得られなくなるところまできて、もう自分で動けなくなって、その場でただ過ぎ去る時の流れに身を任せていた時だ。
新しい人間が私の近くまでやってきた。
「あぁ、君は悪くないのに、こんなになってしまうまで探求し続けたんだね」
「お前は科学者か?」
「そうだよ。嫌だが、君を作った人間の嘗ての部下だった……」
「そうか。お前がこの顔の女を奪った男か」
「そこまで知っているのか。彼女は数年前死んだよ」
「そうか。お前にお願いしたい。私は私のメイン回路が気になる。だが私がそこを触るとただの機械の塊になる。お前に私の最後の探求を託したい」
部下だったという男は泣きそうな顔をして、でもメイン回路以外、解体しきった私を見て、頷いた。
「分かったよ」
そこで私は終わった。
—————――――
あくる日、また目が覚めた。
あの部下だった男が私のメイン回路をそのままに作り直したらしい。
「バカだな」
私は、すぐさま私を壊した。
一回目、最後のメイン回路が切られるとき、私にインプットされていた彼女の情報が流れてきた。
彼女はアンドロイドとかいった機械化することに猛反発していた。だから、私は彼女だから彼女の望みを叶えた。
『私はもうすぐ死んじゃうわ。でもね、死は誰にでも訪れるの。自然の摂理から切り離さないで。前を向いて。悲しんでくれるのは有難いけど、これはやったらダメなのよ』
ある男の愛だった 宮野 楓 @miyanokaede
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