第3部 第15話 サーサンタへ急げ・・・ない?

〖ナオ〗


真輝まきちゃん・・・綾女あやめちゃんから、停車できそうな場所を見つけたら止めて・・・って』


僕達は今、TOWミサイル搭載タイプと救急車タイプ、2台のハンヴィーに分乗して、今日の目的地である南西の街サイラダームに向かっている最中・・・なんだけど、後続の救急車から車を止めるように無線が入ってきた。


「了解・・・そろそろ昼食にしようか?」


ちなみに今日、既に3度目の停車になる。


「しかし、意外だったな。マイリアさんが・・・車酔いとは」


そう・・・今、救急車のベッドでマイリアさんが横になっている。西園寺さんとミーラがマイリアさんのお世話をしてくれているらしい。


まあ、街道と言ってもアスファルトで舗装された道路を走っているわけじゃないので、今も大きく揺れている。


ただ・・・僕が以前経験した馬車の揺れに比べたら快適だとさえ感じていた。

でも・・・マイリアさんは合わなかったみたいで、王都を出発して1時間もしないうちに顔色が悪くなり、遂に耐えられなくなったのか、ハンヴィーを急停車させて転げだすように外に飛び出していった。


「マイリアさん、今まで馬車の揺れくらいでは酔ったことが無かったらしいよ」


結局、マイリアさんには救急車のベッドで横になってもらっている。少しでもで・・・いうことで、このメンバーの中で唯一の男性である僕は強制的に先頭車両こちらの後席に移動となりました。


ちなみに僕は・・・今現在、隣に座っているサキさんから、リストを突きつけられている最中です。


「ねえ、長谷川さん・・・昼食の後、リストの迫撃砲はくげきほうを1セットと照明弾を1ケース、それにのグレネード用(の照明弾)も1ケース出してくれる?」


「サキさん、照明弾って・・・まだ、お昼前だよ」


「えっとね・・・実は昨夜ゆうべ、4人で夜間対空防衛戦やかんたいくうぼうえいせんについて話をしてたんだけど・・・」


「はい?」


「それで、今度は小型の照明弾を使おうって話になって・・・もちろん今回は赤外線じゃない普通のサーチライトも使う前提で・・・」


「普通の? サーチライト?」


「ほら、小型の迫撃砲ならきっとハンヴィーにも積めるだろうし・・・これで、万が一、夜に襲撃されるような事があっても安心だよ」


「サキさん、そもそもハンヴィーで移動は日中だけ。明日も明るい内にサーサンタに到着する予定でしょ? そんな危険な想像はちょっと・・・」


「それと綾女あやめがね・・・」


西園寺さいおんじさんが・・・なに?」


「サーサンタの街中で試すとを起こすかもしれないから、先に・・・どこか広い場所で試そう・・・って」


「ごめん、迫撃砲と照明弾だったね。ハンヴィーが止まったらすぐに出させてもらうね」




街道の傍に見つけた広い河原にハンヴィーを止め、僕はストレージから昼食のレーションに続いて、サキさんに指定されたM224迫撃砲と8発の照明弾が入った箱、それにグレネード用の照明弾が入った箱を取り出した。


「それじゃあ、まずはグレネードからいってみようか?」


サキさんが、愛用のM4カービンに取り付けたM203グレネードランチャーを意味も無くカチャカチャとスライドさせている。


そして、箱からいつものの40mm砲弾カートリッジよりも明らかに長い、照明弾の白い砲弾カートリッジを抜き取ってランチャーに装填し・・・


ランチャーを川の方向に、角度は斜め上を向けて構えた。


「じゃあ、いくよ~」


ボシュ


発射された砲弾は、途中までは緩い弧を描くように飛んでいく、そして、ちょうど最高到達点を過ぎて落ちはじめたくらいの位置で、突然強い光を発生させながら燃えだした。


その燃える光の玉は煙の尾を引きながら、ゆっくりと地面向かってに落ちていく・・・


カチャ


サキさんは空の砲弾カートリッジを抜き取って、次の白い砲弾カートリッジを装填してもう一度同じ方向に向けて発射した。


ボシュ


今度も同じように、光の玉が落ちていく・・・


「一応使ってはみたけど・・・これは、あくまで緊急時・・・かな?」


「ああ、コレを連続で撃ってると、他の事は出来そうに無いね」


「そうよ、やっぱり本命はコッチでしょう」


いつの間にか、首にイヤーマフをかけた西園寺さんが、うれしそうに迫撃砲の部品から筒(野球のバットくらいかな)と穴の開いた三角形の車止めみたいなモノを取り出して組み立てている。


その筒には・・・U字型の持ち手と、お寺で見かける擬宝珠ぎぼしみたいな丸い玉がついていて、その玉を車止めに空いた穴に差し込んだ


「よし、完成」


一見すると車止めに筒が刺さっている・・・だけ


「あの・・・西園寺さん、部品がかなり余っているみたいだけど、大丈夫?」


ベースプレートも2脚も、照準に使う部品も手付かずで放置されている。


「大丈夫ですよ。実はこの迫撃砲、2つの部品があれば発射できるんです」


「確か1人でも運用できるように・・・だっけ? 一度はやってみたいよね」


西園寺さんはイヤーマフを付けて、その筒を地面に立てたまま、その場に片膝をついた。


左手は筒の上の方を握って筒が倒れない様に支えている、左手は筒の下の方にある持ち手を握っている。


「はい準備完了。紗希、照明弾の装填をお願い」


「了解」


サキさんは西園寺さんが支えている筒に、照明弾を滑り込ませた。


ちょっと待って、迫撃砲ならスゴイ音でスグに発射・・・僕は慌てて耳を押さえるが・・・なにも起きない? 


まさか・・・不発?


「じゃあ、みんな耳を塞いで・・・発射」


そう言って、持ち手の辺りをグッっと握った。


キーン


慌てて耳を抑えたけど・・・僕だけちょっと遅かったみたいだ。


耳もキーンと痛くなって照明弾が飛んで行った先を見る余裕はなかった。



「綾女、サーサンタで使う照明弾はコッチが良さそうだね」


「ええ、街中ではちゃんとベースプレートと2脚を取り付けて使いましょうね」







一方、その頃・・・こちらはマイリアさん不在の中央ギルド。


今、このギルドでは、とあるウワサ話で盛り上がっていた。


『聞いたか? カーダンの爺さんがヴァームの・・・それも黒を手に入れたらしいぞ』


『さすがに・・・黒はウソだろ・・・』


『しかも、爺さん。そいつを手に入れる為に、金貨1000枚支払ったらしい』


のヴァームの黒なら金貨1000枚でも安いもんだ・・・もちろん俺はそんな大金持ってないけどな』


『確か、3代前の王が黒の空瓶を見て嘆いた・・・って話があったよな』


『噂だと、今の王も嘆いているらしいぞ』


そこに新しい燃料ウワサが投入された。


『おい、聞いたか・・・カーダンの爺さん、ヴァームの黒を2本手に入れて・・・』


『いくらなんでも、それは無いだろう』


『その内の1本をウーバン王に献上したそうだ・・・』


『『『ハア?』』』


『俺の弟が、王宮にいるんだが・・・本当らしいぞ』


『まさか・・・あの爺さん、本物の黒を手に入れたのか?』



そして、その燃料ウワサ話に喰いついたのは、偶然その場に居合わせた

ひときわ大きな体格のドワーフだった。



「おい、ドーナン、クリバン・・・その話、本当か?」


「ギ・・・ギルドマスター・・・」








※M224迫撃砲の射程は70m~3,490mとなっております。

また、通常の迫撃砲は筒に砲弾を滑り込ませることで発射しますが、この迫撃砲は持ち手の内側にあるレバーを握ると発射出来るように切り替えが出来るそうです。


※照明弾 弾頭の中に明るく発光して燃える物質とパラシュートとが組み込まれています。

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