第3部 第14話 マカの贈り物
〖ナオ〗
翌朝、サキさん達は起きてこなかった。
「昨夜は遅くまで話し込んでおられたみたいです」
「ん、サキの声うるさかった」
「まあ、オリウムさんの所は全員で行く必要も無いし・・・僕達は先に朝食をいただこうか?」
宿の1階の食堂に降りて行くと・・・
「皆さま、おはようございます」
キッチリと旅支度を済ませたマイリアさんが、この宿の名物らしい極太の腸詰めとフワフワ感とは無縁のずっしり重たいパンという、かなりボリュームのある朝食を食べていた。
キーラがキラキラした目で僕を見ながら袖を引っ張っている・・・
「ナオ・・・あれ2人分・・・」
「わかった・・・キーラは2人分だね?」
「わらわは、1人分で良いぞ」
「私も1人分でお願いします」
僕達は空いているテーブルに座って、給仕の人に声をかけた。
「・・・すみません、そちらと同じモノを4人分、それと僕には何か軽いスープがあれば、それを1人分お願いします」
朝食の後、サキさん達の事はミーラとキーラにお願いして、僕とミラセアはオリウムさんの用事を済ませるために宿を出・・・
「私もご一緒させていただいて良いですか?」
マイリアさん?
「わらわ達は王宮の西門で荷物を渡すだけじゃぞ?」
「朝食の量が多すぎました・・・少し歩きたいんです」
3人で王宮に向かうことになった・・・
ところが・・・西門の前にはハルバードを持った衛士が一人立っているだけで、肝心のオリウムさんの姿は無く、なぜかポツンと荷車だけが置かれていた。
荷台の上には何か灰色の
「オリウムドラムは・・・どこじゃ?」
荷台の上で、何かが・・・モゾリと動いたように見えた。
「今、動かなかった?」
荷車に近づくと、今度はブツブツ呟く声が聞こえてきた。
「ああ・・・どこで見たんだ?・・・あの資料か?・・・いや、そんなはずは無い」
この声・・・間違いなくオリウムさんだ。どうやら荷台の上に這いつくばって、開いた本と刻印を写した紙を見比べているようだ。
「あの~・・・オリウムさん?」
おそるおそる声をかけてみたが・・・悲しいことに気付いてもらえない。
パシッ!! 「グゥッ」
ミラセアの
「・・・オリウムドラムよ、お主はそこでいったい何をしておるのだ?」
「うん・・・ああ・・・
「もう一度聞く・・・な・に・を・し・て・お・る・の・だ?」
「も・・・申し訳ありません
「ほお・・・・」
「ところが・・・どこで見たのか思い出せず。資料を取りに戻るにも、この場を離れるわけにもいかず・・・」
「それで?」
「こちらの衛兵のお一人に何冊かの資料をドノガン殿の所に取りに行って貰いまして・・・」
「お一人とは? 衛兵殿は今も、お一人のようじゃが?」
「持って来て頂いた資料の中に見つけられなかったので、今はもう一度ドノガン殿の所に行っていただいております」
『お~い、次の本を持ってきたぞ・・・扉を開けてくれ』
「はい、ありがとうございます。今開けます」
門の中からの声に反応して、軽やかな身のこなしで荷車から飛び降り、西門の脇にある通用口に走るオリウムさん。
通用口を開けると、両手で重そうな何冊もの本を抱えた衛兵さんの姿が見えた。
「俺1人じゃ全部持って来るのは無理だった。残りの本はドノガン殿が持って来てくれるそうだ」
「ありがとうございます」
「おい・・・オリウムドラムよ」
「ナオ殿、申し訳ないですが。今日お持ちいただいた資料とも照らし合わせたいので、ここに出して頂けますか?」
「出すのは構いませんが・・・その荷車の上に出して大丈夫ですか?」
荷車の上には・・・
「すみません、やはり少し待ってください」
慌てて、本と紙束をまとめるオリウムさん。
「そういえば、ナオ殿・・・そちらの方は?」
ここでようやく、僕とミラセア以外にも人がいる事に気が付いたみたいだ。
「こちらは今回、サーサンタに同行する事になったギルドのサブマスター、マイリアさんです」
「そうでしたか・・・初めまして、私は今、こちらの王宮にお世話になっておりますオリウムドラムと申します」
「わらわの甥で刻印術の研究者をしておる・・・まあ、変わり者じゃ」
「私は中央ギルドのサブマスターをしております、マイリアと申します」
「はい、ナオどの・・・すみません、片づけ終わりました」
「わかりました」
【ストレージ】 ヴォン♬
オリウムさんから預かっていた大量の紙の束と資料、それと旅の荷物を荷車の上に置いていくと、荷車の上は粗方埋まってしまった。
「これで全部ですね・・・ナオ殿、ありがとうございます」
「ところで・・・オリウムドラム殿」
・・・マカ?
「・・・? マカお・・・」
マカは自分の唇に人差し指をそっと当てて、オリウムさんの発言を止めると、
一瞬だけ視線を後ろにいるマイリアさんに向けた。
「いえ・・・・どうかされましたか?」
「いや、先ほど君が言っていた『どこかで見たような形状の刻印』というのが、少し気になってね」
オリウムさんは紙の束から刻印を写した1枚の紙を取り出して、ある部分を指さして見せる。
「この部分です。これは玉座の周囲の床に刻まれた刻印の一部なのですが・・・これに似た形状を私は・・・どこかで見たような気がするのです」
「どこかで? それは刻印術関連の書物かなにかかな?」
「いえ、確か石に刻まれておりました・・・おそらく刻印術の調査の為に訪れた、どこかの遺跡ではないかと」
「そうか、すまないが・・・それをどこの遺跡で見たのか、思い出したら教えて欲しい」
「それは、もちろん構いませんが。単に私の記憶違いかもしれませんよ」
『お~い、エルフ殿。残りの本を持ってきたぞ』
またもや、門の内側から声が聞こえて来た。
衛兵さんが通用口を開けると、大量の本を抱えたドノガンさんが立っていて、僕の傍に浮かぶストレージの靄を見つめている。
「おい、その黒い靄は・・・なんだ?」
「これは、まあ・・・私のギフトだ。オリウムドラム殿、別に記憶違いでも構わん・・・あと、手間を掛けさせる礼だ、良いモノをやろう」
「良いモノですか?」
「ああ、そこの筆頭鍛冶師殿も、きっと喜んでくれるだろう」
ストレージから1冊づつ、本を取り出して積み上げていく・・・
その本を見るオリムルさんの目が大きく見開かれていき
ドノガンさんの顔がどんどん強張っていく・・・
「これはマ・・・いや、良いモノどころでは無いですな・・・〖
「こっちは〖鍛冶師ボルックの目録〗とボルックの実験の
「オーランの書庫にあった刻印術と鍛冶についての書物だ、良かったら持っていってくれ」
「・・・ 感謝します」
「それと、オリウムドラム殿。本人は内緒にと言っていたが、君の父君ミカラスキレア先王は体調を崩して寝込んでいるぞ」
「なんですと?」
「口止めされたのはミラセアクアラ殿とナオだからな、
私が告げ口する分には問題無いだろう、すまないが現国王にも告げ口を頼む」
「ありがとうございます。すぐに弟に文を送ります」
書物の表紙を眺めながら、ドノガンさんが深いため息をついた。
「はぁ~ 確か・・・ナオだったか?」
「ああ」
「これだけのモノを受け取っておいて、何も返さない訳にはいかない。わしに何か協力出来る事はないだろうか?」
「義理堅いな・・・それならば、購入資金はこちらで用意するので金塊・・・というか純金の地金を入手できないだろうか?」
「純金の地金? 確かに手に入らんこともないが・・・どのくらいの量が必要なんだ?」
「そうだな・・・1kgが3つと500gが6つ・・・これくらいかな?」
「それは・・・なかなかの量だな。わかった用意しよう」
マカはストレージから見た事の無い革袋を取り出した・・・
「これを・・・とりあえず金貨で1000枚あるはずだ。それと・・・ドワーフにモノを頼む時はコレを渡すのが礼儀だったな」
再びストレージに手を突っ込むと、中から1本の瓶を取り出して、ドノガンさんに手渡す。
「ほう・・・酒か、分かっているじゃ・・・」
瓶を手にしたドノガンさんの巨体が、瓶に貼られたラベルを見て膝から崩れ落ちた。
「ヴァームの・・・それも黒(ラベル)か?・・・・わし・・・死ぬのか?」
金貨の入っている革袋もドスンと地面に落ちたが、酒瓶だけは震える手にしっかりと握られている。
「死ぬ?・・・さすがにそれは大げさだろう?」
「何を言う・・・この酒はな、王宮の宝物庫にだってもう残っておらんのだぞ」
「城の宝物庫に酒を仕舞い込むとは、やはりドワーフだな。しかしそれは困った、王が持ってないのでは、気兼ねして飲めないではないか」
マカは同じ酒瓶をもう1本取り出してドノガンさんに手渡す。
「これはウーバン王に渡してくれ、そっちはドノガン殿が気兼ねなく楽しむといい」
ドノガンさんが2本の瓶を手に、膝をついたままの姿勢で巨体を震わせている。
〖ねえ、マカ。金の
《いずれナオの世界に行った時、向こうでもある程度の資金は必要になるだろう?》
〖えっと・・・金塊が合計で6kg?・・・・日本円だといくら? 数千万? いやもっとかな? でもどこで換金すれば良いの?〗
《そういうのは向こうに行ってから考えればいい》
〖ところで、あの革袋の金貨はナニ?〗
《安心しろ、私の
〖つまり・・・革袋の中身は千年前の金貨なわけだね?〗
《あっ・・・・》
〖普通に考えても付加価値が・・・希少価値やら歴史的価値・・・マカ、大丈夫?〗
《ナオ・・・今更、返せとは言えない・・・忘れよう》
〖〗ナオの声
《》マカの声
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