第3部 第13話 マイリアの決断・・・

〖ナオ〗


ここは、マイリアさんに用意してもらった、ギルド内の会議室。


この部屋にいるのは、マイリアさんと僕とミラセアの3人だけ・・・

他のメンバーには先に出てもらって、宿の確保をお願いしてある。


「それで、ナオ殿。とは一体なんですか?」


「マイリアさん・・・落ち着いて聞いてください・・・いいですか?」


「ナオ殿、先ほど見て頂いたと思いますが、あんなのが上司ギルドマスターなんです。

色々な事がありすぎて、もう少々の事では驚けなくなりました・・・

どうぞ、おっしゃってください」


どこか疲れた様子で自嘲気味に話すマイリアさんに、少しばかりの同情とある種の親近感を感じながらも、僕は・・・このを口に出した




「ルゼル湖の底にいたですが・・・どうやら




それを聞いたマイリアさんの表情が・・・次第に強張っていく


「・・・ちょっと待てください・・・ルゼル湖の底って・・・蜃竜しんりゅうの事ですか? アレが・・・よりにもよって、今ウーバン王がいるサーサンタに?」


そういえば、あの『黒いガチガチ』のこと、あの時は蜃竜しんりゅうって呼んでたんだっけ。


「はい・・・ちなみですが、アレ・・・蜃竜しんりゅうではありませんでした」


蜃竜しんりゅう・・・ではない?」


「ええ、アレ・・・混沌神エニピム(の一部)だそうです」


「はぁ~?・・・えっ・・・えにぴむぅ?」


マイリアさんの声が裏返り・・・頼りない僕ではなく、隣に座るミラセアにすがるように問いかけた。


「あの・・・呪姫さま? こんな事を聞くのは失礼かもしれませんが、それはさすがに・・・いくらなんでも、その・・・混沌神エニピムというのは、なにかの間違いではないでしょうか?」


「いや、おぬしがにわかに信じられぬのも無理は無いが・・・あれは混沌神エニピムじゃ」


って・・・あの混沌神エニピムですよね? なぜ、そんなモノがルゼル湖の底とサーサンタのにいるんですか? もしかして混沌神エニピムって双子ですか? いや、双子でも名前は違いますよね? おかしいでしょ?」


「あの・・・マイリアさん?」


「そもそも皆さんは、ついこの間まで凶王の遺跡に行かれていたはずですよね? あんな北の荒野の果てをうろついていたのに、どうして南の果てのサーサンタにがいるなんて言い出すんですか? こんな情報、いったいどこで入手したんですか?」


まあ、そうだよね・・・でも、マカの事は説明出来ない・・・


ここからは、マカやみんなと打ち合わせした台本シナリオ通り・・・





「実は、サウラタの街で水の精霊の愛し子が接触してきまして、サーサンタに危機が迫っていることを知らせてくれました。この情報は元々、水の精霊から教えてもらったモノだそうです」


マカ=水の精霊の愛し子、一応嘘は言ってない。


「水の精霊の愛し子? ・・・まさか、精霊人スピリアがサウラタにいるのですか?」


「僕達に接触してきた、その・・・精霊人スピリアは、いつもは騒動を避けて別の場所に隠れていると言ってました。水の精霊は今でもサウラタの水精石サウジアにいるそうですよ。」


「失礼ですが・・・その情報、信用できるのモノなんですか?」


「すまぬが精霊人スピリアが誰なのか明かす事は出来ぬ。かの御仁ごじんは我らに、みずからの事を明かしてまでサーサンタの危機を伝えにきたのじゃからな」


「わかりました・・・それではその情報、くわしく教えてください」


「はい、それでは説明しますね。どの書物にも残されていませんが、神々の戦いが起きた時、邪神側の陣営に混沌神エニピムがいたそうです・・・」


こうして僕は、頭の中でマカが話してくれる言葉を、必死にトレースしながら

マイリアさんに説明を終える事ができた。





「つまり・・・サーサンタ近くにも、混沌神エニピムの分体が封印されていて、あの黒い生き物はその混沌神エニピムの眷属だった・・・と?」


「はい、最近になってルゼル湖の赤い霧やサーサンタの黒い生き物が出てきたのは、精霊神もしくは大精霊が混沌神エニピムの分体に施した封印が解けせいかもしれません」


「よりにもよって、今、探索パーティーが血眼で探している、黒い生き物の巣に封印が解けた混沌神エニピムがいる・・・と」


「はい、それと水の精霊から・・・混沌神エニピムでも、あの黒い生き物でも無い他のナニカに気を付けろ、という警告を受けたそうです」


「水の精霊がわざわざ警告を出すような、危険な存在が少なくともいるということですか?」


「はい、サウラタで得たこの情報をウーバン王に報告する前に、ここのギルドマスターに伝えるべきか正直迷っていたのですが・・・まさか、あのような方だったとは」


「ご配慮ありがとうございます。あの男がこの事を知ったら、まちがいなく『サーサンタに混沌神エニピムが出た』と大騒ぎしていましたね」


「それで、大騒ぎでは終わらず・・・また、問題を引き起こすわけですか?」


「大騒ぎして不確かな情報をばら撒くだけでも大問題です・・・しかし今回は、不幸中の幸いと言いますか・・・巣の探索が難航していてくれて助かりました」


「探索って・・・進んでないんですか?」


「はい、あの黒い生き物に野営中の探索パーティーが何度も襲われましています。今は野営を諦め、サーサンタを基点に巣の探索を行っていると聞いています」


「それだと・・・サーサンタ近郊しか探索できませんね?」


「はい、ですので今は少しでも探索範囲を広げる為に、破棄した村の1つに簡単な砦を造っているそうです」


「なるほど・・・前進基地ですか?」


「もっとも、その砦から探せる範囲に巣がある保証もありません・・・もし見つからなければ、今度は別の村に次の砦を造る事になるでしょうね」


「しかし、大まかな位置すら不明なのは困りますね・・・」


「ギルドとしても・・・そうですね。とりあえずサーサンタ以外の地域に出かけているパーティーで、引っ張ってこれそうな冒険者、それもB級以上を選んで招集をかけておきます」


「招集理由はどうするんですか? 混沌神エニピムが出た、なんて絶対に書けませんよね? 冒険者たちもどんな魔物を相手にするかで装備を変えてくると思いますが?」


「今回は”未確認の大型魔物の情報あり” で招集をかけます・・・実際そうですから。詳細については現在現地で調査中といったところでしょうか?」


「そうですね」


「ところでナオ殿・・・」


「なんでしょう、マイリアさん?」


「明日の朝出発とお聞きしましたが、サーサンタへの到着はを予定していますか?」


「そうですね・・・明日の朝は、王宮の西門前で預かっている荷物を渡す約束をしていますので・・・明日は夜までにはサイラダームに着きたいですね。そうなるとサーサンタ到着は明後日の午後・・・まあ、順調に行けばですが」


「噂には聞いておりましたが恐ろしいスピードですね・・・それでお願いなのですが、私も一緒にサーサンタに連れて行って頂けませんか?」


「マイリアさんをですか?」


「はい、この混沌神エニピムの件、ギルドとしても国王と早急に話し合って対策を決める必要があります。それと、もう一つ・・・これは可能であればお願いしたいのですが・・・」


「可能であれば・・・ですか?」


「はい、私がなんとかウーバン国王を説得しますので、国王を王都に連れて帰って頂きたいのです」


「・・・あの王様が、説得に応じると思いますか?」


「おそらく大丈夫ですよ。あの王も先ほどの混沌神エニピムの話を聞いた後で、サーサンタに残る判断はしないはずです。王都で直接指示を出さないと、国内の戦力をかき集めるのも、国外に協力を求めるのも難しい、それは王自身が一番わかっているはずですから」


・・・断れる雰囲気じゃあ無くなって来たな。

ミラセアの顔を見ると頷いてくれた。


「わかりました、マイリアさん。一緒に行きましょう」


「ありがとうございます」





そして、ここは今夜の宿 大鎚亭おおつちてい・・・


「・・・というわけで、サーサンタにはマイリアさんも一緒に行く事になりました。

向こうでの状況にもよりますが、サーサンタに到着後はウーバン王を乗せて王都に戻ってくる予定です」


「え~ 向こうで対空防衛戦じゃないの?」


「わかりません。もしかすると王を乗せて王都に戻ってから、もう一度サーサンタに向かう事になるかもしれませんが」


「オリウムさんの代わりにマイリアさんが乗るわけだから、車両は今まで通りハンヴィー2台で大丈夫だよね?」


「行きは大丈夫じゃな・・問題は、ウーバン王を乗せる時じゃ・・・環状山地の時は、ウーバン王と救急車の後ろに乗ったが、あれは勘弁してもらいたい」


そうなんだ、救急車の後ろにはベッド兼用の3人座れるベンチシートが2つあるんだけど、片方にウーバン王が座ると、なんというか・・・距離が近いんだ。


「救急車の後ろは、ウーバン王1人で使ってもらってもいいかもしれないね」


「そうじゃな・・・サキよ、その時は何か別の車を見繕ってくれ」


「わかった・・・良いの探しておくね」


ああ、そうだ・・・これだけは念を押しておかないと。


「あと、サーサンタには明るい内に着きたいから、マカの射撃訓練も中止でお願いしますね」


「「「え~」」」





※アイロガの王都オリハガーダとサーサンタ、凶王の都オーランの位置関係ですが、

王都から東にイサーダの街、そこから東の国境を越えてサウラタ(現在は皇国領)。

サウラタから街道跡を5日程辿りながら北上した先がオーランです。

サーサンタは、王都オリハガーダから南西の街サイラダームを経由、そこから南下した位置になります。

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