第3部 第11話 中央ギルド、ギルドマスターの威厳


〖ナオ〗


「ギルドマスター、


あれ? マイリアさん。ちょっと待ってください・・・もしかして来客中なんですか?


ところが部屋の中からの返事は聞こえず・・・その代わりに聞こえてきたのは




 バンッ


『ふざけるなぁ~、おまえのそのあたまは、ただのかざりかぁ~?』


何かが激しくぶつかる音と・・・怒鳴どなりごえだった。



伝言なんか無視して、明日にすればよかったかな?



「すみません、どうやら中が騒がしくてノックの音が聞こえてないみたいですね」


ちょっと待ってマイリアさん・・・なに涼しい顔でまたノックしようしているの?


「マイリアさん・・・ ギルドマスターは、その・・・取り込み中のようですし、僕達は明日あらためてうかがうとお伝えください」


きびすを返して逃げ出そうとした、僕の耳に入ってきたのは・・・


『きさまぁ~、いま自分が何を口走っているのか、わかっているのか?』


ガタン・・・パリン・・・・・・・ドン


物騒な状況を想像させる怒声どせいと音だった。



西園寺さいおんじさんが、心配そうにこちらを見ている。


「わかりました・・・これは無視できませんね・・・でも、銃を使う訳にもいきませんし、僕達だけで止められるでしょうか?」


「ナオ・・・これ」


 キーラに手渡されたのは・・・小さな筒状の物体


XM84閃光発音筒スタングレネード・・・キーラ、なんでこんなの持ってるの?」


「このあいだ、サキに貰った・・・・・・って」


サキさんとキーラを除く、全員の視線がサキさんに集中するが、サキさんは黙って目を逸らす。


「ありがとう・・・マイリアさん、そのドアから離れてください」


「はあ・・・?」


「マイリアさん、ちょっとこっちに来てくださいね」


動こうとしないマイリアさんを、西園寺さいおんじさんがドアの傍から移動させてくれた。


「キーラ、僕が合図したら出来るだけ静かにドアを開けてくれるかな? 中を確認して、もし危険な状態だったらコレ使うから」


「ん」


「あと、僕が投げ込んだら、すぐにドアを閉めてね」


「ん、みんな・・・耳を塞ぐ準備」


ところが・・・僕がXM84閃光発音筒スタングレネードから慎重にピンを2本引き抜いたところで、マイリアさんが声をかけてきた・・・


「あの・・・皆さん」


「マイリアさん、危ないので少しの間、耳を塞いでおいてもらえますか?」 


「いえ、とかとか・・・何か勘違いをなさってませんか?」


「勘違い・・・ですか?」


キーラは・・・もうドアに張り付いて、ドアノブに手をかけて、僕の合図を待っている。


「ええ・・・今、怒鳴られているの・・・


「はい?」「なんじゃと?」


「さっきの怒鳴り声は・・・バーリン商会の商会長さんです。日頃は温厚な方なんですが、それをあんなに怒らせるなんて・・・」


「ナオ・・・もう開けていい?」


「ごめん、キーラ・・・勘違いみたい・・・ドアから離れてくれるかな?」


キーラはため息をついて、右手をだした。


・・・返して」


僕の手には2本ともピンを抜かれたXM84閃光発音筒スタングレネードが・・・


「えっと・・・ごめん・・・あれっ・・・キーラ、このピン戻さないと・・・これ、どっちに挿すんだっけ?」


キーラは何も言わずに首を左右に振る。


「ごめん、サキさん・・・知ってる?」


サキさんはニッコリ笑って、自分の持っているを取り出して見せてくれた。





そうして、マイリアさんは、まるで何事も無かったかのように再びドアを叩き・・


ドン ドン 


「ギルドマスター・・・お取込み中みたいですが、ちゃんと聞こえてますか?『俺が寝てようが、誰の相手をしてようが、とにかく連れて来い』って、偉そうに言ってましたよね? カリキュレーターの皆様をお連れしましたよ」


「おお、すまん・・・入ってくれ・・・」


聞こえてきたのは、ドワーフとは思えないほどだった。





部屋の中は・・・大きなソファーが後ろ向きに倒れ、テーブルの上は水浸しで割れた茶器が転がっている。


そして床には、灰色の髪と髭を蓄えた巨漢のギルドマスター、ボーダンさんが

正座をしたまま両手と前頭部を床に擦り付ける・・・いわゆる土下座どげざ最中さいちゅうで・・・


ボーダンさんの前に立つお爺さんが、さっきの怒鳴り声の主である商会長さんのようだ。


「マイリアの嬢ちゃん、聞いてくれ。このバカが追加でもう30台、馬車を用意しろと言ってきたんだ」


僕の隣に立っているマイリアさんの口角がキレイに吊り上がり、手に持ったファイルがミシリと音を立てる。



「いや・・・その・・・サーサンタへの補給物資の輸送、それと避難民の引き上げには、もっと馬車があった方が効率がいいはずだ・・・そうだろう?」


少しだけ顔を上げて上目遣いに、商会長とマイリアさんをチラチラと交互に見ながら、小さな声で釈明を始めるボーダンさん。


「ギルドマスター・・・私から、何度も説明しましたよね? サーサンタに送る物資は、今朝出発した分と今回バーリン商会が用意してくれた馬車に積む分で、ひとまず足りている・・・と」


「でも、サーサンタのアレは間違いなく長期戦になる、今の内には打っておきたいじゃないか」


なんだろう・・・このギルドマスター、結構まともな事を言っているように聞こえる・・・


なのに、それを聞いたマイリアさんと商会長は顔を見合わせて


「「はぁ~」」


深いため息をついた・・・


「どうする? こいつ・・・こんな事を言ってるぞ・・・マイリアの嬢ちゃん」


マイリアさんは、手にしたファイルから1枚の紙を取り出して、

ギルドマスターに突き付けた。


「ギルドマスター、に約束しましたよね? 『』って」


「・・・はい」


ギルドマスターのあまりに弱々しい返事が、全てを物語っていた・・・

そうか、このひと・・・









※ギルドマスターのボーダンとは、〖第2部 第33話 王冠に刻まれし謎〗ウーバン王と一緒に一度会っています。


XM84閃光発音筒スタングレネード 手榴弾の一種で、爆発すると凄まじい音と閃光を発して、近くにいる人の視覚と聴覚にダメージを与えます。

安全装置として2本のピンが挿しこまれていて、2本のピンを抜いてから使用します。ピンにはそれぞれ丸と三角のリングがついていて見分けがつくようになっています。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る