第3部 第6話 昏倒

〖ナオ〗


「レオパルトⅡ・・・私がずっと探してた。ドイツ製、NATOの主力戦車よ」


サキさんの大声のせいで、夕食を終えてそれぞれ自由に過ごしていたみんな・・・刻印術エグノスの写しにのめり込むように見入っていたオリウムさんまでが、何があったのかとこちらに集まってきてしまった。


僕は集まって来たみんなに、実はストレージの中に赤いモザイクで隠されて見る事が出来ないがあった事。その赤いモザイクをマカと協力して解読する事に成功した事。そして、その解読内容をサキさんに見せたところ、先ほどのような声をあげたことを順番に説明した。


「そうかリストか・・・ならば、サキが叫び声をあげるのはじゃな」


とミラセアの様に納得する者もいたが、ミリオタ達の意見は様々で・・・


「いや、それだけ思わせぶりに赤いモザイクを掛けておいて、中身がただの戦車レオパルト? それは完全にトラップだろ? 定番だとリストの表示はレオパルトⅡで、取り出したらタイマーが作動中の爆破5秒前の爆弾ってパターン。 紗希、まさかこんなわかりやすいトラップ、わざわざ踏みに行かないよな? 今回は絶対にダメだぞ」


「たぶんトラップよね、まあ中身は本物のレオパルトⅡかもしれないけど、その中に爆弾か致死性のガスが仕込まれているパターン? もちろん、出すのは絶対に反対よ」


「もっと単純な理由じゃないの? 他の大事なモノを保管するつもりが、間違えて隣に書いてある戦車にモザイクかけちゃったとか。

でも紗希ちゃん、私達って今朝、細菌兵器の実物を見たところなんだよ・・・このタイミングで赤いモザイクの中身を考え無しに取り出そうというのは、さすがに反対」


「でも、レオパルトⅡなんだよ・・・・」


サキさんだけは納得していないみたいだけど、3人共取り出すのは反対してくれたのでちょっと安心した。




「ところで、長谷川っち」


「なんでしょう・・・早乙女さおとめさん?」


「いや、このレオパルトⅡを取り出さないのはまあ当然として、これで赤いモザイクはの協力があれば解読出来る事がハッキリしたわけだよね?」


「まあ、これで見えなかった文字を見えるようには出来たのかな?」


「それならさ、せっかくだから他の赤いモザイクもいくつか解読してみない?」


「えっ?」


「ほら、今回はレオパルトⅡなんてわかりやすい文字が出てきたせいで逆に混乱しちゃったけど、その赤いモザイクって他にもあるんでしょ? やっぱり2~3個解読して内容を比較しないと、次元神メザキユが赤いモザイクをかけた理由や意味も分からないと思うんだ」


「確かにそうだね。マカ、せっかくだからやってみようか?」

「そうだな・・・やってみるか」


こうして、次はみんなに見られながら赤いモザイクの解読をすることになった。




みんなの視線を感じながら、椅子に座って目を閉じる。



〖じゃあ、マカ。さっきと同じでいい? 今回も3回連続で良いよね?〗

《ああ、次の赤いモザイクの部分は・・・ココか?》

〖そう、マカ・・・準備いい?〗

《大丈夫だ・・・》



【カース・ミューテーション】

【トランスレーション(言語翻訳)】


【カース・ミューテーション】

【トランスレーション(言語翻訳)】

・・・あれ?


【カース・ミューテーション】

【トランスレーション(言語翻訳)】


今、ギフトを使ってみて・・・なんとなくわかった・・・これ・・・2回目と3回目のギフトは発動出来てない・・・



「ごめん、みんな・・・ダメだ、理由はわからないけど


僕は、あからさまに落胆しているサキさんを少し気の毒に思いながら、椅子から立ち上がろうとして。


「あ・・・れ?」


気が付けばそのまま前のめりに草の上に倒れ込んでいた。


あわてて立ち上がろうとするが、どうしてか手足に力が入らない。


ズキッ


今度は心臓の鼓動に合わせるように頭の両側がズキズキと痛みだし・・・


身体のそこら中から変な汗が出てくる感覚


「ナオ、どうした?」


「ゴメン、ミラセア。頭が・・・痛い・・・それと動けない」


草の上にうつ伏せに倒れたままで応える僕を、ミラセアが抱き起してくれ

ミーラが近づいて来て、僕の額に手を当てる


「ナオさま・・・かなり熱いです」


「ゴメン・・・マカと一緒に3回連続でギフトを使おうとしたんだけど、2回目以降は発動しなかったみたい。それと、頭がズキズキ痛むのと胃の辺りがものすごく気持ち悪い」


「ナオ、この感じ・・・皆を引っ張り込んだ時と一緒かもしれない。クソ野郎の作ったモノに干渉した反動か症状はもっとキツイようだが・・・このギフトの連続使用、これはあまり多用出来ないみたいだな」


「頭痛い、気持ち悪い、フラフラする。船の上でこんな症状になって、僕・・・よく生きてたね」


「あの時は、中々船室から出てこようとしなかったが、たまに見かけた時は今にも死にそうな顔をしておったな」


「長谷川さん、気分の悪い所申し訳ないんだけど。ギフトが発動しないって・・・それってストレージは使えるのかな?」

その一条いちじょうさんの問いかけに、みんなの顔色が変わる


「どうだろ・・・」


まずい、もしストレージが使えないなら、まず、今出している2台のハンヴィー以外の車両も出せない。それにここに出した椅子とテーブルを積む車両がない・・・




【ストレージ】 ヴォン♬

無事にギフトは発動して目の前に黒い靄が現れた・・・


「・・・いちおう、使えるみたい」


「良かった。それじゃあ、救急車のハンヴィー出してくれるかな。長谷川さんには

後部のベッドで寝たままで移動してもらうことになるから」


ストレージから救急車のハンヴィーを取り出すと、キーラが後部ハッチを開けて

中から病人搬送用の担架タンカを取り出してきた。


「ナオ・・・コレ乗る」


やけに嬉しそうだ。前はキーラ、後ろはミーラが担当して僕を運ぶつもりらしい・・・

いや、ハンヴィーの救急車も僕が取り出したからすぐ目の前にあるんだけど。


「ミーラ、僕・・・歩け」


「ナオ・・・コレ乗る」


ごく短い距離の担架タンカ移動のはずが、僕がフラフラしいていたせいか、すごく大きく揺れたような気がする。




ベッドに横になって目を閉じていたが、ふと人の気配に目を開けた

「どうしたの・・・早乙女さおとめさん?」


「長谷川っち・・・大丈夫?」


「まだ頭が痛いけど、かなり楽になったよ・・・どうしたの?」


「ごめんね、私が赤いモザイクの解析をやろうって言ったばっかりに、こんな事になって」


「それは気にしないで良いよ。今回は大丈夫でも、いつか残りの赤いモザイクを解析しようとして、絶対に同じ事になってたはずだから」


「でも良かった、長谷川っちが倒れた時はてっきり野兎熱のうさぎねつに感染したのかと思ったから」


「えっ?」


「ほら、長谷川っちのNBC防護服がちゃんと着れてなくて、あの金属ケースの密閉が不完全だった場合、長谷川っちが野兎熱のうさぎねつに感染した可能性もあるのかと・・・ああ、ギフトの方で良かった」


早乙女さおとめさん、そんな事を考えてたの」


「長谷川っち、目が赤くなってたから・・・もしかして野兎熱のうさぎねつっていうくらいだから兎みたいに目が赤くなるのかな・・・とか?」


「僕の目が赤いのは、昨夜早乙女さおとめさんに防護服を出すように言われて、

心配で夜眠れなかったせいだと思うよ」


こうして僕は、サウラタに到着するまでの数日間、ハンヴィーのベッドの上で揺れに耐えながら過ごす事になってしまった。



〖〗ナオの声

《》マカの声

※作中では野兎熱のうさぎねつと言っておりますが、日本国内での表現は野兎病やとびょうだそうです。ペストに似た症状で野兎などのげっ歯類に触れるもしくはマダニなどを介して感染するそうです。

感染後1週間ほどの潜伏期間の後に発熱・悪寒・頭痛・筋肉痛・関節痛などの症状

が出るそうですが・・・目が赤くなるとは書かれていませんでした。

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