第3部 第4話 リスト解読会議・・・再び 

〖ナオ〗


「長谷川さん、今夜はでお願い!!」


サキさんがそんな事を言い出したのは、オーランの廃墟を出て最初の野営地を決めたすぐ後のことだった。




そういうわけで、今・・・夕食はサキさんリクエストのMREレーション・・・


カントリー・キャプテン・チキンという名前の、鶏肉のカレー風味トマト煮込み・・をぶつ切りのパスタにかけたモノ・・・を眠そうなオリウムさんまで巻き込んで、

みんなそろって食べています。


「これ・・・紗希・・・あなた前に、パスタじゃなくてご飯が欲しいっとか騒いでなかった?」


「そうだ、確か前は・・・『このパスタ美味しくない』って、全部食べ終わるまで言ってたな」


「言ったわよ、でもだけはこのメニューじゃないとダメなの」


「長谷川っち、自衛隊のレーション無いの? そっちならご飯あると思うけど」


早乙女さおとめさんごめんね。レーション自体の種類はけっこう多いんだけど、今のところ見つかっているのはこのMREレーションだけなんだ」


ライスごはん? チキン&ライスとライス&ビーンブリトーあるよ?」


「キーラ・・・MREレーションのメニュー、僕よりずっと詳しいね」


「ところでサキ、なんでカントリー・キャプテン・チキン一択なんだ?」


「この後のリスト会議よ、戦車が見つかる様に・・・ほら、みんなでコレを食べながら”戦車て”ってお祈りするのよ。戦車といえばこのメニューしかないでしょ?」


「戦車にこのメニューって・・・何かあったか?」


「カントリー・キャプテン・チキンといえば、戦車大好きパットン将軍の大好物よ。さあ、これを食べて今度こそ戦車を見つけるわよ」

サキさんが拳を握りながらこのメニューを選んだ理由を力説しはじめた。


「一応、架橋戦車は見つかったじゃ無いか」


「大砲が付いて無い戦車なんて、そんなの戦車じゃないわよ。

もう・・・骨とう品のパットン戦車でもいい、お願いだから見つかって」


そう、意気込んで食べていたのだが・・・



僕がおそるおそる差し出したノートを見た4人は・・・どういうわけか、それぞれまったく違った表情をみせた。


サキさんは、わかりやすく怒りに顔を引きつらせ


西園寺さいおんじさんは困惑を隠せないようすで


一条いちじょうさんは笑いをこらえた口元を引きつらせながら


そして・・・早乙女さおとめさんは・・・なぜか感情が抜け落ちたような無表情になっていた。


正直に言おう、早乙女さおとめさんの無表情が一番怖かった。




「どうゆうこと?」


サキさんが、いつものように僕に詰め寄る


「ねえ、長谷川さん・・・おかしくない?」


「えっと・・・紗希さん。 お願い、僕に詰め寄る前になにがおかしいのか説明して」


「だってマカさんがストレージから適当に取り出したのが、アメリカ軍現行主力戦車M1エイブラムスだったんだよ。 それなのに・・・なんでこんなに戦車が出無いの?」


「なるほど・・・という事は戦車は無かったわけだね?」


サキさんは、三者三様の表情をしている3人の方を振り向いて問いかけた。


「あんた達も・・・無かったよね?」


困惑の表情をしていた西園寺さいおんじさんが真っ先に反応した。


「そうね、戦車は見つけられ無かったわ。まあ、ちょっと扱いに困りそうなモノを

見つけてしまったの・・・」


「扱いに困るって何よ?」


「大きな爆弾・・・たぶん爆撃機なんかに積んであるタイプね」


「・・・どれ?」


「ここ・・・mk84 2000ポンド爆弾・・・確か量産されている爆弾の中では最大級のモノ。まあ使い道が無いとは思わないけど、コレって航空機から投下するタイプの爆弾よ・・・どうしようか?」


「どうだろ・・・信管の辺りに遠隔起爆装置付のプラスチック爆薬C4でも貼り付けたら起爆できるかな?」


「どこかで実験してみる? 2000ポンド爆弾って、どれくらい離れたら安全なんだろ?・・・誰か知ってる人いる?」


「知らないな・・・もし実験するにして、広い場所で十分距離を取る? それとも大きな穴を掘って、その中で爆発させるとかかな?」


「大きな穴ね・・・それなら、あの底の抜けたルゼル湖なら実験できそうじゃない?」


「まあ、どちらにしろウーバン王には会いに行くわけだし。その時にルゼル湖での実験について聞いてみようか」



次は一条いちじょうさんが出てきて、リストの一部を指さす。


「次は私だな、長谷川さん。ゴメン何も言わずにだしてくれる」


「あ・・・はい」


言われるままにストレージから取り出したのは・・・これ戦車・・・だよね?

形は戦車だと思う・・・ちょっと短いけども付いている。


ただ、それ以上に砲塔の両脇を支点にした大きなクレーンがまるでタラバガニの脚みたいにその存在感を主張している。


「やったなサキ、お前の希望通りのパットン戦車だぞ」


「確かに・・・大砲の他にも付いてるけど、戦車・・・なんだよね?」


「ナオよ、あの長い腕のようなモノはクレーンと言うのか?」


「そうだね、普通は重たい荷物の積み下ろしなんかに使う機械なんだ」


どうしたんだろう・・・早乙女さおとめさんが静かだ。

いつもなら真っ先にサキさんをあおるのに何も言わない・・・




「それで一条いちじょうさん・・・コレは何なんですか?」


「ああ、これはM728戦闘工兵車って言う車両で・・・戦場でも大活躍するらしいよ・・・ブルドーザーやクレーンの代わりとしてだけどね」


「私も実物を見るのは初めてですわね。あの大砲、確か破砕砲はさいほうって言うんでしたか? 邪魔な壁や建物を壊すのに使われるのだとか」


「この工兵車のベースになっているのがサキの言っていたパットン戦車なんだ。これはサキの祈りが届いたのかもしれない・・・まあクレーンとブルドーザーが一緒になった土木作業が主任務の建設機械だね」



「・・・私の主力戦車メインタンクは?」


そんな、騒ぎもあって・・・最後はいつもと様子の違う早乙女さおとめさんの番になったのだが・・・




早乙女さおとめさん、ゴメンお待たせしました」


「長谷川っち。実は・・・私のを確認するのはにして欲しい」


「なによ、椿。待たせたから怒ってるの?」


「違う、万が一の時は全員で。確認は明日の撤収準備をしてからの方が良い」


「えっ?」


「明日、私と長谷川っちはNBCで、みんなは危険だからM2ブラッドレーの中に退避しておいて。ブラッドレーの中は一応NBC対策がされているはずだから。それで・・・いつでも逃げられるように準備しておいてほしい」



「椿・・・あんた、いったい何を見つけたの?」


「あくまで、念のため。ここなら。確認にはある意味好都合」









※パットン将軍・・・アメリカ陸軍の軍人で映画『パットン大戦車軍団』が有名です。第二次世界大戦後に開発されたアメリカ製戦車のいくつかにパットン戦車の愛称がつけられています。


※カントリー・キャプテン・チキンはパットン将軍の好物という理由で

MREのメニューに加えられたそうです。私は、もちろん食べた事ありません。


※チキン&ライス、チキンライスのレトルトみたいです。


※ライス&ビーンブリトー、ライスと豆を煮込んだモノをブリトーの皮で包んだモノ

味は不明ですがベジタリアンメニューのようです。


※架橋戦車 第2部 第11話参照 橋の無い谷や川を渡るための橋を架ける機能を持つ戦車です。


※mk84 2000ポンド爆弾 重さ907kg 戦闘攻撃機や爆撃機から落とすタイプの爆弾の中では一番大きなサイズになるようです。

この爆弾1発で直径15m深さ11mのクレーターが出来て、被害半径は350mほどになるそうです。



※M728戦闘工兵車 古い戦車を改造して作ったブルドーザー兼クレーン

動けなくなった車両を牽引したり、防御陣地を作ったりと大活躍するに違いないです。


※NBC防護服・NBC対策 N:核兵器 B:生物兵器 C:化学兵器 が使用された

地域で活動する為の防護服です。そして、初期型のブラッドレーにはNBC防御フィルターユニットなるモノが取り付けられていたそうです。

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